なぜ、社歌?会社の“歌”ありますか?

なぜ、社歌?会社の“歌”ありますか?
会社の歌、「社歌」。

そんなの古い?それとも必要ない?

実はいま、いろいろな企業で社歌を作る動きが出ているんです。

いったいなぜ?調べてみました。

実はあなたの会社にも、あるのかも?

(サタデーウオッチ9 長野幸代/千葉柚子)

どうして今、社歌?

東京 池袋で複数の飲食店を運営する会社では去年、会社の歌「社歌」を作りました。
発案したのは、社長の宮坂庸之さんです。

きっかけは、コロナ禍でした。

コロナ禍で客足は激減。

一部の店舗は閉店に追い込まれました。

負債は一時3000万円を超え、倒産も頭をよぎるほどだったと言います。

会社存続の危機に直面する中、宮坂さんを支えたのは、お客さんの存在でした。

弁当の販売や配達を始めたところ、常連客を中心に注文が入るようになったのです。
宮坂さんは、この時の励ましがあったからこそ、コロナ禍を乗り切ることができたと話します。

そして少しずつ業績が回復する中、感謝を伝える方法として思いついたのが社歌でした。
Sun Shiny 宮坂庸之社長
「SNSや、直接会ってありがとうと伝えることはできますが、コロナ禍は本当に大変すぎて、ここまで深く感謝の気持ちって感じるんだと思えるぐらい救われました。いろいろな方のおかげでコロナを乗り越えることができて、この気持ちを忘れてはいけない。だから本当にうわべではないと、社歌という形にして残したかったんです」
曲のタイトルは「ありがとう」。

およそ40人の従業員と一緒に歌詞を考えました。

「ずっと忘れないよ 一番つらいときに支えてくれたこと 見上げた空に溢れる思いは 君に伝えたかった ありがとう」(歌詞の一部)
社員たちはふだん、それぞれの店舗で業務に当たっています。

このため、一緒に1つのものをつくるという経験は、8年前の会社設立以来、初めてのことでした。
「最初はピンとこなかったけれど、話しているうちに気持ちが入ってきました」

「自分たちの歌ができるってうれしいし、楽しみだと思いました」

社歌づくりをこう振り返る社員たち。

今は開店前にこの曲を店内に流し、時折口ずさみながら準備にあたっています。
心に抱く思いはそれぞれです。
社員
「僕は緊急事態宣言の時に、店長をしていた思い入れのあるお店を潰してしまいました。泣きながらその決断をした悔しい思いがありますが、その気持ちを忘れずバネにして目標に向かって働ける、そんな歌になりました」
別の社員
「僕はコロナ禍は入社する前でお客さんの立場でした。でも今はみんなが頑張ってきたから今の会社があるんだと歴史を感じるというか、ありがたく思いながら歌っています」
宮坂庸之社長
「自分たちで書いた歌詞の社歌を歌うことで、いつでも初心にかえって感謝の気持ちを思い出すことができます。社歌のおかげで、団結力や一体感のようなものも生まれた気がします」

社員のための“社歌”

一方、社歌作りを行うビジネスの需要は回復傾向にあるという声も。

これまでに100曲以上の社歌の制作を請け負ってきたという会社では、コロナ禍で一時は需要が激減したものの、ことしに入り依頼が増えているといいます。

社歌は、会社と打ち合わせを重ねながら作ります。

制作にかかる期間は、数か月から長いもので1年以上かかります。

依頼先の会社の業種は多種多様。

またその規模も、社員10人ほどの会社から1万人以上のところまでさまざまです。

会社によると、周年記念やM&Aで組織が変わるタイミングなどをきっかけに、“ここで一度社員の認識を共有しよう”と制作を検討する会社が多いそうです。
社歌制作などを手がけるアイデアガレージ 西尾竜一社長
「社歌では、歌詞という短い文章の中に、キーワードを凝縮しなければなりません。お客さんへの思いやこの会社で働く意味、会社の姿勢などを凝縮することが特徴です。ずいぶん前は朝礼で歌うこともありましたが、今は“社員による社員のための社歌”です。歌詞には自分(社員)が言った言葉が入ることもあるし、愛着も湧きます」

ネットも追い風に

SNSやYouTubeが追い風になっているという声もあります。

毎年開催されている「全国社歌コンテスト」。

毎回100を超える企業がポップスやロックなどさまざまなジャンルの曲で応募しています。
4年前からコンテストを主催する日本経済新聞社によると、公式YouTubeは18歳から65歳以上まで幅広い世代に視聴され、2023年大会の一般投票数は4年前(2019年)の3倍以上となる122万に上ったということです。
社歌コンテスト事務局
「社歌という昔ながらの音楽を、動画コンテンツとして現代風にアレンジすることで一気に会社の世界観・価値観が可視化され、SNSやYouTubeのプラットフォームとも連携させることで、広がりを見せています。参加する企業が自主的に楽しみながら拡散していただいている点が大きいと感じます」

実は日本独自に発展

ところでみなさん、社歌はいつごろできたと思いますか?

社歌研究の第一人者で著書もあるジャーナリストの弓狩匡純さんによると、最も古い社歌の歴史は1917年に南満州鉄道が歌詞を公募した時にさかのぼるそうです。
ほぼ同時期に海外の会社が社歌を作ったというケースはあったそうですが、“会社の歌をみんなで歌う”という文化が根付かず、社歌という文化は日本独自の発展を遂げたと分析しています。

これまで200を超える会社の社歌を調べた弓狩さん、「社歌は時代によってどんどん変わる面白い文化です」と話します。
弓狩匡純さん
「世界恐慌の直後や第二次世界大戦の頃、バブル期など、さまざまな経済の節目で社歌がブームになっています。良い時にはもっと業績をあげよう、悪いときにはみんなで団結して乗り切ろうと社歌を作って歌う。社歌は経済と密接に関係しています」
かつては社名を連呼することも多かったということですが、今は曲調も歌詞も大きく変わっているといいます。

いまの社歌をめぐる動き、弓狩さんはどう見ているのでしょうか。
弓狩匡純さん
「昔で言う愛社精神とは少し違うとは思うんです。ただ、自分が属している一つの共同体をもり立てる、特に若い方々が、自分たちが働いている生活の一部のような企業を盛り上げたいというような意識がとても高まっていると思います。
社歌作りを通して、社員間のコミュニケーションが高まり、対外的にも知られるようになってくると、間接的でも利益につながる可能性が高いんですよね。目先の利益ではなく、中長期的な利益を目指したときに、社歌というものがどのように効果を発揮するか、経営者も気づき始めていると思います」
コロナ禍をへて、働く目的や所属する組織の存在意義を改めて問い直される中で、見直される「社歌」。

もしかしたら、あなたの会社にもあるかもしれませんよ。

(10月28日「サタデーウオッチ9」で放送)
サタデーウオッチ9
長野幸代
2011年入局
岐阜局 鹿児島局 経済部を経て現所属
サタデーウオッチ9
千葉柚子
2017年入局
鹿児島局 首都圏局を経て現所属