被害額2億7000万円も… 各地で狙われる太陽光発電

被害額2億7000万円も… 各地で狙われる太陽光発電
東日本大震災以降、環境への影響が少ない再生可能エネルギーの電力源として、太陽光発電の普及が進んでいます。しかしいま、各地で窃盗グループの標的となっています。

盗まれるのは、送電用の銅線ケーブルです。茨城県など北関東を中心に4か月あまりの間に、被害額が2億7000万円に及んだケースもあります。

取材を進めると、損害保険会社や事業者たちに“想定外”の影響をもたらしていることもわかりました。なぜ、狙われるのか。真相に迫りました。

(水戸放送局記者 藤田梨佳子/清水嘉寛)

防犯カメラが捉えた犯行の一部始終

ことし2月に撮影された、茨城県小美玉市の太陽光発電施設の防犯カメラの映像です。時間はまだあたりが暗い午前4時。施設の外を歩く、複数の人影が見えます。
数分後、グループの一人が施設の中に侵入しました。太陽光パネルの下をはっていく様子がわかります。
さらに、黒いケーブルのようなものを複数人で施設の外に運び出し……。その後、用意した車にケーブルをのせ、あたりが明るくなった朝6時、車で走り去りました。

盗まれたのは、送電用の銅線ケーブル。長さは600メートルで、被害額は400万円近くにのぼりました。
太陽光発電事業者
「犯人グループは、車や人の通りの死角になっている場所から入ったと思う。銅線を切断して、すべて抜き取っていった」

「盗みやすい」

ことし7月、茨城県内の別の太陽光発電施設で金属ケーブルを盗んだとして、カンボジア人のグループが逮捕されました。

警察によりますと、このうち数人は小美玉市の施設の防犯カメラに映っており、「盗んだケーブルは買い取り業者に販売した」、「太陽光発電施設は盗みやすい」などと供述したといいます。

なぜ太陽光発電が標的に?

いま、こうした銅線ケーブルを狙った盗難が、東北や関東、東海地方で多発しています。要因の一つに、銅の価格上昇があります。
楽天証券経済研究所によりますと、コロナ禍で低迷した経済が回復したことなどから、銅の価格は3年前のおよそ1.6倍以上になっています。換金目的とみられる窃盗が増えています。
また、事業用の太陽光発電施設の数が多いことや、人目に付かない場所に設置されていることも、要因になっています。

とくに茨城県は、全国で2番目に多い242の施設があり、農地の周りや山間部などに設置されています。見つかるリスクが少ないため、犯罪グループの標的になっているのです。

盗まれたケーブル81km 被害2億7000万円

茨城県内の太陽光発電施設の被害は、ことし8月末までで去年の2倍以上の886件。施設数の3倍以上の件数です。

警察が裏付け捜査をした、去年10月から4か月余りの間の76件の被害では、エリアは茨城や栃木、群馬、埼玉、千葉の5県の太陽光発電施設に及び、被害総額は約2億7000万円にのぼることがわかりました。
盗まれたケーブルの総延長は81キロメートル。東京の東端と西端を結んだ距離はおよそ90キロのため、東京横断に近い長さです。

分裂する犯行グループ

裁判を傍聴すると、逮捕されたグループの中には、外国人実習生として日本で働いていたものの、その後、在留資格を失った人もいました。

これまで、日本人による同様の犯罪はありますが、ベトナムやタイなど外国人のグループも逮捕されています。

捜査関係者によりますと、外国人の場合、グループが分裂しながら、新たな窃盗グループを形成しているケースがあり、この動きは拡大しているということです。

捜査関係者は「縦系列の組織がなく、仲間を募りながら増えていく。いたちごっこの状況」といいます。

対応に追われる損保会社

被害が広がる中、事業者が契約している損害保険会社では、対応に追われています。銅の価格が上昇した去年秋ごろから、支払いが急増したといいます。

東京に本社のある大手損害保険会社では、ことし4月から8月までの盗難による保険金の支払い件数は、すでに前年度1年間を上回りました。太陽光発電部門の保険事業は、盗難の影響で赤字になっているといいます。
損保ジャパン 企業財産グループ 北野雄一課長代理
「自然災害や、太陽光パネルの電気的な故障を想定していた保険でしたが、そういった事象とは別の盗難に伴う保険金支払いが急増したことで、いただいている保険料よりも、お支払いさせていただく保険金のほうが上回っている状況です。想定外です。(盗難の補償を)お引き受けする厳しさは、より高まってきます」
また、保険で修繕した太陽光発電施設が再び金属盗難の被害にあい、保険で直すという悪循環もみられるということです。

