別れるときが危ない!交際相手がストーカーに…

別れるときが危ない!交際相手がストーカーに…
「怖いです、ただ恐怖でした。別れて終わったんだと安心していたんですけど…」

女性の元交際相手は、別れて数か月後にナイフを持って女性のマンションに潜んでいました。

ストーカーの加害者で特に多いのが「元交際相手」。

専門家によると、重要なのは「別れ方」だといいます。

(名古屋放送局ディレクター 村上裕子)

元カレがストーカーになる恐怖

かつて命の危険を感じるストーカー行為を受けた女性は、今もそのショックを引きずっているといいます。

元交際相手は、つきあっている時からだんだん仕事をしなくなりました。

お金のトラブルも増え、限界を感じて別れました。
ストーカー被害を受けた女性
「つきあい始めはよかったんですけど…。相手は別れたくないと言っていたけど、無理だからって言いつづけて相手が折れたというか。これで終わったんだなって安心していたんです」
その数か月後、元交際相手は女性の住んでいるマンションに侵入。不審に思った管理人が通報し、逮捕されました。

ナイフを持っていて、部屋への侵入方法と女性の帰宅時間を調べ上げた「犯行計画」も見つかりました。

元交際相手はストーカー規制法違反などの罪で有罪判決を受けました。調べに対し、「心配だったからどうしても会いたかった」などと供述していたということです。

女性は別れる際、相手が自分を殺そうと計画までするとは想定していませんでした。
ストーカー被害を受けた女性
「管理人さんが元交際相手を見つけてくれなかったら、たぶん私はいまここにいません。自分の対応が悪かったせいでこんなことになってしまったのではないかと…人に迷惑をかける生き方をしているのが申し訳なくて、いない方がいいんじゃないかって思っていました」
別れ際や別れた後に相手がストーカーになり、命が狙われる悲劇はたびたび起きています。

今年1月には、元交際相手の執ようなストーカー行為の末に、女性が博多駅前の路上で刺殺される事件が起きました。
警察庁のまとめによりますと、警察に寄せられるストーカーの相談では、被害者の90%近くが女性ですが、男性からの相談も毎年2000件以上。そのうち最も多いのが、加害者が交際相手(別れた後を含む)のケースで、37%に上っているのです。

専門家に聞く “準備は交際中から”

これまで20年以上にわたって、ストーカー被害者3000人、加害者700人以上の相談にのってきたカウンセラーの小早川明子さんは、「交際相手が男性であっても女性であっても、『別れ方』が肝心」と5つのポイントをあげています。
最初のポイントは、「準備は交際中から」です。

「どんな交際相手でもストーカーになりうる」と考えて、交際を始めた当初から万一の別れに対して備えることが必要だと言います。

例えば、「スマホを勝手に見たら別れるよ」といった条件をあらかじめ伝えておくこと。

「ずっと一緒にいようね」「いつか結婚しようね」のような将来の約束をしないことなどです。
カウンセラー 小早川明子さん
「ストーカーは律儀で正義を振りかざす人が多いです。約束したことをずっと覚えていて、“あのときこう言っていたじゃないか”となる。だから追いかけてくる理由をなるべく作らないことが大切です。また、執着心も強い人が多く、一度ターゲットとなってしまうと別れるのがとても難しくなるので、一緒にいて苦しいと感じたら、執着が少ないうちにできるだけ早く別れる方がいいです」

別れを決めたら、計画を立てて

次に、別れることを決めたら、その気持ちを相手に知られないように準備を始めましょう。

まず、それぞれの家にある持ち物の整理です。

衣類や相手が買ったものなどを分けておくことで、相手に「追いかけてくるための理由」を作らせないためです。
あわせて、逃げ場所を考えておきましょう。

一時的に身を隠す実家や友人宅を確保し、相手に知られないようにしておくことが大事です。

“別れはハッキリと伝える”

続いては、別れを伝える時はあいまいな言葉ではなくハッキリと伝えることです。

ここで大事なのは、「一緒にいるとつらい」「もう好きとは感じない」と自分の気持ちだけを伝え、相手の批判はしないこと。「あなたの○○なところが嫌だから」などと伝えると、「そこを直すから!」と言い返されてしまうからです。

小早川さんは、相手を怒らせないように「またね」などの優しい言葉を使うことも、誤解を招いてしまうといいます。

別れを告げる場所は人目のある場所が良いです。喫茶店やレストランなどです。

別れを告げても受け入れてもらえず、「最後に会って話したい」と言われても会わないことです。言いたいことは第三者を介するように伝えましょう。少なくとも密室では絶対に会わないことです。

もし、すでに暴力をふるわれていたら、別れを告げるのはメールや置き手紙にしてください。
メールや置き手紙では、相手の呼び方は名字、文章は敬語を使い、交際関係を終わらせたいことがはっきり分かるようにすることが大切です。

