1%に迫る長期金利 適正水準は?【経済コラム】

長期金利の上昇が止まりません。10月26日には長期金利の代表的な指標となっている10年ものの国債の利回りが10年ぶりに0.885%まで上昇。日銀が事実上の上限とする1%にじりじりと近づいています。長期金利は、景気や物価、為替などの長期的な予想をもとに形成され、「経済の体温計」とも呼ばれています。またその水準が住宅ローンの固定金利に反映されるなど私たちの暮らしにも影響を及ぼします。気になる長期金利。いったいどこまで上昇するのか、取材しました。(経済部記者 西園興起)

1%に迫る長期金利

日銀は7月28日に長期金利の上昇をそれまでの0.5%程度から事実上、1%まで容認することを決定。

0.5%以下に抑えられていた長期金利は、7月31日に0.6%を突破。

9月11日には0.7%、10月4日には0.8%を超え、じわりじわりと1%に迫っています。

日銀は、この間の金利の上昇をどう見ているのか。

植田総裁は、9月22日の記者会見で、「7月との比較でいえば、わずかな金利上昇で、それほど心配する動きではない」と述べました。

会見する植田総裁(9月22日)

7月28日の会合から9月22日の会合までのおよそ2か月で長期金利は0.24ポイント上昇。

植田総裁はこれを「わずかな上昇」と評価したわけですが、その後1か月でさらに0.14ポイント上昇しています。

このペースで推移すると、11月下旬には1%に達することになりますが、そこにはさまざまな考え方があります。

1%が壁になる?

まず、1%は壁のようなもので、そこに近づくにつれて上昇スピードは緩やかになるという考え方があります。

磁石の同じ極どうしを近づけたように、近づくとその勢いは弱まり、壁を突き抜けることもない。

なぜこのように考えるのかというと、内田副総裁が8月2日の記者会見ではっきり答えているように、1%をつける前に日銀が「必ず」オペ(公開市場操作)で金利の上昇を止めるという方針を示しているからです。

会見する内田副総裁(8月2日)

「必ず止める」とまで力説した以上、日銀はいわば防衛ラインとして全力で1%超えを阻止するのではないか。

投資家は1%の手前で立ち止まり、あるいはしゅん巡し、その結果、当面1%を超えることはないだろう。

このように1%が壁となるという考え方があり、日銀内部にもこれと同様の説を唱える向きもあります。

また、日本生命の都築彰 財務企画部長は、日銀が1%の事実上の上限(キャップ)を意識しながら対応をとっていることが、長期金利を抑える効果をもたらしていると指摘します。

都築彰 財務企画部長
「長期金利が1%のキャップに向けて上昇する中、日銀はこれまで繰り返しオペを行っている。これによって国債の売り圧力を和らげている。こうした状況を踏まえると年内は長期金利は1%以内で推移するとみている。ただ、もし、YCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)のキャップが存在しなければ、長期金利は1%程度になっているのではないか。今は、キャップがあるので、日銀が利上げなど次の政策に踏み切るという見方が強まらず、金利は抑えられている状態だ」

適正水準は1%を超えている?

一方、これとは異なる考え方もあります。

長期金利の適正水準がすでに1%を超えており、この水準を目指して動いている以上、早晩1%に到達する可能性があるのではないかという考え方です。

この先の金利水準を見る上で市場が注目しているのが「OIS」(オーバーナイト・インデックス・スワップ)のデータです。

OISというのは、固定金利と変動金利を一定期間交換する「金利スワップ」と呼ばれる取り引きの1つです。

変動金利については「無担保コール翌日物金利」を参考にします。

これと交換する固定金利はOISレートとも呼ばれ、金融機関どうしがお金を貸し借りする際に、その返済期間ごとにあらかじめ相対で決めておく金利です。

この金利を決める際、各金融機関は、日銀の政策金利がどうなりそうか予測しながら金利の水準をはじき出していて、ここから市場が金利をどう見ているかを確認できます。

10年もののOISレートは10月18日以降、1%を超え、26日には1.0925%まで上昇しています。

これをもとに市場はすでに長期金利が1%を超えることを見越しているという見方もあります。

ただ、長期金利の適正水準を理論的に示すことは難しく、日銀関係者の中にも、どこが適正水準なのかわからないと正直に明かす人もいました。

長期金利の上昇要因、その多くはアメリカ?

そもそもこのところの日本の長期金利の上昇の背景には何があるのか。

その多くがアメリカの長期金利上昇の影響によるものだという見方もあります。

アメリカでは、堅調な経済指標の発表や原油価格の高騰によるインフレ懸念の再燃、さらに財政悪化に対する不安を背景に長期金利が急ピッチで上昇しています。

日銀の野口旭審議委員は、10月12日に新潟市で行った記者会見で、アメリカの長期金利の上昇ペースは速いとした上で、「これに影響を受けて日本(の長期金利)も歩調を合わせる形で上がってきた」と述べています。

そして「アメリカの長期金利がさらに一方的に進むということも、そうではない可能性もあるので、それを見極めるのが今の段階だ」と指摘しています。

アメリカの長期金利を形づくるさまざまな要因がこの先どのように重なり、その結果、長期金利はどう動くことになるのか、これを丹念に分析し、日本の長期金利への影響を見極める必要があります。

長期金利はどこに向かう

長期金利の動向は、為替や株価の動きを左右し、さらには住宅ローンの固定金利の水準にも影響します。

市場は1%という「壁」をどこまで意識するのか。

そして壁に対する圧力はこの先強まるのか弱まるのか。

「経済の体温」を見極める取材はまだまだ続きます。

注目予定

日銀は10月30日と31日の2日間の日程で金融政策決定会合を開きます。

物価や長期金利、円安などの動向も踏まえ、政策の方向性を議論します。

今回は、最新の経済と物価の見通しをまとめた「展望レポート」を発表しますが、この結果をふまえて植田総裁がどのような現状認識を示すのか注目されます。

また、アメリカのFRB=連邦準備制度理事会が金融政策を決定する会合を開きます。

市場では、利上げを見送るとの見方が大勢ですが、パウエル議長が会見で、今後の金融政策のスタンスについてどのように説明するのかも焦点です。