沖縄県が承認しない辺野古工事 国の代執行に向け30日初弁論へ

沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先となっている名護市辺野古沖の地盤の改良工事をめぐり、国が県に代わって工事を承認する「代執行」に向けて起こした裁判で、30日に初めての弁論が行われます。

国が、早期の工事着手のため法的な手続きを進める中、県側は、知事みずから法廷に立ち「代執行は民意に反する」などと訴えを退けるよう求める方針です。

普天間基地の移設先となっている名護市辺野古沖では、埋め立て予定地で軟弱な地盤が見つかり、国が地盤の改良工事を行うため設計の変更を申請しましたが、沖縄県が「不承認」としたため工事は進んでいません。

この工事をめぐり9月、最高裁判所で県の敗訴が確定しましたが、県が申請を承認しないため国は、県に代わって承認する「代執行」に向けて福岡高等裁判所那覇支部に訴えを起こしました。

この裁判で、初めての弁論が30日、午後2時から行われます。

訴えで国は県が承認しないのは違法であり「埋め立て工事が遅れることは国の安全保障と普天間基地の固定化の回避という重要課題に関わり、著しく公益を害することは明らかだ」などとしたうえで、「代執行」以外の方法は困難だと主張し、県に承認するよう命じる判決を求めています。

これに対して、沖縄県は繰り返し対話を求めても国は一切応じておらず、「代執行」以外の方法は困難だとする要件を満たしていないとしたうえで、玉城知事みずから弁論に出席し「『代執行』は移設に反対する県民の民意に反する。民意は公益として考慮されるべきだ」などと主張して訴えを退けるよう求める方針です。

国は1日で審理を終えて速やかに判決を出すべきだとしていて、裁判所の判断が注目されます。

玉城知事「明鏡止水の境地で臨む」

沖縄県の玉城知事は30日朝、登庁した際、記者団から裁判に臨む心境を問われ「明鏡止水の境地で臨む」と述べました。

そして、定例で行っている県の職員に向けた庁内放送で、みずから30日の弁論に出席することに触れ「憲法に記されている地方自治の本旨を民主主義の尊重の考えから、しっかりと訴えていく」と述べました。

初弁論 傍聴席33席に希望者284人 倍率約8.6倍

30日の初弁論を傍聴しようと、大勢の人が福岡高等裁判所那覇支部に集まり、裁判所によりますと、傍聴席33席に対して希望した人は284人で、倍率はおよそ8.6倍でした。

「代執行」訴訟の争点は

《争点1 代執行以外の方法が困難か》

国は、沖縄県に地盤改良工事のための設計変更を承認するよう「是正の指示」を行ったのに対し県が応じなかったため、県に代わって承認する「代執行」に向けた訴えを起こしました。

この裁判の争点の1つが、「代執行」以外の方法で解決できるのかどうかという点です。

地方自治法では、「代執行」の条件の1つとして「ほかの方法での是正が困難」であることをあげています。

国は、最高裁の判決で国の指示が適法なものであると確定しても承認しない県の違法な事務遂行は「代執行以外の方法によって是正を図ることが困難であることは明らかだ」と主張しています。

これに対し、県は、国の関与は地方自治に対する重大な侵害行為になるおそれがあると指摘したうえで、設計変更の申請が行われるおよそ半年前の2019年6月から問題解決に向けた対話を繰り返し求めてきたにもかかわらず国はその要望を無視し一切応じようとせず、対話による解決を放棄してきたと主張しています。

その上でこのような国の対応は「代執行以外の方法によって是正を図ることが困難」とする要件を欠くものだと主張し、訴えを退けるよう求めています。

《争点2 公益性を害するか》

もうひとつの争点は、沖縄県が国の申請を承認しないことが「著しく公益を害する」かどうかという点です。

地方自治法に基づいて「代執行」の裁判を起こすには、自治体の行った違法な事務遂行が、「著しく公益を害することが明らか」であることが条件となっています。

これについて、国は「今回の工事は、普天間基地の危険性の除去などが目的で、工事が遅れることで騒音被害など普天間基地の周辺住民の生活に深刻な影響が生じ、日米間の信頼関係にも悪影響を及ぼしかねない」と主張しています。

その上で、申請を承認しない違法な状態を放置することにより日本の安全保障と普天間基地の固定化回避という公益上の重大な課題が達成されず「著しく公益を害する」ことは明らかだとしています。

これに対して、県は「もともと5年で終わるはずの埋め立て工事が最短でも12年かかりさらに長期化する可能性は高く完成まで普天間基地は固定化されることになり、危険性の除去という国の主張は極めて抽象的だ」と主張しています。

