【詳細】ガザ地区に支援物資載せたトラック入る 衝突後初

アメリカやエジプトの複数のメディアは、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突で深刻な人道危機に陥っているガザ地区に、エジプトとの境界の検問所から人道支援物資を載せたトラックが入ったと伝えました。

人道支援物資が搬入されれば、ハマスの攻撃を受けてイスラエルがガザ地区を完全に封鎖してから初めてで、人道状況の改善につながるかが焦点です。

※21日(日本時間)の動きを随時更新でお伝えします。

《人道支援物資をめぐる動き》

米国務長官 “支援物資搬入 アメリカの外交成果”

アメリカのブリンケン国務長官は21日に声明を発表し、ガザ地区に人道支援物資を載せたトラックが入ったことを歓迎し、調整にあたったエジプトやイスラエル、国連に感謝するとともにアメリカの外交の成果だと強調しました。

その上で「ガザの人たちに不可欠な支援を続けるため、ラファ検問所を開放し続けることを関係国などに求める」として検問所を通じた人道支援物資の運び込みが続くよう協力を呼びかけたほか、ハマスに対しては、市民への支援を妨害しないよう強くけん制しました。

イスラエル軍報道官 “ガソリンなどの燃料搬入 認めない”

イスラエル軍のハガリ報道官は21日、記者会見で「ガザ地区の南部の住民に水と食料と医薬品が届けられた」として支援物資がガザ地区に入ったことを明らかにしました。

一方で、軍事目的で使用される可能性のあるガソリンなどの燃料については、引き続きガザ地区への搬入を認めない考えを示しました。

また、ハガリ報道官は、これまでにガザ地区の住民およそ70万人が南部へと向かったとした上で、「戦争の次の段階に向けてガザ地区北部にあるハマスの拠点への攻撃を強化する」と述べ、ガザ地区の住民に対して南部へ向かうよう改めて呼びかけました。

一方、ハマスについては「ガザ地区から発射されたロケット弾の5分の1にあたる550発以上がガザ地区内に落下し、誤爆によって罪のない市民を殺している」と主張しています。

このほか、ハガリ報道官は、これまでに210人の人質が確認されたと明らかにしました。

国連事務次長「人道支援物資の搬入 歓迎する」

エジプトとの境界の検問所に人道支援物資を載せたトラックが入ったことについて、OCHA=国連人道問題調整事務所のトップを務めるマーティン・グリフィス国連事務次長は21日に声明を発表し、「人命救助のための支援物資を積んだトラック20台が入ることを許可された。ガザ地区に人道支援物資が搬入されたことを歓迎する」とコメントしました。

その上で「この搬入がガザの人々に食料、水、医薬品や燃料と言った必要な物資を届ける持続的な取り組みの始まりとなると確信している」としています。

また、WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は旧ツイッターの「X」でラファ検問所に入ったトラックにWHOの医薬品が載せられていると投稿しました。

またWHOは、トラックはWHOが提供した、外傷を手当てするための医薬品などをガザ地区に向けて運んでいると投稿しました。

そして、支援物資を必要としている人に届けるため、トラックやガザ地区の人道支援チームを保護するよう呼びかけた上で「現在ガザ地区に向かっている支援物資では深刻化する保健衛生上のニーズに対応することはほぼできない。規模を拡大し、持続的で守られた人道支援活動を行うよう呼びかけている」としています。

ガザ地区に支援物資載せたトラック入る 衝突後初めて

アメリカやエジプトの複数のメディアは、現地時間の21日午前10時半ごろ(日本時間の午後4時半ごろ)、ガザ地区とエジプトとの境界にあるラファ検問所が開放され、人道支援物資を載せたトラックがガザ地区に入ったと伝えました。

