円安加速いったいなぜ? 家計の負担いくら増える? 年収別に試算

じりじり進む円安。ついに151円台まで値下がりしました。

1日の東京外国為替市場、10月31日開かれた日銀の金融政策を決める会合の結果などを受けて強まった円売りドル買いの動き。

日銀が金融政策の運用をより柔軟化することを決めたことについて市場では、大きな修正ではないとの見方が広がったことから、日米の金利差が意識され、円を売ってより利回りが見込めるドルを買う動きが強まり、円安が進みました。

この動き、どこまで加速するのか。日本経済への影響は。

年初めから20円以上円安に

去年10月に1ドル=151円台後半まで値下がりした円相場。

ことしは1ドル=129円台でスタートしました。

ただ、アメリカでインフレが長期化し、金融引き締めが強まるとの見方から、金融緩和を続ける日本との金利差が拡大。

じりじりと円安が進み、円相場はことし5月下旬に1ドル=140円台、6月下旬には145円台まで値下がりしました。

日銀は7月下旬、金融政策の運用を柔軟化し、長期金利の一段の上昇を容認。

無理に金利を抑え込まないことで為替市場の過度な変動を抑えるねらいもありましたが、その後も円安は進みます。

背景にはアメリカの長期金利が日銀の想定を上回るスピードで上昇を続けたことがあります。

この結果、円相場は10月3日、およそ1年ぶりに1ドル=150円台まで値下がりし、その後も1ドル=150円前後での取り引きが続いていました。

そして10月31日、日銀が金融政策の運用をさらに柔軟化すると決めたことをきっかけに海外の投資家を中心とした円売りが膨らみ円安が加速。

10月31日のニューヨーク市場で、円相場は1ドル=151円台後半まで値下がりしました。

円安加速 その要因は?

先月に入って円相場は1ドル=150円前後で推移していましたが、10月31日、日銀が金融政策の運用をさらに柔軟化すると決めたことをきっかけに海外の投資家を中心とした円売りが膨らみ円安が加速しました。

円安が進んだ背景には2つの要因があります。

【要因1】日銀の決定と総裁会見に対する市場の受け止め

まず、10月31日の日銀の決定内容が市場の観測より慎重な見直しにとどまったと受け止められ、会見に臨んだ植田総裁からも今後の政策の正常化について踏み込んだ発言がなかったという見方が出たためです。

市場の一部では、長期金利の上限を1%から引き上げるのではないかといった思惑も出ていましたが、上限を「1%をめど」とし、一定水準まではこれを超える金利の上昇を容認する日銀の決定内容には目新しさはなく、どこまで金利の上限を認めるのかという点も不透明だという指摘があがっていました。

また、植田総裁が会見で、「現時点では物価安定目標の持続的・安定的な実現を十分な確度を持って見通せるような状況にはまだ至っていない」と述べ、いまの政策の枠組みで粘り強く金融緩和を続ける方針を改めて強調したこともあって、金融引き締めが続くアメリカとの金利差の拡大が意識され、円売りの動きにつながりました。

植田総裁は、今回、政策の運用を柔軟化した背景に将来、金融市場の変動が大きくなったりこれに伴って副作用が生じたりすることを防ぐねらいもあるとし、この中には為替市場の変動も含まれているという認識を示しました。

さらに「為替レートの変動が物価見通しなどに大きな影響を及ぼすことになればそれは政策の変更に結びつきうることだ」と述べましたが、円安の流れを変えることはできませんでした。

【要因2】市場介入に対する警戒感の後退

円安が進んだ2つ目の要因は、市場介入に対する警戒感が後退したことです。

財務省は10月31日、直近1か月の市場介入の実績を発表しました。

外国為替市場では10月3日、円相場が1年ぶりに1ドル=150円台まで値下がりした直後に一転して円高方向に大きく動く場面があり、政府・日銀が市場介入の事実を明らかにしない「覆面介入」を行ったのではないかという見方もあり、財務省の介入実績の発表に注目が集まっていました。

しかし、今回の発表で、直近の1か月間、政府・日銀による市場介入が行われていなかったことが分かりこれによって介入への警戒感が後退したことも円安が加速した要因となりました。

”家計の負担額 10万余増”試算も

民間のシンクタンクは、円相場が1ドル=150円で推移した場合今年度の家計の負担額は昨年度と比べて平均で10万2000円あまり増えると試算しています。

「みずほリサーチ&テクノロジーズ」は、総務省の家計調査などをもとに円相場が1ドル=150円で推移した場合の、家計への負担について試算しました。

それによりますと、政府の物価高対策を含めても、今年度、2人以上の世帯の家計の負担額は昨年度と比べて平均で10万2148円、増えるということです。

内訳は、「食料」は9万3369円、家電製品などの日用品や外食や宿泊が含まれる、「その他」は4万1429円増える一方、電気代や都市ガス代などの「エネルギー」は、政府の負担軽減策などで3万2650円減るとしています。

