米FRB 2会合連続利上げ見送り インフレ落ち着く傾向などが要因

アメリカのFRB=連邦準備制度理事会は金融政策を決める会合を開き、1日、利上げを見送り、政策金利を据え置くことを決定したと発表しました。インフレが落ち着く傾向が続いていることや長期金利の上昇傾向が家計や企業にとって負担となっていることが主な要因です。

FRBは31日と1日、金融政策を決める会合を開き利上げを見送り、政策金利を据え置くことを決定しました。

FRBが利上げを見送るのは前回、9月に続き2会合連続です。

政策金利は現在の5.25%から5.5%の幅を維持します。

利上げ見送りの要因としてはインフレが落ち着く傾向が続いていること、長期金利の上昇によって家計や企業の借り入れコストが増え、負担となっていることが主な要因です。

ただ、先月26日に発表されたGDP=国内総生産は、個人消費が強く、5期連続のプラス成長となるなどアメリカ経済の堅調さは際立っています。

パウエル議長は会合終了後の記者会見で「経済成長が続き労働市場が再びひっ迫すればさらなる金融引き締めが正当化される可能性がある」と述べました。

その上で▽原油価格の上昇につながりかねないイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突の拡大や▽アメリカの予算案を巡る議会の混乱と政府機関の閉鎖など多くのリスクがあるとして追加の利上げ判断はこうしたリスクや今後発表される経済指標を見極めて判断していく考えを改めて強調しました。

パウエル議長発言

「賃金の伸びに緩和の兆し」

会合後の記者会見で、FRBのパウエル議長は利上げを見送った理由として「労働市場はまだ、ひっ迫しているが需要と供給のバランスは改善傾向にある。失業率は3.8%と依然として低い。移民の数も新型コロナの感染拡大前に戻っており、名目上の賃金の伸びには緩和の兆しが見られる。また、インフレ率は昨年半ばから落ち着く傾向になり、ことし夏にはかなり良好な数値が示された」と述べました。

「米長期金利の上昇 FRB期待の政策を反映したものではない」

「長期金利の上昇はFRBが期待する政策を反映したものではない。政策金利を引き上げたことが長期金利の上昇を引き起こしたとはみられない。最も重要なことは、アメリカ国債の金利上昇は家計や企業の借入コストの上昇につながっていることだ。こうしたことは経済活動の重荷となる。住宅ローンの金利が8%近くなり、住宅市場に大きな影響を与える可能性がある」

「さらなる金融引き締めが正当化される可能性も」

FRBのパウエル議長は利上げの判断について「不確実性とリスク、そしてこれまでの政策効果を考慮し、慎重に判断している。FRBは今後発表される経済データを総合的にみて政策を決めていく」と述べました。

そのうえで「一度や二度の会合で利上げを見送ったからといって再利上げが難しくなるという考えは間違っている。金融引き締めによってインフレを完全に抑え込むという効果はまだ感じられない」としたうえで「今後も潜在成長率を上回る経済成長が続き、労働市場が再びひっ迫する新たなデータがあれば、さらなる金融引き締めが正当化される可能性がある」と述べました。

パウエル議長発言でNYダウ 200ドル超の値上がり

ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は200ドルを超える値上がりとなったほか、円は買い戻されて、1ドル=150円台後半までいくぶん値上がりしました。

1日のニューヨークの金融市場はFRBが1日まで開いた金融政策を決める会合で利上げを見送ったことに加えて、記者会見でパウエル議長がアメリカの長期金利の上昇について、「FRBが期待する政策を反映したものではない」などと発言したことを受けて年内の追加利上げの可能性が低下するとの見方が広がりました。

このため株式市場では利上げで景気が落ち込むことへの懸念が和らぎ、買い注文が増え、ダウ平均株価の終値は前日と比べて221ドル71セント高い、3万3274ドル58セントでした。

IT関連銘柄の多いナスダックの株価指数も前日に比べて1.6%の大幅な上昇でした。

また、外国為替市場ではパウエル議長の発言を受けてアメリカの長期金利が低下したことから日米の金利差縮小が意識されて円が買い戻され、円相場は一時、1ドル=150円台後半までいくぶん値上がりしました。

市場関係者は「FRBは想定よりも金融引き締めには積極的ではないとの受け止めが広がった」と話しています。

これまでの政策の経緯

FRBが利上げを開始したのは去年3月。

それまでのゼロ金利政策を解除して金融引き締めへと転換します。

金融引き締めによって景気を冷やすことでインフレを抑えこむ狙いでした。

しかし、その後もインフレに収束の兆しは見えず、去年6月の消費者物価指数は前の年の同じ月と比べて9.1%の上昇と、およそ40年ぶりの記録的な水準となりました。

FRBは去年6月以降、11月の会合まで4回連続で0.75%という大幅な利上げを決めました。

その後発表された消費者物価指数は上昇率が前の月を下回る傾向が続いたことなどから去年12月の会合では利上げ幅を0.5%に縮小、さらに、2月1日に結果を発表した会合では0.25%に上げ幅を縮小しました。

これまでの急速な利上げの影響を受けてことし3月から5月にかけては3つの銀行が経営破綻しました。

銀行が保有していた債券の価格が下落し、債券の売却で損失が出たことで経営への懸念が高まったことが要因でした。

こうしたなかでもFRBは利上げを継続し、去年3月以降、ことし5月の会合まで10回連続で利上げを決めました。

6月の会合ではそれまでの金融政策の影響を評価するためなどとして去年3月以降初めて利上げを見送りました。

一方、7月の会合では、インフレの要因である人手不足が続いていることなどから0.25%の利上げを決定し、政策金利は5.25%から5.5%の幅となり、2001年以来、22年ぶりの高い水準となりました。

これでFRBの利上げは去年3月以降、合わせて11回に及びます。

前回、9月の会合では人手不足の改善の兆しが見られることなどから2会合ぶりに利上げを見送りましたが、同時に会合参加者の政策金利の見通しを公表し、年内にあと1回の利上げが想定される内容となりました。

また、この見通しでは来年は想定される利下げの回数が減る形となり、高い金利水準が続くとの見方が市場には広がりました。