ガザ地区とエジプトの境界にあるラファ検問所の映像では、エジプト国旗をつけたトラックが検問所にとまっている様子が確認できました。

そして、日本時間の午後5時前に荷物を積んだ白いトラックがエジプト側からガザ地区側へと入っていく様子が確認されました。

また、検問所の周辺ではエジプト側から来たトラックから荷物をおろしてガザ側から来たトラックの荷台にフォークリフトで積み替えている様子が確認できました。

ガザ地区の当局「限られた数では人道危機は変えられない」

人道支援物資の搬入が伝えられたあと、ハマスが実効支配するガザ地区の当局は声明を発表し、「限られた数のトラックではガザ地区の人道危機は変えられない」と主張し不足している燃料を含むすべての必要な物資の持ち込みを可能にするよう要求しています。

ただ、イスラエル政府の高官はNHKの取材に対して燃料の持ち込みを認めればハマス側に渡ってロケット弾の発射などに利用されるおそれがあると懸念を示しています。

ガザ地区の人口は220万人に上り、今回の人道支援物資がどれだけの人々に行き渡り、危機的な状況を改善できるかは不透明なうえ、次の人道支援物資が到着するめども現時点では立っていません。

イスラエル情報機関 元幹部“共存する形での和平を”

イスラエルの情報機関の元幹部がNHKのインタビューに応じ、イスラエル軍がハマスの軍事能力を破壊することは可能だが、ハマスを倒すにはイスラエルとパレスチナの2つの国家が共存する形での和平を目指さなければならないと訴えました。

NHKのインタビューに応じたのはモサドと並ぶイスラエルの情報機関の一つで国内情報を担当する「シンベト」の長官をかつて務めたアミ・アヤロン氏です。

アヤロン氏はイスラエルの情報機関が今回、ハマスによる大規模襲撃を事前に察知できなかった理由について「ハマスは2年前に軍事的に大きな打撃を受けており、ガザ地区での権力を維持するためにはイスラエルを攻撃してこないだろうという誤った想定をしていた」と指摘し、様々な兆候を見逃していたという認識を示しました。

またアヤロン氏はネタニヤフ首相について、中東和平交渉の基本方針となってきたイスラエルとパレスチナの2国家共存という考えを妨害してきたと指摘し、「ハマスによるガザ地区の支配でパレスチナが分断された状態がネタニヤフ政権にとっては非常に好都合だった。ハマスは彼の助けでモンスターになったのであり、彼に責任がある」と痛烈に批判しました。

一方、アヤロン氏は地上侵攻について「双方にとって非常に痛みを伴うものになるがハマスの軍事的な能力を破壊することは可能だ」という見方を示しました。

ただ「ハマスは軍事部門だけではなくイデオロギーであり、イデオロギーは軍事力では破壊できない」と指摘し、「ハマスと戦うためにはパレスチナの人々に2国家共存という政治的な展望を示すことが唯一の方法だ」と訴えました。

ガザ地区南部ラファ 店に食料買い求める人詰めかける

NHKの現地スタッフがガザ地区南部のラファで21日に撮影した映像では、今も営業を続けているファストフード店やパン店に食料を買い求める人が詰めかけている様子が映っています。

このうち市内のパン店では、避難している人がパンを買うために数十メートルにおよぶ列を作っています。

このパン店では、避難者が増えたためふだんよりも5倍の量のパンを焼いているものの、ガスが不足していていつまでパンを焼けるか分からない状態だということです。

さらに市内では電力不足から各地で井戸水をくみ上げることも難しくなっていて、給水車の水をタンクに入れて運ぶ人の姿も見られます。

21日、エジプト側から人道支援物資を載せたトラックが入ったことについてNHKガザ事務所のムハンマド・シェハダ氏は「きょう、20台のトラックが入ったと聞きましたがこれは全く十分ではありません。ガザ地区の病院では発電機を動かすためにもガソリンなどの燃料が必要ですが、底を尽きかけていてこれは本当に致命的な状況です。全く電気がない病院を想像してみてください。悲惨な状況です」と話していました。

またハマス側に利用されるという懸念からイスラエル側がガソリンなど燃料の搬入を認めていないことについて「本当に悪い冗談を聞いているようです。いま最も必要なのは、医薬品、食料、それに燃料です」と訴えました。

