イスラエル軍 “戦争の第2段階”でガザ地区北部への攻撃強化か

イスラエル軍はネタニヤフ首相が「戦争の第2段階に入った」と宣言する中、イスラム組織ハマスが実効支配するガザ地区での軍事行動を拡大し、激しい空爆も続けています。ガザ地区の住民には南部に退避するよう改めて呼びかけていて、今後、ガザ地区北部への攻撃をさらに強化するものとみられます。

イスラエル軍は29日もガザ地区で地上での軍事行動を拡大しているほか、前日から少なくとも450か所のハマスの軍事拠点などを空爆したと発表しました。

これに対しハマス側もガザ地区の北東部でイスラエル軍の軍用車両を対戦車ミサイルで攻撃したとする映像を公開していて、激しい地上戦が続いているものとみられます。

こうした中、イスラエルのネタニヤフ首相は28日「昨夜、さらに多くの地上部隊がガザ地区に入った。これは戦争の第2段階だ」と宣言しました。

軍の参謀総長も「この戦争には複数の段階があり、われわれは次の段階に移った」と話していて、全面的な地上侵攻に踏み切るのではなく、情勢をみながら地上での軍事行動の段階を引き上げる方針とみられます。またイスラエル軍は、ガザ地区の住民に早急に南部に退避するよう呼びかけていて、今後、ガザ地区北部への攻撃をさらに強化するものとみられます。

軍の報道官は「退避への時間はなくなろうとしている」としたうえで、南部に対しては「より多くの食料や水、医薬品がトラックで運ばれる予定だ」としています。ただ、イスラエルはガソリンなど燃料の搬入は認めない姿勢を変えておらず、ガザ地区で活動するパレスチナの赤新月社は29日に公開された音声メッセージで「燃料不足で救急車3台を動かせなくなった」と厳しい現状を伝えています。

一方、イスラエル北部のレバノンとの国境ではイスラエル軍とシーア派組織ヒズボラとの衝突が徐々に激しさを増しています。

28日にはレバノン側から対戦車ミサイルや迫撃砲による攻撃があり、イスラエル軍の戦闘機がヒズボラの施設を空爆しました。

イスラエルはハマスを上回る戦力を持つヒズボラの参戦を強く警戒していて、ガザ地区への大規模な地上侵攻に踏み切るかどうかの判断にも影響を与えると指摘されています。

専門家「本格的な地上作戦に移行している可能性も」

イスラエルのネタニヤフ首相が「戦争の第2段階だ」と述べたことについて、中東の安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の西野正巳主任研究官は、「軍事的必要性で言えば空爆と砲撃で最低限やるべきことについては行ったと思われるので、地上作戦を伴う段階に移りつつあるという意味でおそらく言っている。ハマスの軍事拠点をつぶすのであっても、戦闘員を倒すのであっても、人質を奪還するのであっても地上部隊を入れることは必要だ」と指摘しています。

そのうえで、大規模な地上侵攻の始まりかどうかの明言を避けたことについては、「イスラエルはアメリカなど人質を取られている国から地上戦を先送りしてほしいと要請が来ていて、そこにある程度配慮せざるをえず、本格的な地上作戦はやっていないと言える状態を長く維持したいはずだ。しかし本音では限定的ではない地上作戦を行いたいと考えていて、その場合は本格的な地上作戦をやっていないという設定のもと実際には本格的な地上作戦に移行している可能性もある」と指摘しています。

地上作戦に対するハマスの対応については、「地下のトンネルから隠れて攻撃したり爆発物をしかけたりするなど、ゲリラ戦で対抗するだろう。住民がいるとイスラエル軍は被害を避けるために限定的な火力しか使えなくなるので、ハマスはイスラエル軍にとって戦いにくい環境を作ってくる可能性がある」と述べ、住民を盾にした作戦を行う可能性があると指摘しています。

また、今後の中東情勢については、「レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派などはハマスと共闘関係にあり、連帯姿勢を示す必要があるのでイスラエルに対してすでに攻撃を行っている。地上作戦によってヒズボラなどが本格的に参戦する可能性は低いとみられるが、イスラエル北部のレバノンの国境周辺で戦闘の規模が激しさを増すことはありえる」と述べ、衝突が拡大する可能性は否定できないという認識を示しています。