ただ、ここでもう1つ注意点があります。

別れをハッキリと告げることは大切ですが、小早川さんの経験上、急に連絡を絶つのは逆に危険だといいます。
カウンセラー 小早川明子さん
「もう連絡してこないでと言いたいところですが、一回目の別れ話では言わない方がいいです。別れ話と連絡拒否を一緒に伝えると、相手の“許容量”を超え、パニックになる人が多いんです。メールのやりとりを数回続け、3回目ぐらいでもう連絡しないでほしいと伝えるぐらいでいいと思います」

ひとりで対応せず、周囲の協力をあおぐ

それでも連絡が来る場合、どうしたらいいのか。

小早川さんは「本人以外の連絡窓口を立てること」をすすめています。

連絡窓口になりえるのが、親、弁護士などです。
カウンセラー 小早川明子さん
「普通の人は、連絡してこないでと言われたり、SNSをブロックされたりしたら『もう交際は終わりなのだな』と理解できますが、ストーカーになるような人はそれが受け入れられません。言い分が必ずあるので、吐き出す場所があった方がいいと思います。学生の場合、最初の一手として親が入る方が、相手を刺激せずに自然です。金銭的な要求がある場合は、弁護士を依頼するのも良いと思います」
ストーカー行為がすでに始まっている場合は、家族や学校、職場に事情を説明し、みんなで被害者を守る体制を作ることが重要です。

学生のストーカー被害の場合、加害者と被害者が同じ学校の生徒であれば、学校の立ち会いのもと、当事者同士で「もしこれ以上つきまとったら転校する」とか合意書を交わすなどの方法をとることもできます。

職場の同僚であれば、ハラスメントになりますので、上司に相談し対応してもらってください。

早めに警察に相談を!

最後のポイントが「警察への早めの相談」です。

「警察に相談しても動いてくれないという印象が…」という人もいるかもしれませんが、警察庁の報告書には、警察が「警告」を出すと、8割はストーカー行為をやめているというデータもあります。

小早川さんは、つきまといや乱暴な言動、何度もメールを送ってくるといったストーカー規制法で規制されている行為が一つでもあれば、すぐに警察に相談に行ってほしいといいます。
実際に被害者が相談に訪れたらどのような対応をしてもらえるのか、ストーカー問題に積極的に取り組む京都府警に聞きました。

相談は基本的には対面で、性的な内容が含まれる場合は同性の警察官を要望することもできます。

確認しているのが、ストーカー被害の「証拠」です。
例えば、メッセージが連続してきたときのスクリーンショットや、待ち伏せしている写真です。

1回だけでなく複数回行われていること、また「嫌だ」としっかり意思表示をしていることも重要な証拠なため、できるだけ持ってきてほしいといいます。
また、防犯カメラを貸し出していて、必要に応じて設置に来てくれます。

GPSのついた端末も貸し出していて、緊急時にボタンを押すと助けを求めた場所に警察官が駆けつけてくれます。
最後に、警察にどんな対応を希望するのか、「意向確認書」に記入します。
ここで、「刑事手続き」や「行政手続き」を求めるのか、あるいは今は相手に接触してほしくないのか選択します。

「刑事手続き」は逮捕などに向け捜査を求めるものです。
「行政手続き」はストーカー規制法に基づき、「警告」や「禁止命令」を出すよう求めるものです。さらにストーカー行為を続けたら逮捕されることもあります。

どちらの対応を求めても警察が捜査し、証拠集めもしてくれます。京都府警ではどの対応が適切か、アドバイスもしています。
京都府警 人身安全対策課
「相談者さんの状況を警察で確認して、『もう逮捕しないとあなたの身が危険ですよ』と説得しています。なぜなら、自分の被害はたいしたことじゃないという方が大勢いらっしゃるんです。あなたの身を守るために、これは相手に注意をしましょうとか、その1歩上の対応でいきましょうとご説明しています」

取材後記 被害者をなくすために

警察にはなにか具体的な被害がないと行ってはいけないのかと思っていたのですが、「以前はそういった面もあったかもしれないが、今では何かある前に素早く行動を起こすのが基本というように変わってきた」と話していたのが印象的でした。

紹介した5つのポイントを実践したら、必ずストーカー問題が解決するというわけではありません。ただ、小早川さんは多くのストーカー加害者たちと接してきて、「大きな事件を起こす前に、引き返せるチャンスは数多くある」と感じています。

あなたの身を守るため、少しでも手助けになればと思います。
《ストーカーに悩んでいる方の相談窓口》
お住まいの地域の警察署ではストーカー被害の相談がしたいとお伝えください
(10月4日 あさイチで放送)
名古屋放送局ディレクター
村上 裕子
2003年入局
主に子育てや家族の問題、子どもへの性暴力などについて取材