その上で「沖縄戦や米軍基地の形成・集中の過程で、県民や県の自己決定は踏みにじられてきた。辺野古の移設計画に反対する翁長元知事に続き玉城知事が当選し、県民投票でも反対の民意が示されていて、明確な民意それ自体が公益として考慮されるべきだ」としています。

「代執行」は“最終手段” 行われれば前例のない措置

「代執行」は地方自治法に基づき、都道府県知事が行う事務を国が代わりに行うことです。

法律では、今回のような「代執行」に向けた一連の手続きを進める条件として
▼知事が法令や規定に違反したり執行を怠ったりした場合であること、
▼ほかの方法での是正が困難であること、
▼放置すると公益を害することが明らかであることの3つをあげています。

「代執行」は3つの条件を満たした場合に限って行うことができる、国にとって最終手段と言えるものです。

国が「代執行」の手続きに着手したのは、法改正で今の制度となった2000年以降では、2015年に沖縄県の当時の翁長知事が辺野古沖の埋め立て承認を取り消したことに対し、それを撤回する「代執行」に向けて裁判を起こしたのに続き今回が2回目です。

この時は、工事を中止して双方で協議するなどとする和解が成立し、「代執行」は行われませんでした。

2000年の法改正により、国の関与は、必要最小限にし地方自治体の自主性や自立性に配慮することになっていて、今回の裁判で国が勝訴し、「代執行」を行うことになれば前例のない措置となります。

このため、行政法が専門の大学教授など100人余りは「地方自治法の定める原則を尊重する立場から代執行の手続きをただちに中止すべきだ」などとする声明を出しています。

また、有識者からは「代執行は地方自治体が本来持っている権限を国が取り上げて決めるための手続きで、地方自治にとって非常に重大な局面に来ている」といった意見も出ています。

辺野古移設問題 これまでの経緯は

《1945年》
沖縄は78年前の激しい地上戦で多くの県民が犠牲となり、その後のアメリカの統治を経て広大なアメリカ軍基地が形成されました。その状況は、「本土復帰」後もほぼ変わらず今も在日アメリカ軍専用施設のおよそ7割が集中しています。基地負担の象徴が宜野湾市の市街地の真ん中にあるアメリカ軍普天間基地です。

《1995年》
28年前、アメリカ兵による少女暴行事件で基地の整理縮小を求める声が高まり、日米両政府が普天間基地の移設先に選んだのが名護市辺野古で、その時々の県知事が移設問題と向き合ってきました。

《2013年》
事態が大きく動いたのは3月、国が沖縄県に辺野古沖の埋め立てを申請し、当時の仲井真知事が12月にこれを承認しました。

《2015年》
翌年の2014年11月に移設阻止を掲げて当選した翁長知事がその後、2015年10月、「法律上問題があった」として承認を取り消しました。これに対し、国は知事の代わりに取り消しを撤回する「代執行」を求める訴えを起こします。

《2016年》
3月、和解が成立して代執行は行われず訴えは取り下げられました。しかし、埋め立てをめぐって県と国が法廷の場で対立する状況は続き、12月に最高裁が翁長知事が承認を取り消したのは違法だとする判断を示し、沖縄県の敗訴が確定します。

《2017年》
これを受けて2月、国は海上の埋め立て工事に着手します。

《2018年》
一方、9月、翁長知事の死去に伴う県知事選挙が行われ、翁長氏の後継として移設反対を掲げる玉城氏が当選し去年の選挙でも再選しました。

玉城知事は就任後、国に対して対話による問題解決を求めましたが、隔たりが埋まることはありませんでした。国は12月、アメリカ軍キャンプシュワブの南側、辺野古側の区域で土砂の投入を始めました。

《2019年》
2月には埋め立ての賛否を問う県民投票が行われ「反対」が多数となりましたが、国は移設に向けた工事を続けました。

《2020年》
一方、キャンプシュワブの北側、大浦湾側の区域では土砂の投入が始まっていません。埋め立て予定地に軟弱地盤が見つかったためで、国は4月、改良工事を行うため設計変更を申請しました。

《2021年》
11月、県は「不承認」とし、新たな裁判が始まりました。

《2023年》
裁判は、軟弱地盤の改良工事を承認しない県に対して国が行った「是正の指示」が違法かどうかが争われ、最高裁は、9月「国の指示は適法だ」として上告を退ける判決を言い渡し、沖縄県の敗訴が確定しました。

県は、国の指示に従い工事を承認する義務を負うことになりましたが、県が応じなかったことから10月5日、国は県に代わって承認する「代執行」に向けて福岡高等裁判所那覇支部に訴えを起こしました。