科学・文化

ハイパーカミオカンデ 建設現場が初公開 岐阜 飛騨

宇宙などから降り注ぐ極めて小さな素粒子、「ニュートリノ」の観測を進め、日本人研究者のノーベル物理学賞受賞にもつながった岐阜県飛騨市にある大規模な観測装置「スーパーカミオカンデ」の後継となる「ハイパーカミオカンデ」の建設現場が29日初めて報道関係者に公開されました。

飛騨市神岡町の東京大学宇宙線研究所が運用する大規模な観測装置「カミオカンデ」と「スーパーカミオカンデ」は、宇宙などから降り注ぐ極めて小さな素粒子、「ニュートリノ」の観測に成功するなどして、日本人研究者の2度のノーベル物理学賞受賞につながりました。

3年前から「スーパーカミオカンデ」のおよそ8倍の「ニュートリノ」が観測できる「ハイパーカミオカンデ」の建設が地下600メートルの場所で進められていて、29日は水が入った巨大なタンクを収めるために掘り進められている建設現場が報道関係者向けに初めて公開されました。

公開されたのは高さ21メートル、直径が69メートルあるドームと呼ばれる天井部分で、計画では「ニュートリノ」を観測する高性能の検出器4万本が取り付けられるということです。

「ハイパーカミオカンデ」は4年後、2027年の観測開始を目指していて、ニュートリノに関する研究をさらに深めることで、宇宙に星や物質が誕生した成り立ちなどの解明につながる成果が期待されています。

東京大学神岡宇宙素粒子研究施設長の塩澤眞人教授は、「カミオカンデ、スーパーカミオカンデで成果をあげたが、解決できていない問題が残っている。ハイパーカミオカンデでの研究で答えを見つけたい」と話していました。

【詳しく】「ハイパーカミオカンデ」とは

今回、建設現場が公開された巨大な実験装置「ハイパーカミオカンデ」は、2度にわたってノーベル賞を受賞し、日本が得意としてきた「ニュートリノ」の研究を発展させるために大幅に性能の向上をはかる計画で観測開始は4年後の2027年を目指しています。

《ニュートリノとは》
極めて小さな素粒子「ニュートリノ」は、宇宙や大気から膨大な量が降り注いでいますが、このうち太陽から私たちの体に降り注ぐものだけに限っても、その数は1秒間に数百兆に上ります。

このニュートリノは同じ素粒子である「電子」と比べても質量は100万分の1ほどで、電気を帯びていないために地球さえ通り抜けることがあり、観測するのがきわめて難しいとされています。

《ニュートリノ研究の歩み》
いわば“幽霊”のような「ニュートリノ」を捉えるため、1986年、岐阜県飛騨市にある神岡鉱山の地下1000メートルにある観測装置「カミオカンデ」で観測が始まりました。

装置には3000トンもの水がためられ、ここを通過する「ニュートリノ」がごくまれに水の分子と衝突した際に生じる微弱な光を検出することで、その存在を捉える仕組みです。

観測を始めて数か月、星が一生を終える際に起きる「超新星爆発」という現象に伴う「ニュートリノ」を世界で初めて観測することに成功。

ニュートリノ天文学という新しい分野を切り開き、研究を進めた小柴昌俊さんが2002年にノーベル物理学賞を受賞しました。

《 “スーパー” もノーベル賞》
1996年には後継の「スーパーカミオカンデ」の運用が始まり、その2年後に「ニュートリノ」に質量があることを世界で初めて発見しました。

こうした業績が認められて小柴さんの弟子にあたる東京大学教授の梶田隆章さんも2015年にノーベル物理学賞を受賞しています。

《 “ハイパー” な特徴とは》
およそ40年にわたって世界をけん引してきた日本のニュートリノ研究で、今後を担う“3代目”が現在、建設が進められている「ハイパーカミオカンデ」です。

29日報道陣に公開されたドームの部分に続いて、今後は、「ニュートリノ」の検出を行う心臓部にあたる水が入ったタンクを設置する空洞が採掘される計画です。

設置されるタンクの大きさは直径68メートル、高さ71メートルで、観測に使う水の量はおよそ19万トンと「スーパーカミオカンデ」のおよそ8倍と大型化しています。

タンクの水の量が性能に直結するため、大型化によってこれまでの8倍の「ニュートリノ」を検出できることを意味します。

また、タンクの内側を囲むようにして、設計上、4万本にのぼる光の検出器、「光電子増倍管」が並べられる計画です。

「スーパーカミオカンデ」で採用されたものと比べて感度が2倍になっていて、より微弱な光を捉えられるほか、ニュートリノの種類や飛んできた方向なども正確に捉えられるということです。

《 “ハイパー” で目指す科学》
装置を大型化し、性能を高めたこの「ハイパーカミオカンデ」

目的の1つが、現在の宇宙誕生の謎に迫る科学的な成果を得ることです。

「ニュートリノ」とその「反物質」にあたる「反ニュートリノ」の間には、性質に違いがある可能性が指摘されてきており、「ハイパーカミオカンデ」ではその違いを厳密に調べることにしています。

ビッグバンによって誕生した直後の宇宙には、物質と「反物質」のどちらも同じだけ存在しましたが、「反物質」が消えて物質だけが残ったと考えられ、なぜ宇宙では物質が優勢になったのかは物理学の大きな謎となっています。

「ニュートリノ」と「反ニュートリノ」の違いが明らかになれば、この謎の解明に向けて大きく前進することが期待されています。

「カミオカンデ」、「スーパーカミオカンデ」の研究成果に続き、「ハイパーカミオカンデ」が3度目のノーベル賞につながる成果を挙げられるのか注目されています。

2万本の検出器 手作業で

「ハイパーカミオカンデ」は国際研究プロジェクトとして建設が進められています。

日本が担当している光の検出器、「光電子増倍管」は「カミオカンデ」と「スーパーカミオカンデ」で実績を積み重ねてきた光工学メーカーの浜松ホトニクスが担っていて、3年前から生産を始めています。

静岡県磐田市にある工場では、部品の組み立てなどの工程が手作業で行われていて、今月25日には、直径50センチほどのガラス管のなかに信号を増幅する部品を入れて封じ込めるため、ガラスの部品どうしをバーナーで熱して溶かし、接合する作業などが行われていました。

検出器の球面状のガラスに入った光は電気信号に変換され、およそ1000万倍に増幅されます。

目では見えないような微弱な光を検出することができ、「スーパーカミオカンデ」のものと比べても、感度が2倍に高められたほか、巨大なタンクの水圧に耐えられるように改良が加えられています。

3年後にかけておよそ2万本の検出器を生産することにしています。

浜松ホトニクス電子管事業部の永井正太さんは「暮らしに直結するものではありませんが、技術を通じて人類ならではの知的好奇心を満たすことができれば大きな喜びです。非常に多くの製品を納入するので、去年よりもことしの方がより性能の高いものをつくるといった心意気で、作業者一同、最後まで生産を続けたい」と話していました。

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