埼玉 立てこもり 容疑者 病院と郵便局に不満あったと説明

10月31日、埼玉県蕨市の郵便局に86歳の容疑者が人質をとって立てこもった事件で、容疑者が発砲への関与を認めた病院について「受付窓口の対応に不満を持っていた」と説明をしていたことが捜査関係者への取材でわかりました。郵便局に対しても不満を持っていたとみられ、警察は一連の事件の動機を調べています。

埼玉県戸田市に住む職業不詳、鈴木常雄 容疑者(86)は埼玉県蕨市の郵便局に10月31日午後2時ごろからおよそ8時間にわたって拳銃を持って立てこもりました。

午後10時すぎに捜査員が突入し、郵便局の20代と30代の女性職員を人質にとったなどとして人質強要処罰法違反の疑いで逮捕されました。

警察によりますと、人質となった2人は容疑者が逮捕される前に解放されたり、隙を見て逃げ出したりして保護され、けがはありませんでした。

容疑者は調べに対し容疑を認め「郵便局の人と話がしたかった。逃げ遅れた人を人質にとった」と供述していますが、その後の捜査関係者への取材で逮捕される前の警察官との交渉の中で「去年、郵便局の配達用のバイクと事故になり、その対応に不満があった」という趣旨の説明をしていたことがわかりました。

交渉の中では、郵便局長や事故に対応した警察官と面会させるよう求めていたということです。

郵便局にいた女性「銃声聞こえ怖かった」

当時、郵便局にいた70代の女性は「郵便局の窓口カウンターにいたところピストルの音が1発したので振り返ったらピストルを持った男がいました。警察官が周りを囲んでいて『撃つな』と大きな声で叫んでいました」と話していました。

容疑者の様子については「カウンターの下にしゃがんで、離れたところから男の様子を見ただけなので詳しくはわかりませんが、ピストルを持って立っているだけで話をしたり慌てたりしている様子はないように見えました。『逃げろ』という声がしたのでそのまま逃げました。一瞬のことでなんとも言いようがなく、怖かったです」と話していました。

郵便局は2日まで休業

容疑者が立てこもった蕨郵便局では1日午前9時ごろから警察が現場を詳しく調べていますが、まわりにはシートが張られ、中の様子をうかがうことはできませんでした。

日本郵便によりますと、蕨郵便局は捜査への協力などのため、1日と2日は終日、窓口業務やATMの営業を休止するということです。3日以降の営業は今後の状況を見て判断するとしています。

日本郵便「安心安全に向けて取り組む」

今回の事件について日本郵便は「犯人が逮捕されたことは承知しております。今後、このようなことが二度と起きないよう願うと同時に、会社としてもこれまで以上に、お客さまや社員の皆様の安心・安全に向けて取り組んでまいります」というコメントを出しました。

「病院の受付窓口の対応に不満」と説明

一方、蕨市の立てこもり事件の1時間ほど前には隣接する埼玉県戸田市の「戸田中央総合病院」で1階の診察室に向けて男が路上から拳銃のようなものを発砲する事件がありました。

発砲は2発とみられています。

警察によりますと40代の医師と60代の患者の2人がけがをしましたが、いずれも命に別状はないということです。

容疑者は病院の発砲事件についても「撃った」と関与を認めていて、その後の捜査関係者への取材でこの病院について逮捕される前に「受付窓口の対応について不満を持っていた」と説明をしていたことがわかりました。

調べによりますと持っていた拳銃は自動式で、きょうの現場検証で郵便局と病院前の路上から実弾を撃ったあとの薬きょうが2個ずつ見つかったということです。

戸田中央総合病院では、1日午前9時から警察が現場を詳しく調べていて、現場に張られたシートの隙間からは捜査員たちが病院の前の植え込みの中を調べる様子が確認されました。

病院で容疑者を見かけた人「いつもけんか腰」

戸田中央総合病院に子どもを通院させている母親は「病院の待合室で2、3回ほど容疑者を見かけましたが、毎回、受付の人などに食ってかかるように大声をあげていました。何が原因かは知りませんが、いつもけんか腰だったので、来院者どうしでも『怖いね』と話をしていました。子どもも多く通う病院なので、当時、怖い思いをした子どもたちのことを思うと心配になります」と話していました。

