京アニ裁判 検察“妄想の影響なし”被告の完全責任能力を主張

「京都アニメーション」の放火殺人事件の裁判は、弁護側が責任能力が無かったとして無罪を主張している青葉真司被告の刑事責任能力についての審理が23日から始まり、検察は「妄想の影響はなかった」として被告に完全な責任能力があったと主張しました。

青葉真司被告(45)は、4年前の2019年7月、京都市伏見区の「京都アニメーション」の第1スタジオでガソリンをまいて火をつけ、社員36人を死亡させ、32人に重軽傷を負わせたとして、殺人や放火などの罪に問われています。

被告の弁護士は「精神障害により、よいことと悪いことを区別して犯行をとどまる責任能力はなかった」などとして無罪を主張しています。

刑事責任能力について審理が始まる

23日から刑事責任能力についての審理が始まり、検察は冒頭陳述で「行動は合理的で妄想の影響はなく、犯行は被告自身の判断で行われた」と完全な責任能力があったと主張しました。

一方、弁護側は「精神鑑定をした医師の証言をすべて聞いたうえで、被告が犯行当時、責任能力を十分備えていたということが間違いないと言えるか判断してほしい」と述べました。

検察の依頼で被告の精神鑑定 医師の証人尋問

このあと、起訴前に、検察の依頼で被告の精神鑑定を行った医師の証人尋問が行われました。

医師は、拘置所で合わせて25回面接し、被告の家族や医療関係者にも話を聞いたとしたうえで「被告は妄想性パーソナリティー障害で犯行の対象に京アニを選んだ点は被害妄想が影響を及ぼしたが、それ以外の犯行時の行動には影響はほとんどみられない」とする鑑定結果を明らかにしました。

被告の性格の傾向については、自分ではなく他人が悪いと考えがちで、対人関係が維持できなくなると攻撃的になるなどとしたうえで「犯行にいたった主な要因は小説にまつわる現実と被告の性格傾向によるものだ。小説が落選し、小説家の夢を断念したことで妄想が大きくなり、犯行に影響を与えているが、あくまで補助的なものだ」と述べました。

次回の裁判は、今月26日に、被告の起訴後に弁護側の請求で精神鑑定を行った別の医師の証人尋問が行われる予定です。

検察の冒頭陳述 詳細

検察は、責任能力についての冒頭陳述で、青葉被告は妄想性パーソナリティー障害か妄想性障害があるとしたうえで「症状として妄想があったが、妄想に支配された犯行ではなく、被告のパーソナリティーがあらわれた犯行であり、責任能力が著しく低下していたとは到底言えない」と述べ、完全な責任能力があったと主張しました。

事件の動機については「京アニ大賞に応募した小説が落選したことや何をしてもうまくいかないという人生歴、自己愛が強く他人のせいにしがちなパーソナリティーから『自分はすべて失ったのに、京アニや女性監督は成功して許せない』という筋違いの恨みを募らせ、復しゅうを決意したことが基盤にある」と説明しました。

また、犯行については「犯行前に何度もためらった末、みずからの意思で実行を決断している。犯行方法などの選択や計画を完遂するための行動は合理的で妄想の影響はなく、被告自身の判断で行われた」と主張しました。

弁護側の冒頭陳述 詳細

弁護側は被告には責任能力がなかったと無罪を主張していて、23日の冒頭陳述では、裁判員や裁判官に対して、責任能力がない場合には無罪または刑が減軽されると説明しました。

そのうえで「『人を殺しておいて無罪はありえない』といった意見もあるが、理性があり悪いこととわかっていながら自分の意思でそれを乗り越えた場合に刑罰が科されるものだ。善悪の区別がつかない病気にかかった人は自分の意思で犯罪を犯したということにはならない」と述べました。

また、鑑定について証言をする2人の医師についてその立場の違いを指摘し、裁判員に対し「検察の依頼で鑑定を行った医師は被告と何度も面接しているが、鑑定の資料は検察や警察、捜査機関が集めたものだ。弁護人の依頼で鑑定を行った医師と比べて偏りがないか、それが鑑定に影響していないか注意してほしい」と求めました。

そして「2人の医師の証言をすべて聞き、弁護人の意見も踏まえたうえで、被告が犯行当時、責任能力を十分に備えていたかどうか、判断してほしい」と述べました。

最大の争点 被告の刑事責任能力

「京都アニメーション」の放火殺人事件の裁判は、23日から最大の争点となっている被告の刑事責任能力についての審理に移ります。

刑事責任能力は、自分の行為が悪いことだとわかる能力、そして、悪いとわかった際に、その行為を思いとどまれる能力の2つを指します。

刑法ではこの2つの能力があれば「刑事責任能力がある」ということになり処罰されますが、精神障害などによりこの能力が全くない場合には「心神喪失」として無罪に、著しく低下していれば「心神耗弱」として減軽されます。

責任能力について、これまでの裁判で検察は「みずからの小説のアイデアを京アニに盗まれたと一方的に思い込んだ筋違いの恨みによる復しゅうだった。事件当日には、計画どおり実行するかためらう様子もみられ、犯行は妄想に支配されたものではない」などとして完全責任能力があったと主張しています。

一方、弁護側は「京アニに応募した小説を『闇の人物』と呼ばれる人物が落選させた。被告にとって起こすしかなかった事件で、『闇の人物』への対抗手段、反撃だった。被告には善悪を区別し、それに従って犯行をとどまる責任能力がなかった」として無罪を主張しています。

ことし9月5日の初公判以降、今月11日までの裁判では、まず、事件に至る経緯について検察と弁護側の1回目の冒頭陳述が行われ、被告人質問や証人尋問などが行われました。

23日からの審理では、責任能力について、検察と弁護側が2回目の冒頭陳述を行い、起訴前に検察が行った被告の精神鑑定を担当した医師と、起訴後に弁護側の請求を受けて精神鑑定を行った医師に対する尋問が予定されています。

そして、来月上旬に検察の中間論告と弁護側の中間弁論が行われ、その後、裁判員と裁判官は、非公開で「中間評議」を行い、責任能力の有無や程度について結論を出します。

この「中間評議」の結果は、判決まで明らかにされません。

その後、刑の重さについて被害感情の立証や被告人質問が行われ、12月上旬に結審することになっています。

判決は来年1月25日に言い渡される予定です。