事故で死亡の聴覚障害女児 逸失利益どう判断 2審開始 大阪高裁

聴覚障害のある女の子が亡くなった交通事故の損害賠償をめぐり、女の子が将来得るはずだった収入について、障害を前提とせずに労働者全体の平均賃金をもとに算出するよう遺族が求めている民事裁判の2審が、20日から大阪高等裁判所で始まりました。
訴えを認めなかった1審の判決について、遺族側は「障害の有無によって、収入に差をつけるのは差別的だ」と主張しました。

5年前、大阪 生野区でショベルカーが歩道に突っ込み、近くの聴覚支援学校に通っていた井出安優香さん(当時11)が亡くなり、遺族が運転手と勤務先の会社に損害賠償を求める訴えを起こしました。

この裁判では、安優香さんが将来働いて得られるはずだった収入にあたる「逸失利益」について、遺族が障害を前提にせず労働者全体の平均賃金をもとに算出するよう求めたのに対し、ことし2月、1審の大阪地方裁判所は「労働能力が制限される程度の障害があったことは否定できない」として労働者全体の平均賃金の85%をもとに算出し、運転手側におよそ3770万円の賠償を命じました。

遺族側が控訴し、20日大阪高等裁判所で2審が始まり、遺族側は「1審の判決は手話やSNSなどがあるにもかかわらず、話したり聞いたりすることをコミュニケーションの手段と限定して判断しており、明白な誤りがある。障害の有無によって収入に差をつけるのは差別的だ」などと主張しました。

一方、運転手側は、控訴を退けるよう求めました。

井出安優香さんの父親「来年は7回忌 いい結果で裁判を終えたい」

裁判のあと、井出安優香さんの父親の努さんが会見を行い「亡くなった娘はもう帰ってきません。来年は7回忌のため、前例のない、法の壁を乗り越えたいい結果で裁判を終えたい」などと話しました。

「逸失利益」どう算出するかが争点に

この裁判では、安優香さんが将来働いて得るはずだった収入の見込みにあたる「逸失利益」をどう算出するかが争点となっています。

遺族は、障害を前提にせず、事故があった平成30年時点の労働者全体の平均賃金を基準に算出するよう求めました。

一方、運転手側は、労働者全体の平均賃金の6割にあたる聴覚障害者の平均賃金を基準に算出するよう求めました。

大阪地方裁判所は、ことし2月の判決で遺族の訴えを認めず、「逸失利益」を労働者全体の平均賃金の85%をもとに計算すべきと判断しました。

理由について「安優香さんは学習意欲があり、さまざまな就労の可能性があったが、労働能力が制限される程度の障害があったことも否定できない」として、聴覚障害者の平均賃金を踏まえて算出する考え方を示しました。

一方で、聴覚障害のある若い世代の大学進学率が増加傾向にあることや、音声認識アプリの普及などでコミュニケーション上の影響は小さくなるとみられることなどを考慮すると、安優香さんが将来、働く頃には、聴覚障害者の賃金は平成30年当時よりも高くなっていることが予測できると指摘しました。

そのうえで、労働者全体の平均賃金の85%をもとに算出したおよそ3770万円の支払いを運転手と会社に命じました。

これに対して、遺族は「差別を認める判決だ」として、ことし3月、大阪高等裁判所に控訴しました。