首相 防衛費増額賄う増税 来年度は実施しない考え 衆院予算委

国会では27日から衆議院予算委員会で質疑が始まりました。
岸田総理大臣は、防衛費増額の財源を賄うための増税について、景気や賃上げの動向などを踏まえ来年度は実施しない考えを示しました。

▽自民党の田村元厚生労働大臣は医療機関に支払われる診療報酬などの改定をめぐり「医療や介護、福祉に従事する人の所得は低い。介護報酬は3年に1回、診療報酬は2年に1回しか改定がないなど、賃金を上げるために価格交渉をしようと思っても値段が上げられない状況にある」と指摘しました。

これに対し、岸田総理大臣は「今回の経済対策の中身を見たうえで必要な処遇改善の水準を検討していかなければならない。産業全体の賃上げを考えていく中で医療や介護、障害福祉の分野での賃上げがどうあるべきなのか真剣に考えたい」と述べました。

▽公明党の高木政務調査会長は、所得税などの減税と防衛費増額の財源を賄うための増税の整合性をめぐり「『防衛増税を決めたではないか』とか『矛盾するものではないか』などと、さまざまな意見もあるが、そういった指摘にどう答えるのか」と問いました。

これに対し、岸田総理大臣は「防衛力の財源確保のための税制措置は、所得税の部分を現下の家計の負担にならない仕組みとしており、増税ではないので、定額減税との整合性の問題は生じない。景気や賃上げの動向などを踏まえて判断するもので、来年度から実施する環境にはなく、定額減税と同時に実施することにはならない」と述べ、来年度は防衛費増額の財源を賄うための増税を行わない考えを示しました。

また高木氏は、少子化対策で増額される第3子以降の児童手当について「今の制度では、3人以上の多子世帯は上の子が高校を卒業すると3番目の子が第3子として扱われず、第2子になってしまう。本当におかしな話で、今の時代に合っていない」と指摘しました。

これに対し、岸田総理大臣は「経済的支援の強化策として第3子以降の支給額を3万円とすることにしているが、多子のカウント方法について現段階で具体的な制度設計は固まっていない。ライフステージを通じて切れ目なく支援するという趣旨や指摘もしっかり受け止めたうえで制度設計を具体化したい」と述べました。

▽立憲民主党の長妻政務調査会長は「『増税メガネ』ということを気にするあまり減税に走ったと言われている。まさかそのようなことはないと思うが、減税と給付の2つの制度が混在し、手間もかかるし不公平もある。なぜ給付だけにしないのか」と問いました。

これに対し、岸田総理大臣は「いろいろな呼び方はあるものだなと思っている。給付と減税との間、世帯と人数との間の不公平は、給付の部分に必ず何らかの上乗せをすることで逆転あるいは不公平が生じないような工夫をする取り組みを指示しているところだ」と述べました。

▽立憲民主党の西村代表代行は、旧統一教会の被害者救済をめぐり「旧統一教会から、財産保全のための法案を国会に提出しないでほしいという文書が自民党の複数の議員にファックスで届けられたと報じられた。これに影響を受けているのではないか」とただしました。

これに対し、岸田総理大臣は、同様の文書がみずからの事務所にも送られていたことを明らかにしたうえで「意図は全くわからないが、党として旧統一教会との関係を断つ方針を確認しており、不当な影響を受けることは金輪際ないと確信している。財産保全の重要性に鑑み、与党プロジェクトチームの議論を始めており、その結論を確認してもらいたい」と述べました。

また、岸田総理大臣はイスラエル・パレスチナ情勢をめぐり「非常任理事国の1国として汗をかくのは当然だ。決議案を提出するのがいいのか、同志と決議案をまとめ、ともに通すのがいいのか、安保理として意思表示をするための役割をしっかり果たしていきたい」と述べました。

一方、岸田総理大臣は、ジャニー喜多川氏の性加害の問題について「性暴力は重大な人権侵害で、たとえ被害者が1人であっても許されない。ましてや長期間にわたって広範に繰り返されていた事案であり、決してあってはならない事件だという認識を強く持っている」と述べました。

さらに岸田総理大臣は、子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないことを確認する制度「日本版DBS」を導入する法案を、来年の通常国会に提出するよう求められたのに対し「実効的なものにするために議論や作業がまだ続いているが、できるだけ急ぐよう改めて私からも関係者に指示する」と述べました。

また、岸田総理大臣は、準備の遅れが指摘される再来年の大阪・関西万博について延期や中止を検討する考えがあるか問われ「工事の遅れは参加国への個別の伴走支援や施工環境の改善で対応していく。わが国として万博の開催を延期することは考えていない」と強調しました。

このほか加藤こども政策担当大臣は、埼玉県議会の自民党県議団が提出し、その後取り下げた、子どもの放置をめぐる虐待禁止条例の一部改正案について「1人の母としては、かなり難しいものを求めている条例だったと申し上げたい。『こども基本法』には議会などでも子どもや当事者の声を聞きながら議論してほしいという方針があり、周知を進めていきたい」と述べました。

旧統一教会の被害者「急いで法整備を進めてほしい」

母親が多額の献金被害を受けた60代の女性は、衆議院予算委員会を傍聴したあと記者団に対し「岸田総理大臣の答弁からは、旧統一教会の財産保全について、スピード感を持って法整備をしようという意思は感じられず、本当に残念だ。被害者を救済しなければならないことは誰もが理解していると思うので与野党関係なく、急いで法整備を進めてほしい」と述べました。

ジャニーズ問題 当事者の会副代表「首相に事実を伝えたい」

「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の副代表を務める石丸志門さんは衆議院予算委員会を傍聴したあと記者団に対し「岸田総理大臣がジャニーズの問題を認識していると分かったことは収穫だったが、被害者と会うところまで踏み込まず非常に残念だ。岸田総理大臣に会ってもらえる可能性は残っていると思うので、ぜひ会って事実を伝えたい」と述べました。

松野官房長官「検討する方針に変わりない」

松野官房長官は午後の記者会見で「令和9年度までに必要となる防衛力強化のための財源確保の方策は、さらなる税外収入の確保を含め予算編成過程で検討していく。財源確保のための税制措置を昨年末に決定した閣議決定の枠組みと『骨太の方針』に基づいて検討する方針に変わりはなく、引き続き政府・与党で緊密に連携していきたい」と述べました。