アーティスティックS 乾友紀子選手が引退会見「悔いはない」

水泳のアーティスティックスイミングで日本のエースとして活躍し、リオデジャネイロオリンピックで2つの銅メダルを獲得した乾友紀子選手が引退会見を開き「1日1日積み重ねてきた日々に悔いはない」と26年間の現役生活を振り返りました。

32歳の乾選手は、長い足を生かした美しく、しなやかな演技を持ち味に、アーティスティックスイミングで日本のエースとして活躍し、2016年のリオデジャネイロオリンピックでデュエットとチームでともに銅メダルを獲得したほか、ことし7月に福岡市で行われた世界選手権では、ソロの2種目で日本選手で初めてとなる2連覇を成し遂げました。

今月現役引退を発表した乾選手は、27日都内で記者会見を開き「結果だけでなく、1日1日濃い時間を過ごして積み重ねてきた日々に悔いがなかったので引退を決意した。26年間の現役生活ではうまくいかないこともあり、悔しい思いもしてきたが、目の前の目標に向かって1つずつ進んできた」と現役生活を振り返りました。

思い出に残っているオリンピックには、銅メダルを獲得したリオデジャネイロ大会をあげ「初めて出場したロンドン大会はまったくメダルに手が届かず、4年間でメダルを取るという思いで必死にやってきた。獲得できた瞬間はすごくうれしく、ほっとしたのを鮮明に覚えている」と話しました。

また、東京オリンピックのあとに、オリンピック種目ではないソロに専念したことについては「こういうことを自分は知らなかったんだとか、体がこんなふうに変わっていくんだというのを知ることができた。自分自身と向き合った2年間ですごく楽しかった」と充実感をにじませました。

そして、小学6年生から指導を受けてきた井村雅代コーチについては「引退を告げた時、『いいことばかりでなくうまくいかないことも含め、いろんなことを経験できたのはよかった』と言われた。井村先生なしではここまでこられなかったし、どんな時でも味方で引っ張ってきてくれた」と感謝を述べました。

今後は選手の指導などにも関わっていきたいということで「今までの経験を伝えていきたい」と話していました。

乾友紀子選手とは

乾友紀子選手は滋賀県出身の32歳。小学1年生から競技を始め、6年生のときに数々の名選手を育てた井村雅代氏が運営するクラブに移籍して指導を受けてきました。

日本選手権(2009年)

アーティスティックスイミングの選手としては1メートル70センチと長身で、長い足を生かしつつ、しなやかな演技を持ち味としていて、2009年に日本代表となって以降、エースとしてけん引し、初めてのオリンピックとなる2012年のロンドン大会では、デュエットとチームでともに5位に入りました。

そして2016年のリオデジャネイロ大会では、三井梨紗子選手と組んだデュエットで銅メダルを獲得し、チームでも銅メダルと、2つのメダルを手にしました。

おととしの東京大会では、3大会連続のオリンピック出場を果たし、デュエットとチームでともに4位となりました。

東京大会のあとは、オリンピック種目ではないソロに専念し、去年の世界選手権では、ソロのテクニカルルーティンとフリールーティンで日本勢初となる金メダルを獲得。

さらに、ことし7月に福岡市で行われた世界選手権では集大成の大会と位置づける中、海外勢を含めても2人目となるソロ2種目での連覇を達成しました。

井村コーチと歩んだ26年間

「井村先生なしではここまでこられなかった。どんな時も味方でいてくれたので、ここまで続けてこられた」

乾友紀子選手が26年間の現役生活を振り返り、まず口にしたのは、小学生のときから指導を受け酸いも甘いもともに経験してきた井村雅代コーチへの感謝のことばでした。

2009年に代表入りして以降、日本のエースとしてけん引してきた乾選手ですが、「競技をやめよう」と思った時期があったといいます。

それが2012年のロンドンオリンピック。チーム・デュエットともに5位に終わり、日本が初めてオリンピックでメダルを逃しました。

乾選手は「メダルを狙っても取れないということが続き、メダルを追うことを目標としなくなった自分が嫌になった」と振り返ります。

このタイミングで日本代表のコーチに戻ってきたのが、アテネ大会後、中国代表のコーチなどを務めていた井村さんでした。目標を見失いかけていた乾選手は「信じてついていこうと思った。『もう一度世界でメダルを獲得したい』という目標に向かって、1つずつ進んでこられた」と井村コーチの復帰が大きなモチベーションにつながったと話しました。

そして井村コーチの厳しい練習メニューに耐え、リオデジャネイロ大会では、チーム・デュエットともに銅メダルを獲得し、名実ともに日本のエースとしての地位を確立しました。さらに東京大会のあと、ソロに専念してからも井村コーチとともに世界の頂点を目指し、世界選手権でソロの2種目で連覇という日本選手初の偉業を成し遂げました。

乾選手は「最初はわけもわからず、井村先生から課されたメニューをこなすだけで精いっぱいだったが、具体的に自分がこんな演技がしたいとか、ここがうまくいかないというのがわかるようになってきて、それを伝えられるようになってから、コミュニケーションを取れるようになった。特にことしの世界選手権はすごく話し合いながら演技ができた」と話しました。

「いつも近くにいてくれて心強くて頑張れた。“ありがとう”のことばでは伝えきれないくらいの感謝の気持ち」

厳しくも温かい『二人三脚』で歩んだ競技人生が今、完結しました。