また、負担額の増加を年収別の平均でみると、300万円未満の世帯は6万5940円、500万円以上600万円未満の世帯は9万5642円、700万以上から800万円未満の世帯は11万120円、1000万円以上の世帯は16万294円、それぞれ増えるということです。

年収が上がるにつれ家計の負担額は多くなりますが、年収が低い世帯ほど収入に占める、負担額増加の割合は増えるということです。

試算を行った酒井才介 主席エコノミストは「円安などを要因とした食料品や日用品の値上がりだけでなくサービス価格の上昇も負担額の増加につながっている。中東情勢の緊迫化で今後、原油価格が上昇するリスクもあり家計の負担は今回の試算よりも増える可能性がある」と話しています。

円安が追い風に 自動車メーカーは業績改善

いまの円安は、輸出を手がける自動車メーカー各社の業績の改善につながっています。

大手自動車メーカーでは、今年度1年間の想定の為替レートについてトヨタ自動車が1日、従来の1ドル=125円から1ドル=141円に見直しました。

ホンダは1ドル=125円、日産自動車が1ドル=132円に設定しています。

想定よりも円安が進むと外貨を日本円に換算した利益が膨らむことになり、ドルに対して1円、円安が進んだ場合には、トヨタはおよそ500億円、ホンダはおよそ100億円、日産はおよそ120億円、それぞれ今年度1年間の営業利益が押し上げられるということです。

このため仮に1ドル=150円の円安水準が今後も続いた場合、今年度の残り5か月間でトヨタの営業利益はおよそ1800億円押し上げられる計算となるほか、ホンダもおよそ1000億円、日産もおよそ900億円、それぞれ営業利益が押し上げられる計算となります。

輸出企業にとっては、いまの円安による業績改善の効果は大きく、経済の好循環に向けてそれぞれの企業が得られた利益を賃金引き上げや設備投資などでどのように還元していくかが焦点となります。

トヨタ自動車「為替は安定推移が望ましい」

トヨタ自動車の山本正裕経理本部長は、1日の決算会見で為替の変動について「以前、円高のときには海外に移転するのではなくしっかり国内に生産拠点を作って雇用を生み出し地域に貢献することを続けてきた。今だと円安の効果で増益になるということはあるが、サプライチェーン全体で見ると円安がプラスになるところとマイナスになるところといろいろあり、やはり為替は安定推移することが望ましい」と述べました。

円安がマイナスに働く企業も 「これ以上、円安望まず」

一方、円安がマイナスに働く企業もあります。

日本製鉄の森高弘副社長は1日、決算発表の記者会見で「これ以上、円安が進んでいくことは望んでいない。原料をほぼ100%輸入に依存しており、円安は輸入に大きくマイナスになるためで、日本全体としても貿易のバランス上、それほどよい方向に効かないだろうと思っている。むしろマイナスの場合も多いのではないかと思っている」と述べました。

専門家 日本経済への影響は?

円安の日本経済への影響についてみずほ証券の小林俊介チーフエコノミストに聞きました。

Q.円安は日本経済にどのような影響が出ているか?

「円安になると、日本経済にはメリットとデメリットの両方が発生する。そして今の日本経済全体で見るとこのメリットとデメリットが、相半ばしている、ちょうど相殺するような形になっているというのが現状だ。ただ、その中で、恩恵を受けるカテゴリーと、非常に大きな打撃を受けるようなカテゴリーというのは大きくわかれてしまう。円安の恩恵を受けるのは、輸出企業、それから海外に子会社を持っている企業だ。こうした企業では円安が進むことで収益が膨らむ。その一方で輸入に関わる企業そして、電気代やガス代の上昇により、サービス業全般が打撃を受ける」

Q.円安の家計への影響は?

「家計は円安になると守るすべがないというのが実態に近いと思う。日本の場合は、どうしてもエネルギーをはじめとして海外から輸入せざるをえないものが多い。そうなると日用品も含めて、値上げが進むものがたくさん出てくる。その一方で、賃金や所得の増加が十分でなければ、コスト高が直撃するという構造になってしまう」

Q.どうすれば日本経済のメリットを大きくできるか?

「例えば、円安の恩恵を受けて、利益を出した企業に勤めている方であれば、しっかり交渉をして、賃金を上げてもらう。そうすると、その方々の消費が増え、日本経済全体の底上げにつながってくる。あるいは、こうした恩恵を受けた企業と取り引きしているような企業については、メリットを受けた企業に、できるだけ値上げをのんでもらう。こういう努力をすることが求められるのだろうと思う。あるいは、メリットを受けた企業も、利益を上げてそのままそれをキャッシュとして置いておくのではなく、できるだけ雇用や設備投資にお金を使ってもらう。そういうことが起こっていくと、日本経済全体の底上げにつながっていくので、どうしたらそうした動きを促進できるのかというのが、日本経済の今後のカギを握っているように思う」