所得税減税の検討指示 岸田首相 与党に

新たな経済対策をめぐり、岸田総理大臣は20日、自民・公明両党の政務調査会長らと会談し、税収の増加分の一部を国民に還元するため、所得税の減税を党内で具体的に検討するよう指示しました。

政府が近くまとめる新たな経済対策をめぐり、岸田総理大臣は物価高騰に直面する国民に対し、税収の増加分の一部を適切に還元するため、あらゆる手法を講じるとしています。

こうした中、岸田総理大臣は20日夕方、自民党の萩生田政務調査会長と総理大臣官邸でおよそ15分間、会談しました。

そして、萩生田氏に対し、所得税の減税について、党内で具体的に検討するよう指示しました。

会談のあと、萩生田氏は記者団に対し、減税の具体的な方法について「恒久減税でないことは確かだ。日程感やボリュームなども含めて経済対策にしっかりひょうそくが合うよう検討を始めたい」と述べました。

また、所得税を減税した場合、非課税世帯などの負担軽減につながらないとして、合わせて給付措置を講じることも検討する考えを示しました。

一方、防衛費増額の財源を賄うための増税との整合性については「これから減税策を考えるのに来年から防衛増税も行うのは分かりづらい。来年は増税を実施しない制度設計にしたい」と述べました。

岸田総理大臣は、これに続いて、自民党の宮沢税制調査会長や、公明党の高木政務調査会長、西田税制調査会長とも会談し、同様の指示を行いました。

岸田首相「国民への還元も含め今月末めどに経済対策を」

岸田総理大臣は20日夜、総理大臣官邸で記者団に対し「自民・公明両党の政務調査会長と税制調査会長を官邸に呼び、国民への還元の具体策について所得税減税も含め検討を指示した。今月26日に政府与党政策懇談会を開催し、与党税制調査会における早急な検討を経て経済対策として取りまとめていただきたいと申し上げた。国民への還元も含め、今月末をめどに経済対策をまとめたい」と述べました。

自民 宮沢税調会長「減税は1年が極めて常識的」

自民党の宮沢税制調査会長は、岸田総理大臣から指示を受けたあと記者団に対し所得税を減税する場合の期間について「長い減税だという意識が私には全くない。1年というのが極めて常識的だと思う」と述べました。

そのうえで、定率での減税は高所得者を優遇することになると指摘し、定額での減税が望ましいという認識を示しました。

また岸田総理大臣から非課税世帯には、給付措置を行う方針が伝えられたことを明らかにしました。

一方で宮沢氏は「党の税制調査会で議論していくので『岸田総理大臣がこう言っているからこうなる』というものではない。来月半ばから3週間程度の日程で議論していくことになると思う」と述べました。

公明 高木政調会長「国民も期待感持てるのでは 定額減税を」

公明党の高木政務調査会長は、岸田総理大臣から指示を受けたあと記者団に対し「物価高に賃上げが追いついていないという国民の感覚を岸田総理大臣がしっかりと認識して手を打ったということだと思う。国民も期待感や安心感を持てるのではないか」と述べました。

そのうえで「減税をいつまで行うのかなどはこれからの議論だが、公明党としては定額減税がよいのではないかと思っている」と述べました。

過去に経済対策として行われた所得税減税について

過去に経済対策として行われた所得税の減税は
▽納税額から一定の金額を一律で控除する=差し引く「定額減税」と
▽一定の割合を一律で控除する「定率減税」があります。

定額減税を実施したのが1998年の橋本内閣です。

前の年の12月に指示して1月に関連する法律を国会で成立させ、2月の源泉徴収から減税を実施。

さらにその年の途中に追加の減税を行いました。

これによって年間の納税額から一律で3万8000円が控除されたほか、配偶者や子どもなどを扶養している場合、1人当たり1万9000円が控除されました。

所得税の減税額は2兆8000億円規模となりました。

一方、1999年に小渕内閣が行ったのが「定率減税」です。

「恒久的減税」と位置づけ、25万円を上限に税額の20%を控除しました。

減税額が上限に達するまでは、所得が多い人ほど減税額が多くなる仕組みです。

この年の所得税の減税額は2兆6000億円規模でした。

この定率減税は、2006年に控除の割合が半分の10%に引き下げられ、翌年・2007年に廃止されました。

また、いずれの場合も住民税の減税も合わせて実施されました。

所得税の減税 今後は

今後、減税の検討が本格化しますが、所得税の減税では納税額が少ない世帯や非課税の世帯には十分に恩恵が及ばないとして、低所得者の対応についても意見が交わされるとみられます。

また、昨年度の一般会計の税収は、景気回復に伴って前の年度を4兆円以上、上回って過去最高の71兆円余りとなり、所得税は1兆円以上増えて22兆円余りでした。

ただ、国の財政は、今年度予算でも、歳入の3割以上を新規の国債発行に依存する厳しい状況が続いているうえ、今後は防衛力の強化や少子化対策などで歳出の拡大も見込まれています。

このため、減税の規模や期間などとともに物価高対策としての効果や財政規律との兼ね合いについても議論が行われることが予想されます。