「自宅に放火した」と供述

また、31日午後1時ごろに起きた自宅アパートが焼けた火事についても「自宅に放火した」と供述していて、警察は一連の事件や火事について詳しいいきさつを捜査しています。

同じアパートの隣人「衣服を持ってどうにか逃げた」

容疑者と同じアパートで隣の部屋に住んでいる女性は「容疑者は2、30年前にアパートに引っ越してきました。初めのころは女性と一緒にいましたが、10年ほど前からは1人で暮らしていました。仕事はしていなかったと思います。あまり関わりはなく、すれ違ったらあいさつをする関係でした。私たちと話すときは優しい印象がありました」と話していました。

事件については「先週くらいから、ドアをバタバタと開け閉めする音がよく聞こえてきて引っ越しでもするのかと思っていたらこんな事件が起きて驚きました。火事が起きたあとは家族の衣服などを持ってどうにか逃げきりました」と話しています。

不動産会社 事件前日に家賃の催促と立ち退きの説明

鈴木容疑者の住むアパートを管理していた不動産会社によりますと、容疑者は10月分の家賃の支払いが遅れていたため、事件の前日、30日に催促したということです。

会社の社長がアパートの前を通った際、レンタカーに大量の荷物を積み込む容疑者を見かけたため声をかけたところ「11月6日には店に行って家賃を払います」と話したということです。

会社はこのアパートに隣接する市道の拡張工事が行われることに伴って、住民に立ち退きを求めるチラシを9月中旬ごろポストに投かんしていましたが、容疑者とは連絡が取れていなかったため事件前日に会った際に説明したとしています。

社長は「これまでは毎月遅れることなく家賃を支払っていました。もの静かな印象で事件を起こす人には見えなかった」と話しています。

事件発覚の経緯

事件が発覚したのは31日午後1時13分でした。

【午後1時13分 「発砲音のような音がした」通報】
埼玉県戸田市にある「戸田中央総合病院」から「発砲音のような音がした」という通報が警察に入りました。

警察によりますと男が病院脇の路上から1階の診療室に向けて拳銃のものとみられる弾を2発発砲し、中にいた40代の医師と60代の患者がけがをしたということです。

けがは発砲された弾によるものかはわかっていませんが、いずれも命に別状はないということです。

【午後2時14分ごろ 「拳銃を持った男がいる」通報】
この発砲事件の現場から男がバイクで逃走したという情報があり警察が行方を捜査していたところ、およそ1時間後の午後2時14分ごろ1.5キロほど離れた隣接する蕨市の「蕨郵便局」から「拳銃を持った男がいる」という通報が警察に入りました。

容疑者は拳銃を持ったまま立てこもり3階建ての郵便局の中をうろついていて発砲音のようなものが複数回聞こえたという情報もありました。

当時、郵便局内には客や職員らがいてほとんどが避難しましたが、20代と30代の女性2人が取り残されました。

【午後7時17分ごろ・午後9時すぎ 職員を保護】
警察が午後4時ごろから容疑者と電話で会話を続け、2人を解放するよう交渉を進めたところ、立てこもりからおよそ5時間たった午後7時17分ごろ警察の説得に応じて20代の職員が解放され保護されました。

さらに午後9時すぎには残る30代の女性も容疑者の隙を見て建物から逃げ出し、警察に、無事保護されました。

2人にけがはありませんでした。

【午後10時20分 捜査員が突入し身柄を確保】
容疑者が立てこもっておよそ8時間たった午後10時20分。

捜査員が郵便局に突入し午後10時21分に身柄を確保しました。

警察は午後10時27分、鈴木常雄容疑者(86)を人質強要処罰法違反の疑いでその場で逮捕しました。

容疑者が住む埼玉県戸田市のアパートでは、発砲事件と立てこもり事件が起きる前の31日午後0時57分に火事も起きていました。