そのうえで「国際社会は手遅れになる前に行動を起こしてほしいです。ガザでは人々が死にかけています。今後、数日でガザには食料がなくなってしまいます」と訴えています。

また「イスラエル軍はガザ地区の南部に退避するよう言っていますが、南部でも空爆が続いています。私たちはみな精神的なダメージを受けています。私の息子もイスラエル軍の戦闘機の音を聞くと、机の下に隠れるようになりました。こんなことは許されません。ガザで起きていることは虐殺です」と話していました。

エジプトでガザ地区の支援など話し合う国際会議始まる

人道危機が深刻化するガザ地区の情勢や支援などについて話し合う国際会議「カイロ平和サミット」が、エジプト・カイロで21日始まり、およそ30の国や地域、それに国際機関の代表が参加し、日本からは上川外務大臣が出席しました。

会議では、冒頭、エジプトのシシ大統領が「争いが続いている現状を変えよう」などと参加者に呼びかけました。

今回の会議では、イスラエル軍が今後地上侵攻も辞さない姿勢を示している中、イスラエル・パレスチナ情勢の緊張緩和やガザ地区の人道状況の改善に向けた協力などについて協議が行われるとみられています。

今回の会議に、イスラエルは参加していませんが、各国などの協議を通じて事態の緊張緩和や、ガザ地区への継続的な人道支援物資の搬入につなげられるかが注目されます。

英 スナク首相「優先すべきは人道支援を人々に届けること」

中東を訪れているイギリスのスナク首相は20日、エジプトの首都カイロでシシ大統領やパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長と相次いで会談を行った後、空港で記者団のインタビューに応じました。

その中で「この危機が発生したとき、われわれが一貫して優先してきたことの一つは、人道支援物資のラファ検問所の通過を可能にすることだった。今、優先すべきことは、ガザ地区で人道支援を必要としている人々に届けることだ」と述べました。

そのうえで「長期的には、パレスチナの人々が尊厳を持ち、自由で安全に暮らせる未来というビジョンをわれわれ全員が共有しており、その実現に向けて努力する必要がある」と強調しました。

また、多くの犠牲者が出たガザ地区の病院での爆発について「何が起こったかという事実を確定するためには時間をかける必要がある」と述べ、イギリス政府の情報部門に証拠の検証を行うよう要請し、すでに調査に取りかかっていることを明らかにしました。

米 バイデン大統領 物資搬入「24時間から48時間以内に」

アメリカのバイデン大統領は20日、ホワイトハウスでガザ地区への人道支援物資の搬入について「イスラエル側とエジプトのシシ大統領から確約を得ている。道路を舗装し直さなければならず、非常にひどい状態だ。これから24時間から48時間以内に最初の20台のトラックが通過するだろう」と述べました。

OCHA “人道支援物資の搬入は21日以降の見通し”

OCHA=国連人道問題調整事務所の広報官は20日、スイスで開いた記者会見で、人道支援物資の搬入についてイスラエルやエジプトなどとの交渉が続いているとしたうえで、搬入が始まるのは21日以降になるという見通しを示しました。

交渉では国連が支援物資の一環として発電機などに使用する燃料の搬入を求めているのに対し、イスラエル側は認めない姿勢を示しているということで、搬入する支援物資の量や条件などについて、交渉が続いているとみられます。

一方、イスラエルのガラント国防相は20日、議会の外交防衛委員会の議員への説明のなかで、ガザ地区への軍事作戦の目的について3つの段階があると説明しました。

まずはハマスを壊滅させる段階、そして残りの抵抗勢力を排除する段階、さらに新たな安全保障上の現実をうち立てる段階があるとしています。

ガラント氏は第3の段階では「ガザ地区での生活についてイスラエルは責任を負わなくなる」としていますが、具体的に何を意味するかは明らかにしていません。イスラエルは近くガザ地区への地上侵攻に乗り出す構えを崩しておらず、ハマスの壊滅だけでなくイスラエルへの脅威を徹底して排除する姿勢を示したものといえます。

エジプト外務省 “物資搬入を拒んでいるのはイスラエル”

