「ライドシェア」 神奈川 三浦市での導入目指し 県が検討開始

一般のドライバーが自分の車などを使って有料で人を運ぶ「ライドシェア」について、神奈川県は夜間のタクシー不足が懸念される三浦市で導入を目指そうと検討会議を設置し20日、初めての会合を開きました。

ライドシェアは安全性の確保に課題があるとして国内では認められていませんが、観光地や過疎地でタクシー不足が深刻になっていることから、今解禁をめぐる議論が活発化しています。

こうした中、神奈川県は県独自のライドシェアをまず、マグロの水揚げなどで知られる南東部の三浦市で導入しようと検討会議を設置して20日初会合を開き、県や関東運輸局、市内のタクシー会社の担当者などが参加しました。

この中で、黒岩祐治知事は「タクシー業界と一緒に神奈川版ライドシェアをつくっていければ、新たなモデルになるのではないか」と述べました。

会議では三浦市で夜間にタクシーが不足し、飲食店の客足など地域経済への影響が懸念される状況が紹介されました。

そして、県独自のライドシェアとして、地元のタクシー会社と連携し、一般のドライバーへの研修や運行管理などを担ってもらうことで安全性を確保する手法を検討していることも説明されました。

これに対し、県のタクシー協会などからは「どの程度の需要があるか分析することが大前提だ」とか、「現場のタクシー会社の意見をよく聞いて検討してほしい」などと慎重な対応を求める意見も相次ぎました。

県は今後、具体的な運用方法などについて議論を重ねてライドシェアを実現させ、地域の活性化につなげたいとしています。

神奈川県地域政策課の横川裕課長は「『困っている人がいる』ということが今回の原点なので、三浦市や地元のタクシー会社などと一緒に議論して課題の解決につながるようにしたい」と話していました。

ライドシェアとは

ライドシェアは日本語で「相乗り」を意味し、一般のドライバーが自分の車などを使って有料で人を運ぶサービスのことで、アメリカや中国など海外で普及が進んでいます。

日本では、安全性の確保に課題があるとして認められておらず、国家戦略特区に指定された兵庫県養父市など一部の自治体で特例として行われているだけです。

しかし、高齢化やコロナ禍による離職などでタクシードライバーの人数が全国で減り続け、観光地や過疎地でタクシー不足が深刻になっていることを背景に、ライドシェアは対策の1つとして急浮上しています。

解禁を求める声が上がる一方、タクシー業界は安全面などを理由に反対していて、議論が活発化しています。

三浦市では夜間のタクシー不足訴える声

ライドシェアの導入が検討される三浦市。市内の観光地、三崎港近くの街の人たちからは夜間のタクシー不足を訴える声が聞かれました。

このうち地元の70代の女性は「私の友達はスナックを経営していますが、やはり夜間はタクシーがつかまらないので、お客さんが早く帰ってしまうことがあると言っていました」と話していました。

同じく地元の女性は「タクシーの台数がそんなに多くないので、みんななるべく電車やバスで帰れる時間帯に地元に帰ってくることが多いと思います」と話していました。

なぜこうした声が上がるのか、地元のタクシー会社に話を聞くと、やむにやまれぬ事情があることが見えてきました。

県によりますと、三浦市では現在2つのタクシー会社が所有する合わせて35台のほか、複数の個人タクシーが稼働しています。

2つの会社のうち、「いづみタクシー」は利用客の減少から去年8月、夜間の営業を取りやめました。

もともと夜間の営業は採算をとるのが厳しい状況でしたが、コロナ禍が追い打ちになり、午前1時ごろまでだった営業時間を午後7時までにやむなく短縮しました。

取材したこの日も午後7時が近づくと稼働を終えたタクシーが順次会社に戻ってきて、乗務員が車を洗ったり報告を行ったりして一日の業務を終えていました。

社長は、利用客が少なくなる一方で必要とする人は不便になっている状況も分かっているだけに夜間営業を取りやめることは厳しい決断だったといいます。

社長の八木達也さんは、「飲食店を経営したり利用したりする知り合いがたくさんいるので、じくじたる思いというか、『申し訳ないな』という気持ちは少なからずありました。苦渋の決断でした」と話していました。

