社会

「背後から突然クマが…」クマ被害過去最悪 目撃情報に異変も

山あいではない住宅地でした。いすに座っていると、背後から突然何かがぶつかり、気付くと頭から血が流れていました。

逃げていく黒いものをよく見ると、クマの姿が。

秋田県ではクマによる人への被害の8割が民家近くなどの生活圏で起きています。

ことしの被害の状況を分析すると“ある異変”が見えてきました。

まさか住宅街に「安心な場所がない」

今月9日の午前9時すぎ、秋田市新屋地区で、住民5人が次々にクマに襲われるなどしてけがをしました。

このうち藤谷智義さん(80)は当時、自宅の敷地内にいて、外での作業を終えていすに腰掛けていたところでした。

すると、突然、背後から何かがものすごい速さで走ってきて、藤谷さんを突き飛ばすようにぶつかってきたあと、そのまま逃げていったということです。

藤谷さんは一瞬、何が起きたのかわからなかったと話しています。

藤谷智義さん
「いや、ものすごかったです。何かが飛んできたとか、落っこちてきたのかなと思ったんですけども、こう倒れながらちょっと見たら黒いのが走ったもんだから、クマだって。ぶつかられたところがもう痛くて痛くて、もう真っ青になってね」

藤谷さんはぶつかられた際に頭などをひっかかれてけがをして血が流れていて、傷を押さえながら住宅に戻り、救急車を呼んだということです。

現場は秋田市郊外の住宅街で、周辺にはクマが住むような山はありません。

この地区に40年近く住んでいる藤谷さんは、これまでクマが現れたという話を聞いたことは一度もありませんでしたが、今回の件をへて、考え方が変わったと話しています。

藤谷さん
「ここは住宅街ですし、山もないのでクマが来るっていうのはおそらくどなたも考えていないと思います。クマは何でもするんだなと思って、これからの時代は、『ここだから安心』という場所がないのかなと思いますね」

どうやって住宅地に?

近くに山がなく海が近い住宅地に、なぜクマが現れたのか。

クマの生態に詳しい秋田県自然保護課の近藤麻実さんに現地で話を聞きました。

近藤さんは、現場から160メートル離れた場所を流れる雄物川が原因ではないかと指摘しています。クマが、川沿いを通って山から下りてきたというのです。

秋田県自然保護課 近藤麻実さん
「食べ物ないかな、ないかな、ここないな、ここないなと少しずつ歩いているうちに、山から離れた住宅地に来てしまったというかたちなので、川沿い、河畔のやぶはどこも生い茂っているので、クマの格好の移動ルートになっているんですよね。大きい河川沿いでも小さい河川沿いでもクマは通っていますので」

近藤さんは、今後も別の場所でも同じように、食べ物を求めて住宅地などにクマが現れることがありうるので、十分注意して対策をとってほしいと呼びかけています。

秋田県自然保護課 近藤麻実さん
「ことしはどこに出てもおかしくない状況で、住宅地でも油断せずにアンテナ高くしておくことが必要です。また、車庫や小屋にうっかりクマが入っているのに気がつかなくて、ということもありうるので、閉められるところは完全に閉めるなど対策を徹底してください」

被害のほとんどが人の生活圏で

各地でクマによる人への被害が相次ぐ中、最も多い被害が出ている秋田県内では、県が25日までに被害にあった場所を分析したところ、全体の8割にあたる49人が民家などが近い「人の生活圏」でクマに襲われていたことがわかりました。

住宅街などに出てきたクマに人が次々に襲われるケースも相次いでいて、県は被害を防ぐ対策の徹底を呼びかけています。

秋田県内ではことし4月以降、25日までにクマに襲われるなどしてけがをした人は58人で、過去最悪の被害となっています。

県が58人が被害にあった場所を分析したところ、全体の8割にあたる49人が民家などが近くにある人の生活圏で襲われたことがわかりました。

秋田県の被害 ことし過去最悪に

住宅街などに出てきたクマに人が次々に襲われるケースも相次いでいて、9日には秋田市新屋の住宅街で60代から80代の男女5人が相次いでクマに襲われるなどしてけがをしました。

さらに19日にも北秋田市の市街地で5人が相次いでクマに襲われ、83歳の女性が顔をひっかかれ肩を骨折する大けがをしたほか、高校1年生の女子生徒は登校するためバス停でバスを待っていたときに腕をかまれたということです。

「エサ不足で親子グマが人里に」

そしてもう一つの異変が、親子グマとみられる「多頭」のクマの目撃情報の割合です。

秋田県内の今月16日までのクマの目撃情報は2200件と過去最多となっています。

金沢市の委託で石川県立大・大井特任教授が調査、撮影したクマ

このうち特に、1頭ではなく、親子と見られる「多頭」のクマの目撃の割合はことしは12.5%で、5年前の2倍に増えているほか、特に、9月から10月16日までの件数は244件で、率にして18.7%となっています。

ことしはクマのエサとなる山の中のブナの実が「大凶作」となっていますが、同じく「大凶作」だった2019年の9.9%、2021年の11.1%と比べても大幅に高くなっています。

こうした状況について、クマの生態に詳しい専門家は。

石川県立大学 大井徹特任教授
「過去に同様にブナが大凶作だった年と比べても著しく親子グマとみられる目撃情報が多く、山のなかは大変な『エサ不足』になっていることが伺える。子グマを連れて行動する母グマは、子グマを守るために本来は慎重に行動するが、冬眠の準備のために子グマのエサも確保しなければならず必要なエサの量が多いため、親子で多く人里に出没していることが考えられる」

さらに大井特任教授は、東北地方においては、秋のエサ不足の影響がまだ出ていない、ことしの夏場から、目撃件数が増加していたとしたうえで、「普段から、人里近くで生活しているクマがいると考えられる。親子グマも人里近くに定着・繁殖しているとすれば、人里の環境に慣れて、心理的な抵抗なしに人里に出没している可能性がある」と述べています。

いまできる対策は

クマに襲われてけがをするなどした人の数をNHKがまとめたところ、今年度はこれまでに18の道府県で少なくとも170人に上り、過去最悪の被害となっています。

被害に遭わないためにどのような対策をとればよいのでしょうか。秋田県自然保護課の近藤麻美主任に聞きました。

《クマを寄せ付けないために》

▼自宅周辺の柿や栗の木を放置しない
特に山が近くにある地域は、実を早めに回収することが重要です。食べられない分は処分し、クマが近寄らないようにしてください。

▼屋外にごみの放置をしない
人の生活圏に近寄ったクマが食べないよう、長時間外に置かないことや、においが漏れないための工夫も必要です。

また、クマは臭いが強いものに興味を示す習性があるということです。

クマが侵入する恐れのある自宅の1階などに漬物など臭いの強い食材を置かないようにすることも大切だということです。

最新の主要ニュース7本

一覧

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。

特集

一覧

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。

スペシャルコンテンツ

一覧

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。

ソーシャルランキング

一覧

この2時間のツイートが多い記事です

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。

アクセスランキング

一覧

この24時間に多く読まれている記事です

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。