ガザ地区への支援物資の搬入が遅れる中、エジプト外務省の広報官はSNS上にラファ検問所のエジプト側はイスラエルとハマスの一連の衝突後も常に開いていたという認識を示した上で「西洋のメディアはエジプトに検問所閉鎖の責任を押しつけようとしているが、検問所を4回も攻撃し、物資の搬入を拒んでいるのはイスラエルだ。さらに外国人の出国を阻んでいるのもエジプトではない」と投稿しました。

エジプト政府はこれまでもガザ地区に人道支援物資を運び入れる準備はできているとしていますが、関係国の間で調整に時間がかかる中、改めて政府の立場を主張したものとみられます。

一方で、エジプト政府はガザ地区からの住民の受け入れについては、自国の治安の悪化につながるなどとして否定的な考えを示しています。

パレスチナ暫定自治区 各地でイスラエルへの抗議デモ

パレスチナ暫定自治区では20日、ガザ地区への連帯を示し、イスラエルに抗議するデモが各地で行われました。

このうちヨルダン川西岸のベツレヘムでは、金曜礼拝のあと大規模な抗議デモが行われました。

街の中心部に集まった数百人のパレスチナ人たちは、パレスチナの旗を掲げながら市街地を行進し、ハマスやガザ地区の人々への連帯を訴えていました。

このあとデモの参加者の一部が街の入り口にあるイスラエル側が設置した検問所に向けて投石を行うなどしたため、イスラエル側の治安部隊が催涙弾を発射するなどして対応していました。

パレスチナの保健当局によりますと、ヨルダン川西岸地区では今月7日以降、イスラエルの治安部隊やユダヤ人入植者との衝突で死亡したパレスチナ人が81人にのぼっていて、イスラエル側はガザ地区での衝突がヨルダン川西岸でも広がらないか、警戒を強めています。

《人質解放をめぐる動き》

米 国務長官 ハマスに残りの人質の解放求める

アメリカのブリンケン国務長官は20日、記者会見で、アメリカ国籍の人質2人が解放されたとした上で、いまなおアメリカ人10人の行方がわからず、一部は、人質としてとらわれていると明らかにしました。

一方、イスラム組織ハマスが即時停戦を条件に人質の一部解放を提案していると伝えられていることに関連しブリンケン長官は「わたしはハマスの主張を額面どおりには受け取らない」と述べました。その上で「すべての人質をただちに解放しなければならない」と述べ、ハマスに対し残りの人質全員を解放するよう求めました。

仲介役を務めたカタール「継続した対話の結果だ」

イスラム組織ハマスの人質となっていたアメリカ国籍の親子2人が解放されたことについて仲介役を務めたカタールの外務省報道官は20日、ロイター通信に対し「すべての関係者との数日間にわたる継続した対話の結果だ」と述べました。そのうえで「対話がすべての国籍の人質の解放につながる」として引き続き交渉を続ける考えを示しました。

ハマス「米国籍の母親と娘を解放」SNSで発表

イスラム組織ハマスは20日、SNSで「人道的な理由からアメリカ国籍の母親と娘を解放した」と発表しました。

発表では、カタールによる仲介努力に応えたものだとしています。

イスラエル首相府はこのあとに発表した声明で、2人がガザ地区の境界で保護され、家族が待つイスラエル中部にある軍の基地に向かっているとした上で、人質全員の解放に向けて取り組むとしています。

アメリカのCNNテレビは外交筋などの話として、母親の健康状態が悪かったため人道的な理由で解放されたと伝えています。

人質解放への対応をめぐってアメリカのメディア、ブルームバーグは20日、複数の関係者の話として、アメリカやヨーロッパ各国がカタールを介して進めている交渉の時間を稼ぐため、イスラエルに対してガザ地区への地上侵攻を遅らせるよう迫っていると伝えています。

また、イギリスの公共放送BBCは20日、ハマスが即時停戦を条件に人質の一部を解放するとイスラエル側に提案したものの、イスラエル側は今のところ、これに合意していないと報じています。

イスラエル軍はガザ地区でとらわれている人質はおよそ200人に上るとしていて、複数の外国人も含まれる中、各国が解放を呼びかけています。