不妊手術強制の旧優生保護法めぐる訴訟で統一判断へ 最高裁

旧優生保護法のもとで障害などを理由に不妊手術を強制された人たちが国に賠償を求めている裁判について、最高裁判所は15人の裁判官全員による大法廷で審理することを決め、統一判断が示される見通しになりました。各地の裁判所の判断が分かれる中、旧優生保護法が憲法に違反していたかどうかや、賠償を求める権利があるかどうかが焦点になるとみられます。

戦後まもない1948年から1996年まで続いた旧優生保護法のもとでは、1万6000人以上が障害などを理由に不妊手術を強制されたとされています。

5年前、知的障害がある宮城県の女性が「差別的思想に基づくもので憲法に違反する」などとして国を訴える裁判を仙台地方裁判所に初めて起こし、それ以来、全国で同様の裁判が相次いで起こされています。

最高裁判所はこのうち、札幌、仙台、東京、大阪の高等裁判所で判決が出され、上告されている5件について、15人の裁判官全員による大法廷で審理することを決めました。

5件はいずれも高裁が「旧優生保護法が憲法に違反していた」と認めていますが、4件が国に賠償を命じたのに対し、宮城県の女性が起こした裁判のみ、手術から20年以上たっていて賠償を求められる「除斥期間」が過ぎたとして仙台高裁が訴えを退けています。

これらについて最高裁判所大法廷で統一判断が示される見通しになり、旧優生保護法が憲法に違反していたかどうかや、「除斥期間」を適用するかどうかが焦点になるとみられます。

弁護士「前進することを期待」

全国優生保護法被害弁護団の共同代表を務める新里宏二弁護士は1日、東京都内で国を訴える当事者や支援者とともに、早期の解決を訴える集会を行っていました。

集会が終わり、最高裁の担当者から、連絡を受けたということで「うれしく思う。被害を訴えてきた女性から10年前に相談を受け『これは何とかしないといけない』と闘ってきた。最高裁の大法廷で審理されることが決まり、前進することを期待している。これを機会に『除斥期間』の適用を制限する方向につながればよいと思う」と話していました。

旧優生保護法をめぐる裁判の状況

旧優生保護法のもとで不妊手術を強制された人たちが国に賠償を求める裁判は、5年前に知的障害がある宮城県の女性が仙台地方裁判所に初めて起こし、その後、全国に広がりました。

これまでに38人が12の地方裁判所や支部に訴えを起こし、1審と2審であわせて17件の判決が言い渡され、原告の勝訴が8件、敗訴が9件となっています。

これまでの判決では多くの裁判所が旧優生保護法について憲法違反と判断したものの、不法行為を受けて20年が過ぎると賠償を求める権利がなくなるという「除斥期間」が適用されるかどうかについて判断が分かれました。

最初の判決となった2019年の仙台地裁の判決では旧優生保護法は憲法に違反していたという判断が示されましたが、賠償については国の主張を認め、手術から20年以上たっていて「除斥期間」が過ぎているとして訴えが退けられました。

その後、各地の裁判所でも時間の経過を理由に原告の敗訴が続きました。

去年2月、大阪高裁が「除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」と指摘して初めて国に賠償を命じる判決を言い渡すと、その翌月には東京高裁も「原告が国の施策による被害だと認識するよりも前に賠償を求める権利が失われるのは極めて酷だ」として「除斥期間」を適用せず、国の賠償責任を認めました。

これ以降、全国で原告の訴えを認める判決が次々と出されるようになり、ことし3月には札幌高裁が国に賠償を命じたほか、大阪高裁が1年前とは別の裁判でも「除斥期間」を適用せず、国の賠償責任を認めました。

一方、全国で初めて提訴され、1審で原告の敗訴となった裁判についてはことし6月、仙台高裁が「除斥期間」を理由に再び訴えを退け、原告側が上告しています。

最高裁判所大法廷では、札幌、仙台、東京、大阪の高裁で判決があったこれらの5件について、まとめて審理されます。

「旧優生保護法」とは

「旧優生保護法」は、戦後の出産ブームによる急激な人口増加を抑制することなどを目的に1948年に施行された法律です。

法律では精神障害や知的障害などを理由に本人の同意がなくても、強制的に不妊手術を行うことを認めていました。

当時は親の障害や疾患がそのまま子どもに遺伝すると考えられていたことが背景にあり、条文には「不良な子孫の出生を防止する」と明記されていました。

旧優生保護法は1996年に母体保護法に改正されるまで48年間にわたって存続し、この間に本人の同意なしに不妊手術が行われた人はおよそ1万6500人に、本人が同意したケースを含めると不妊手術を受けた人はあわせて2万5000人にのぼるとされています。

国は「当時は合法だった」として謝罪や補償を行ってきませんでしたが、不妊手術を受けさせられた女性が国に損害賠償を求める裁判を起こしたことなどを受けて、2019年に障害を理由に不妊手術を強制された人たちを救済するための法律が議員立法として施行されました。

救済法では「旧優生保護法」を制定した国会や政府を意味する「我々」が「真摯に反省し、心から深くおわびする」としています。

その上で本人が同意したケースも含め、精神障害や遺伝性の疾患などを理由に不妊手術を受けた人を対象に、医師や弁護士などで構成する審査会で手術を受けたことが認められれば、一時金として、一律320万円を支給するとしています。

国のまとめによりますと先月1日までに1270人が一時金を請求しこのうち1068人が認められているということです。

一方、これまで1審と2審で原告が勝訴した8件の判決では、1人あたり最大で1650万円など、一時金を大きく上回る賠償を国に命じています。