ライドシェアの導入を目指す県の検討会議にも出席する八木さんは「地域によってそれぞれ事情が全然違うので、“三浦市のためにはこうしたほうがいい”ということに特化して輸送力の向上について議論したい」と話していました。

飲食店街からは導入に期待寄せる声も

三崎港近くにある飲食店街からは、ライドシェアの導入に期待を寄せる声も上がっています。

マグロや地魚を使った料理を提供する老舗の飲食店は、電車の最寄り駅からバスで20分ほどの場所にあり、訪れる客からは週末や行楽シーズンを中心に夜間の交通手段の確保の難しさを訴える声をよく聞くといいます。

この店がある通り沿いは昔は多くの店が軒を連ねていましたが、高齢化による影響もあり、今は閉店も相次いでいるということです。

店では、ライドシェアが安全性の担保を前提に導入されれば、観光客を中心に客足がもっと伸びて、地域の活性化にもつながる可能性があると考えています。

「くろば亭」の山田恭子さんは「お客さんから『帰りのタクシー呼んで』と声をかけられて、以前は『はい』と簡単に答えていましたが、今はお断りせざるをえないのが現状です。ライドシェアを気軽に使うのは不安が大きくまだ難しいと思いますが、お客様に安心してご紹介できるものであれば、ものすごくいいと思います」と話していました。

斉藤国交相「安全安心を大前提に」

一般のドライバーが自家用車を使って有料で人を運ぶ「ライドシェア」の実現に向けた検討が神奈川県で行われていることについて、斉藤国土交通大臣は、「国土交通省としては、安全、安心を大前提に、タクシー不足への対応策について、神奈川県の議論に協力してまいりたい」と述べ、議論に加わる方針を示しました。

そのうえで、ライドシェアの導入について、斉藤大臣は、「安全確保や利用者保護などの観点で問題があってはならない。安全安心を大前提に、利用者の移動需要に交通サービスがしっかりと応えられるようデジタル行財政改革会議とも連携しながら、さまざまな方策を検討してまいりたい」と述べ、安全なサービスであることが導入の前提だという考えを強調しました。

日本での議論は

「ライドシェア」は、アメリカの大手IT企業のサービスでは、利用したい人がスマホのアプリで配車を依頼します。

あらかじめ登録された一般のドライバーが自家用車などで送迎します。

日本では自家用車で客を有料で運ぶことはいわゆる、白タク行為として原則、禁止されています。

日本ではこれまでもライドシェアの導入が議論になったことはありますが、ドライバーの健康状態の確認や車両の整備など、安全性の担保に課題があるとして解禁されていません。

ただ、例外としてバスやタクシーといった移動手段の確保が難しい地域では、道路運送法に基づく「自家用有償旅客運送」が認められています。

2020年に制度が見直され、自治体やNPOなどがサービスを運営し必要な講習を受けた一般のドライバーが地元住民と観光客を対象に有料での送迎を行うことができます。

運行管理の責任者を選任するなど安全体制を確保することや地域の関係者が協議を行うことを運営団体の登録要件としています。

国土交通省によりますと去年3月の時点でタクシーやバスといった移動手段の確保が難しい地域で登録する団体は全国で670に上るということです。

また、2016年には国家戦略特区法で移動手段の確保が難しい地域で地元住民と観光客を対象にした有料での送迎が認められ、兵庫県養父市が特区に指定されています。

メリットと課題は

「ライドシェア」は利用者にとっては乗車できる台数が増えタクシーより割安で利用できることが多いといいます。

一般のドライバーにとっても、副業などとして働くことができるとされています。

一方で「ライドシェア」をめぐっては一般のドライバーが運転する自家用車の安全性の確保や事故があった場合の責任の所在などが課題として指摘されています。

全国のタクシー会社でつくる「全国ハイヤー・タクシー連合会」は「ライドシェア」の全面的な解禁は「日本における輸送サービスの根幹を揺るがす」と安全の確保が難しいとして反対しています。