G7貿易相会合開幕 「経済的威圧」対抗 日本は連携の重要性強調

G7=主要7か国の貿易相会合が大阪で開幕しました。中国を念頭に、輸出入の規制などで相手国に圧力をかける「経済的威圧」にどう対抗するかが議題で、日本はG7や価値観を共有する国々が連携する重要性を強調しました。

G7の貿易相会合は28日午後、大阪市の会場で開幕し、上川外務大臣と西村経済産業大臣が出席しました。

今回の会合では経済的な影響力を強める中国を念頭に、輸出入の規制などで圧力をかける「経済的威圧」にどう対抗するかが議題で、上川大臣は「経済的威圧は多角的な貿易体制に対する最大の挑戦で、国際社会が連携して対応すべき課題だ」と述べました。

また、西村大臣は「G7各国が『経済関係の武器化をしない』という基本的な価値を共有できる、多くの国々とのつながりを深めていくことを行動を通じて示したい」と述べました。

28日の初日は、G7各国のほかに、インドやオーストラリアなど5つの国の貿易相や国際機関の代表を招いて会合が開かれ、経済安全保障上の重要性が高まる半導体や、リチウムなどの重要鉱物のサプライチェーン=供給網の強化に向け、連携を確認したとみられます。

一方、中国が福島第一原発の処理水の放出に反発し、日本産の水産物の輸入を全面的に停止していることから、日本はこうした措置への懸念を表明し、撤廃に向けてG7各国に結束した対応を呼びかける方針です。

最終日の29日は、閣僚声明が取りまとめられる見通しで、経済的威圧に対する結束をどこまで示せるかが焦点です。

「経済的威圧」とは

「経済的威圧」とはある国がほかの国の政策などに影響を与えるため、輸出入の制限や関税の引き上げ、不買運動などの手段を使って、相手国に圧力をかける行為です。

国際的に明確な定義はないということですが、企業のサプライチェーン=供給網の寸断などによって、相手国の経済にダメージを与えることにつながります。

50年前の1973年に、イスラエルと周辺のアラブ諸国で勃発した第4次中東戦争をきっかけに、中東の産油国が原油の輸出禁止や価格の引き上げを行い、第1次オイルショックへとつながったケースが知られています。

近年では経済的な影響力を強めた中国が、輸出入の制限などで相手国に圧力をかけるケースが多くなっているとされています。

日本が圧力を受けたケースでは、2010年に沖縄県の尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件をめぐって、中国がレアアースの日本への輸出手続きを事実上停止し、産業界に懸念が広がりました。

また、2020年には中国とオーストラリアの関係悪化をきっかけに、中国がオーストラリア産の大麦やワインに関税を上乗せする措置などを行いました。

経済的威圧への懸念が高まる中、日本を含むG7各国はことし5月に開催されたG7広島サミットで、中国を念頭に、経済的威圧への対応の強化に結束して取り組むことを確認していて、G7として経済的威圧の被害を受けた国々を支援する「調整プラットフォーム」を立ち上げました。

このほか、EU=ヨーロッパ連合では経済的に威圧する国に対する関税の優遇の一時的な停止など、新しい措置の導入に向けた手続きが進められていて、経済的威圧に対抗する動きが活発化しています。

一方で、アメリカが強化している中国向けの先端半導体や製造装置の輸出規制や、ウクライナに侵攻したロシアに対する欧米各国や日本の経済制裁も「経済的威圧」にあたるという専門家の見方もあります。

中国による水産物輸入停止 取り引き激減の事業者も

中国による日本産の水産物の輸入停止などで水産業では売り上げの減少といった影響が続いていて、事業者からは政府に対し、輸入停止の撤廃に向けて働きかけを強めてほしいという声があがっています。

東京 江東区の豊洲市場から20余りの国や地域に高級魚のキンメダイやウニなどを輸出する仲卸会社は、香港向けの輸出がおよそ半分を占め、一部は中国本土にも流通していました。

しかし、福島第一原発の処理水の海への放出を受けて、中国がことし8月から日本産の水産物の輸入を全面的に停止したほか、香港も福島や東京など10都県からの水産物の輸入を禁止しました。

このため、香港向けの取り引きが激減し、1か月の売り上げは去年の同じ時期と比べて数千万円も減少する状況が続いています。

今回、G7の貿易相会合で中国の輸入停止の措置も議論されることについて、仲卸会社「山治」の山崎康弘社長は「香港や中国に代わる輸出先は簡単に見つかるものではないし、中国の人たちなどには純粋に日本のおいしい魚を食べてもらいたいと思っている。国際会議の場でも今回、中国がとった措置が果たしてどうなのか、しっかり議論してほしい」と話しています。

行き場を失ったホタテが山積みに…

一方、中国向けなどにホタテを出荷していた北海道の水産加工会社は経営に大きな影響を受けています。

去年1年間に北海道から輸出された水産物のうち、中国向けは全体の6割以上となっていて、そのほとんどをホタテなどが占めています。

ホタテの産地、オホーツク海側の紋別市にある水産加工会社はこれまで、殻がついたホタテを冷凍し、商社を通じて中国に輸出してきました。

しかし、ことし8月下旬以降は中国向けのホタテは出荷できなくなり、会社の冷凍倉庫には行き場を失ったホタテが山積みになっています。

この会社によりますと、去年はおよそ2000トンのホタテを中国向けに出荷しましたが、ことしはその半分の1000トンほどにとどまっているということです。

冷凍保管しているホタテを中国以外や国内向けに出荷する場合は殻をむく必要があるということで、人件費などが大きな負担なるとしています。

水産加工会社「丸ウロコ三和水産」の山崎和也社長は「中国向けの殻つきホタテから冷凍貝柱を製造するには時間がかかり、工場にも無理がかかって大変だ。困る部分はあったが、中国向けに殻がついたまま冷凍するという手法を見つめ直すきっかけにもなった」と話しています。

販路開拓など輸出支援の動きも

中国による輸入停止で苦境に立つ水産業を支援しようと、JETRO=日本貿易振興機構は先月、緊急対策本部を立ち上げ、水産物の輸出支援を始めています。

水産業者などからの問い合わせに応じる専用の窓口を設け、これまでに200件余りの相談や問い合わせが寄せられているということです。

このうち、水産物の輸出を手がける大阪の商社は、アメリカの西海岸で新たな取引先を開拓したいと相談に訪れました。

この商社は世界の30以上の国や地域にエビやホタテなどを輸出していますが、海外向けの売り上げのうち、2割から3割程度を中国向けが占めていたため、中国の輸入停止に伴う売り上げの減少は今年度、数億円にのぼる見込みだとしています。

新たな輸出先が見つかった場合でも、価格の交渉などに2か月ほどかかるということで、業績の立て直しを急いでいます。

相談に訪れていた商社「ショクリュー」の若宮浩紀さんは「中国とのビジネスの再開は一刻も早く望みたいが、カントリーリスクも考慮しながら、販売先を開拓したいという意識も強くなっている。販路も拡大して、新しい国やバイヤーとの出会いを大切にしていきたい」と話しています。

輸出支援にあたっているJETROの農林水産食品部の西浦克次長は「ホタテなどの販路開拓が課題のひとつで、まだ食べ慣れてない方もいらっしゃるので、そういう意味で需要の創出にも取り組まないといけない。サプライチェーンの再構築や新しい販路の見直しで貢献できればと考えています」と話しています。