この保険会社では、盗難の被害が続いた場合や、防犯対策が不十分な場合は、補償の対象外にせざるをえないこともあるといいます。

防犯対策のコストかさむ

盗難被害を補償する保険の適用条件が厳しくなり、事業者にも不安が広がっています。
茨城県常陸太田市にある施設では、この5年間で3回被害にあいました。発電ができなくなった損失額は6000万円に上りましたが、保険で賄うことができたため、何とか事業を継続できました。
防犯対策も強化し、防犯カメラや侵入を検知するセンサーなどに総額1千万円あまりかけています。会社では今後、盗難被害が増えると保険が対象外となるおそれがあるため、さらに警備会社と契約し、24時間、人を常駐させることを検討しています。
しかし、人件費だけで年間1千万円余りが見込まれていて、二の足を踏んでいます。
太陽光発電事業者 現場責任者
「今は保険に加入しているから、金銭的な被害は最小限にとどまっていますが、防犯対策などの条件によっては、加入させてもらえなくなるかもしれないですね。なるべく、お金をかけずに対策をしたいが、なかなか難しいのが現状です」

手口は大胆に

事業者が防犯対策に力を入れる一方で、犯罪グループの手口は大胆になってきています。

最近は、防犯カメラの電源の切断や、カメラの死角から侵入するなど、対策をかいくぐるケースが出ています。被害の調査をしている損害保険会社の担当者は、こう話します。
SOMPOリスクマネジメント 伊達秀さん
「事件の後に、防犯カメラの画像データを1週間ぐらいさかのぼって見てみると、下見をしている形跡が見つかることは珍しくないです。外から見れば侵入しやすいとか、警備会社と契約していないというのはすぐわかるので、ここは狙えると思ってしまえば、規模に関係なく狙われてしまうのが現実です」
有効な対策は
▽すきをつくらないようにセンサーを張り巡らせる
▽侵入すると警報音がなるようにする
▽警備会社と契約し、異常があればすぐに駆けつけてもらう

などということです。

盗難金属の換金にストップ

茨城県警は、盗まれた金属の換金を止める取り組みを進めています。茨城県は工場などが比較的多く、鉄くずを買い取る業者も多いためです。
盗まれた金属は、盗品かどうかの区別が難しく、業者が気付かずに買い取ってしまうおそれがあるといいます。

そこで、警察官が県内すべての金属リサイクル業者を訪れ、買い取りをする際の本人確認の強化や、取り引き内容の帳簿への記載を呼びかけています。

夏場の電力を補完 再エネへの影響は?

太陽光発電施設は東日本大震災以降、再生可能エネルギーへの関心が高まったため、普及が進んできました。

業界にとっては“想定外”ともいえる金属盗難の増加が、エネルギーの今後にどのような影響を与えるおそれがあるのでしょうか。
主に関東地方に電力を供給している東京電力エナジーパートナーでは、太陽光発電は、夏場の電力を補完するエネルギーとしても活用しています。

被害が増加している状況について「再生可能エネルギーの普及を阻害するもので、社会的課題として実効性のある対策が必要だ」として、強い懸念を示しています。

業界団体は今後の新規参入に懸念

太陽光発電の業界団体も不安を抱いています。国の今後の再生可能エネルギーの計画では、2030年までに太陽光発電の電力構成割合を、2021年の時点からおよそ2倍に増やそうとしています。

いっそうの事業拡大が求められていますが、盗難が相次ぐいまの状況では、防犯対策のコストの増加や、保険の補償の対象外となるリスクがあるとみています。

業界団体では、新規参入のハードルを高める要因になりかねないとして、国の協力も必要だとしています。
一般社団法人太陽光発電協会 シニアアドバイザー 杉本完蔵さん
「太陽光発電施設の盗難問題は、決して事業者だけの話ではなく、社会的なインフラとして守っていかないといけない。そのための制度的な支援があれば、積極的に事業者も防犯対策を進められると思う。業界をあげて国と一緒になって対策をとっていきたい」

取材後記

茨城県警担当を3年続けてきましたが、その間に、農業用水のバルブ、グレーチング、マンホール、アルミ製のフェンスなど、さまざまな金属が盗まれる被害が後を絶ちませんでした。太陽光発電施設の銅線が集中的に狙われ、全国では毎日1件以上の被害が出ているといいます。

被害が止まらない中、再生可能エネルギーの大きな柱になっている太陽光発電を被害からどう守っていくのか、今後も取材していきたいと思います。(藤田梨佳子)

私が取材した太陽光発電施設の現場責任者は、「再発防止や事件の解決につなげてほしい」と取材に協力してくれました。盗むために下見する姿が、複数回にわたって防犯カメラに記録されていた映像をみると、事業者の対策の難しさを実感しました。

今後も業界団体の動きについて、取材を継続していきたいと思います。(清水嘉寛)

(9月22日「いば6」、10月10日「おはよう日本」、10月18日「首都圏ネットワーク」で放送)
水戸放送局記者
藤田梨佳子
2021年入局
警察・司法を担当
地域の人にとって身近な犯罪を深掘りします
水戸放送局記者
清水嘉寛
地方紙の記者を経て2022年入局
警察を担当
日々の生活に関わるニュースを発信します