障害者福祉の現場 深刻化する人手不足は“命に関わる問題”に

「障害者たちは、普通の暮らしもできていない」
いま、障害福祉サービスを提供する事業所で、人手不足が深刻になっています。

全国の障害者の作業所などでつくる団体は、「明らかに不足している。支援の質を高めるためには報酬の大幅な引き上げが必要だ」としています。

毎晩の泊まり込み 応援でやりくり

横浜市内で10か所のグループホームを運営している社会福祉法人「夢21福祉会」では、知的障害者など59人が暮らしています。

このうち、横浜市保土ケ谷区の5人の障害者が暮らすグループホームでは、人手不足が深刻です。

午後4時に日中の時間を過ごしたサービス事業所などから帰宅した障害者たちに対して、着替えや入浴介助を行ったり、薬を飲ませたりするほか、体温を記録するなどの支援にあたっています。

自分の意思を伝えることが難しい重度の障害者も少なくないため、施設では毎晩スタッフが泊まり込みで支援しています。

最近では、シフトに入る人を確保できない日もあるということで、同じ法人の別の事業所から応援のスタッフに入ってもらってなんとかやりくりしているということです。

他業種と比べ低い給与

法人では、求人サイトで、スタッフを複数名募集していますが、時給は県の最低賃金に近く、ほかの業種の給与と比べると相対的に低いこともあり、人材は集まらず採用できずにいます。

法人の収入の大部分は、国がサービスごとに設定した障害福祉サービスの報酬でまかなわれていますが、物価や光熱費の高騰で運営コストも上がる中、スタッフの給与を上げるのも厳しい状況だといいます。

厚生労働省は、3年に1度の障害福祉サービスの報酬改定の議論を進めていて、年内にも、基本的な方針を固める予定です。

グループホームの管理者 山口博之さん
「人手不足のまま障害者を受け入れるのはリスクが高く、綱渡りの状態が続いている。付き添いの人手不足で外出もままならないなど、障害者たちは、普通の暮らしもできていない。最低賃金が上がり、他の業種では給与が上がる中、障害福祉分野は相対的に他職種よりも賃金が低く採用が難しいので、報酬改定では人手が確保できるように上げてもらう必要がある」

全国で足りない 職員の採用

障害者福祉サービスを提供する各地の事業所で、職員採用は思うように進んでいません。

調査は、全国の障害者の作業所などでつくる団体「きょうされん」が、グループホームや就労サービス事業所などを対象にことし6月から8月にかけて行いました。

昨年度、職員を募集したと回答した844の事業所のうち、実際に採用できたのは78.2%。

募集の合計人数に対する採用人数の割合は57.7%にとどまり、特に正規職員の採用が少ない傾向となりました。

また14.1%にあたる事業所には応募がありませんでした。

”利用者の命に関わる問題”

「きょうされん」の調査の自由記述に寄せられた回答です。

「月10日を超える泊まり勤務など過酷な労働が続いている」
「職員が配置できず入浴無しの日を設けている」
「定員に空きがあっても利用を断っている」

障害者福祉の現場では、高齢者の介護と同様、負担の割に賃金が低いことなどから、人手不足が深刻になっています。

障害者への福祉サービスを巡っては、来年度に3年に1度の報酬改定が行われる予定です。

「きょうされん」 小野 浩 常任理事
「本来は不足している人数がすべて満たされているべきで人手は明らかに不足している。障害者の中には自分で寝返りができない人もいて、人手不足は命に関わる問題だ。支援の質を高めるためには、報酬の大幅な引き上げが必要だ」