物流変化に新チャンス?

物流変化に新チャンス?
ネット通販の拡大やトラックドライバーの人手不足が懸念される「2024年問題」。物流をめぐる環境が大きく変化するなか、こうした動きをチャンスととらえ、地域活性化につなげようという動きも出ています。
(盛岡放送局記者 天間暁子)

出現した大型物流倉庫

盛岡市近郊に出現した巨大な建物。

企業向けに物流施設を貸し出している不動産会社が整備を進めている物流倉庫です。
延べ床面積は、約9万9000平方メートルと東北地方では最大級。

11月末に完成する予定です。
施設では、非常用発電機や24時間体制で管理する防災センター、最新のセキュリティシステムなどを備えています。

またトラックドライバーが休憩するためのカフェテリアなども併設される計画です。

11月末の完成を前に、倉庫の整備を進めている会社には、入居を希望する物流会社からの連絡が相次いでいると言います。

人気を集めるその理由について、担当者はその「立地」を挙げています。
プロロジス 中山博貴さん
「2024年問題でトラックドライバーが長距離を運べなくなるため、北東北にもう1つ物流拠点が必要になる。ぴったり当てはまる地域が東北においては盛岡なんです」

新たな物流の要?

「ぴったりと当てはまるのが盛岡」

それはいったい、どういうことなのでしょうか?このことばの背景にあるのが、トラックドライバーの人手不足が懸念されている、いわゆる「2024年問題」です。
労働基準法の改正で、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限されるなど厳しくなります。

ドライバーの拘束時間は原則1日あたり13時間以内。

取材した物流会社などによると、出発前の車両点検や荷物の積み降ろしなどの業務にかかる時間、それに休憩時間を除くと、運転にかけられる時間は6時間ほどになることが多いと言います。

この場合、拘束時間を13時間とし、往復することを考えると、配送できるのは片道3時間ほどのエリアに限られてしまいます。

東北地方ではこれまで、仙台市に拠点を設けて、6県全体をカバーするケースが一般的でした。
しかし、仙台からかけられる時間を片道3時間とした場合、北東北、つまり青森や秋田・岩手の多くは配送できるエリアから外れてしまいます。

そこで、新たに注目を集めているのが、盛岡市とその近郊だといいます。

このエリアに新たに拠点を作ると、北東北のほとんどをカバーできるようになります。
仙台と盛岡。

この2つの拠点で東北全体をカバーできるようになるというわけです。

企業が注ぐ熱い視線

建設中の物流倉庫では、こうした立地に着目した物流関連の企業の視察が相次いでいます。

仙台市に本社がある「東北丸和ロジスティクス」もその1つです。
この会社は、東北各地のスーパーやドラッグストアへ毎日決まった時間に食品や医薬品を届けています。

来年以降も、北東北への配送をこれまでどおり滞りなく続けるためには、盛岡近辺での拠点が不可欠だと話します。
東北丸和ロジスティクス 渡邊雄一執行役員
「取引先から、食品や医薬品の在庫をなるべく近くに持っておきたいというニーズもある。われわれとしても、一般の消費者の方々に必ず商品を届けなければならないという強い認識を持っている。盛岡に拠点があれば取引先が望むときに届けられる環境が作られると思っているし、労働時間削減の工夫も魅力的だ」
盛岡近郊での物流施設の建設はこのほかにも。

このうち、横浜市に本社を置く「東日本エア・ウォーター物流」では、盛岡市に隣接する滝沢市に、東北では初めて食品の物流拠点を整備しました。

施設はことし8月から稼働を開始。

スーパーやコンビニなどに冷凍・低温・常温の3つの温度帯の食品を届けています。

はじめはニーズに気付かなかったが…

ネット通販の拡大に伴う運送量の増加や2024年問題。

物流業界をめぐる変化を、チャンスにつなげようと自治体も動き始めました。

盛岡市では、去年6月、物流業に特化した産業団地の造成に向けた基本計画を策定。
ことし8月には一緒に開発計画を進める民間の事業者の募集を始めました。

ただ行政側ははじめは、こうした物流のニーズに気付いていなかったといいます。

4年前、盛岡市は、製造業の企業を誘致しようと、別の工業団地の整備計画を進めていました。

ところが、企業の募集を開始した直後から相次いだのは、物流関連の企業からの問い合わせでした。

市としては、募集の対象となる業種でなかったため、実際に寄せられた数件の申し込みを断っていたと言います。

それでも続く問い合わせを不思議に思っていたという市。

3年前に企業誘致に向けたアンケート調査を行ったところ、盛岡市への進出希望があった27社のうち物流企業が8社と最も多くを占めていて、需要があることを確信。

理由を聞いて、背景にドライバーの労働環境の改善に向けた動きなどがあることを理解したのです。

想定を上回る物流拠点の需要があることを把握した盛岡市。

複数の企業に物流倉庫や配送拠点として進出してもらおうと、物流に便利な高速道路のインターチェンジやJR貨物のターミナル駅に近い場所に、約75ヘクタールの産業用地を確保する計画を立てました。
造成工事は2026年に着手、2028年頃に工事を完了させたいとしています。

2024年には間に合いませんが、今後も高い需要が続くとして、市では5000人の新たな雇用と580億円近い経済効果をもたらすと試算しています。
盛岡市 新産業拠点形成推進事務局 曽根田雅彦 事務局長
「今がチャンスだというふうに捉えている。2024年問題のスタートには間に合わないかもしれないが、盛岡市が産業用地を用意できることを示せば、いま対応を検討中の企業の進出を促せると考えている。この事業は盛岡市の産業の活性化と雇用の場の確保のために非常に重要な事業なので、しっかりと進めていきたい」

専門家「地域活性化の好機」

物流業界では、2024年問題やネット通販の拡大への対応、それに地震などの災害時に交通網が遮断された場合などに備えて、配送の拠点や在庫を保管しておく倉庫を地方に分散させる対策も進んでいます。

不動産に関わるコンサルティングなどを行っていて、今回、物流施設の盛岡への進出なども支援した会社では、盛岡市とその近郊以外でも、物流網の新たな要になるのではないかと注目している地域があるといいます。

その1つが、静岡県の中部から西部にかけてのエリアです。

首都圏と大阪を結ぶルートで大きな役割を果たす可能性があるとしています。

このほか、大阪から中国・四国地方をカバーできるとして岡山県、そして福岡から九州南部をカバーできるとして宮崎県の、それぞれの一部の地域なども注目しているということです。
CBRE 松原裕隆シニアコンサルタント
「2024年問題をきっかけに物流拠点の見直しが進み、高いポテンシャルを持つ地域ではチャンスとなっている。物流会社などが進出すれば新たな雇用もうまれ、地域活性化につながることが期待される。未利用の土地や使っていない倉庫、閉鎖した工場などでも、高速道路のインターチェンジなどに近ければ、ひょっとしたら物流の適地であるかもしれないので、土地活用の見方を変えることで開発が進む可能性が出てくる」
物流施設の誘致や建設が、地域経済を活性化する新たなカギとなっていくのか。

今後も注目していきたいと思います。

(10月5日「おばんですいわて」で放送)
盛岡放送局記者
天間暁子
2001年入局
仙台局、函館局、生活情報部などを経てふるさと盛岡へ
震災、労働、暮らし全般を取材