核融合反応に必要な“プラズマ”生成に初成功 茨城の実験装置

国立研究開発法人の量子科学技術研究開発機構は、茨城県にある世界最大規模の核融合の実験装置で、核融合反応を起こすために必要な「プラズマ」と呼ばれる状態を初めて作り出すことに成功したと発表しました。次世代のエネルギー源と期待される技術の実現に向け本格的な実験が始まることになります。

核融合は太陽の内部で起きている反応で、人工的に起こすことで膨大なエネルギーを取り出せるほか、二酸化炭素や高レベル放射性廃棄物を出さない次世代のエネルギー源として期待されています。

茨城県那珂市にある「JTー60SA」は、日本とEUが650億円余りの予算をかけて共同で建設した実験装置で、核融合反応を起こすために必要な高温高圧の「プラズマ」と呼ばれる状態をドーナツ型の空洞の中で作り出し、一定時間維持する技術の実証を目指しています。

初めて“プラズマ”状態を作り出すことに成功

運営する量子科学技術研究開発機構によりますと、ことし5月から本格的に稼働し、内部を真空に近づけて電気を流すなどした結果、23日午後5時半ごろ、初めて「プラズマ」の状態を作り出すことに成功したということです。

核融合反応を起こすには「プラズマ」の温度を1億度以上に上げて、原子核どうしを秒速1000キロというスピードで衝突させる必要がありますが、現時点で作り出せる「プラズマ」の温度は1000万度ほどだということです。

機構は今後、装置の改良を重ね、5年ほどで1億度の「プラズマ」を100秒間維持することを目指すとしています。

そのうえで、実験で得られた知見を日本やEUなどが参加する大型国際プロジェクト「ITER計画」や、日本政府が2050年ごろの実現を目指す核融合発電の実現に役立てたいとしています。

“プラズマ”とは

「プラズマ」は物質が数千度から数億度といった非常に高い温度まで加熱され、物質を構成する原子が原子核と電子に分かれて自由に飛び回っている状態です。

物質は温度が上がるにつれて固体から液体、液体から気体へと変化しますが、さらに気体から変化した状態が「プラズマ」で、「第4の状態」とも言われ、地球上でもいなづまやオーロラといった形で見ることができます。

「プラズマ」の状態では、原子核が秒速1000キロという超高速で動くことができ、そのスピードで原子核どうしがぶつかることで核融合反応が起きて大きなエネルギーが発生します。

1グラムの燃料から発生するエネルギーは、およそ8トンの石油を燃やしたときと同じだけの熱に相当します。

この核融合反応を連続させてエネルギーを取り出すには、1億度以上の超高温のプラズマを長い時間維持することが必要になるため、超高温の状態に耐えられる材料などの開発が進められています。

核融合 各国で開発競争が過熱

核融合は世界では1950年代から研究が始まりましたが、技術的な課題が多く、実現の目標時期は先延ばしを繰り返してきました。

しかし、ここ数年、アメリカを中心にベンチャー企業に巨額の投資が行われて開発が進められているほか、中国では国の研究機関が「プラズマ」を長時間閉じ込める実験に成功したと発表するなど、各国で開発競争が過熱しています。

こうした中、日本政府は、アメリカや中国を含む35の国と地域による大型国際プロジェクト「ITER計画」に参加しているほか、「JTー60SA」を活用したEUとの共同開発を進めています。

ことし4月には関連産業の振興を図る初めての政府戦略を策定していて、2050年ごろに国内での核融合発電の実現を目指すとしています。

専門家「まず動き出したことが大きな一歩」

核融合に関する文部科学省の審議会で委員を務める大阪大学大学院の上田良夫教授は「世界最大の装置であり、それだけ大きな成果を期待されているので、まず動き出したことが大きな一歩だ。日本の研究開発にとって非常に重要な研究のプラットホームが稼働し、よかったというのが率直な気持ちだ」と話しています。

そのうえで「中国、韓国だけでなく、アメリカやヨーロッパなどで研究が活発化して成果も出始めていて、日本だけが取り残されているという意識もあったが、本格的な実験の開始でやっと肩を並べられるか、将来的にそれを超える成果も期待できる。『これから日本も巻き返しに出るぞ』と、日本の研究者コミュニティーに大きな力を与える一歩にもなるのではないか」と話していました。