若い世代で直面する“更年期障害” 早発閉経 乳がん治療でも…

若い世代で直面する“更年期障害” 早発閉経 乳がん治療でも…
のぼせや発汗などの「ホットフラッシュ」や肩こり、頭痛、不眠といったさまざまな症状が起こる更年期。
閉経の前後、おおむね45歳~55歳の女性がその世代で、つらい症状を経験する人も少なくありません。
しかしもっと若く、20代や30代でこうした不調に直面するケースがあります。

(報道局社会番組部 ディレクター 市野 凜・ネットワーク報道部記者 金澤志江)

分からなかった不調の原因

気象予報士の千種ゆり子さん(35)は、20代で更年期障害を経験しました。

最初に体調の異変を感じたのは、24歳のとき。生理が3か月遅れ、近所の産婦人科を受診しました。
結婚や出産の予定を聞かれ「すぐにはない」と答えると、「ピルで生理を起こして様子を見ましょう」と言われたといいます。

当時は都内の企業に入社してまだ2年目だったこともあり「慣れない仕事のストレスかな」と思っていました。

その後も生理が止まるたびに婦人科でピルを処方してもらっていましたが、忙しさから毎回訪ねるクリニックはバラバラ。かかりつけの婦人科はなかったといいます。

生理不順が改善しないまま、26歳でNHK青森放送局で気象予報士として仕事を始めた千種さん。
今度は急なほてりや気分の落ち込みに悩まされるようになりました。
「出演の準備をしていても急に熱くなったり、打ち合わせ中も私1人が汗をかいていたりしました。扇風機にあたったり、保冷剤をくっつけたり、とにかく暑くなったら冷やすという対処をしていました。体質的に体温調整が苦手なのかな、ストレスなのかなと。理由が分からないから早く突き止めたいと思いました」

初めて聞いた“早発閉経”

「これはおかしい」と思い、セカンドオピニオンを求めに行った婦人科で血液検査をしたところ、「早発閉経」と診断されました。
最初に生理不順で婦人科を受診してから5か所目、2年8か月が経っていました。
「そんなことば、今まで1回も聞いたことないよって感じ、自分として受け止めきれない気持ちでした。一方で、やっと原因が分かったという気持ちもありました」
日記には当時の心境がつづられていました。
「何度も病院をかわって行き着いた結論。早く知れば治療できるって思ってたけど」

「自分の子どもを産むのが難しいってことみたい。まだ分からないけど」

若い世代でも“更年期障害”?

女性は、卵子のもととなる原始卵胞を約200万個持って生まれてくるとされています。

年齢と共に卵子は徐々に消失し、50歳前後で生理がなくなる「閉経」を迎えます。その前後に女性ホルモンが急激に減少することで、更年期症状が現れます。

しかし、千種さんのような「早発閉経」の人の場合、さまざまな理由で先天的に卵子の減るスピードが通常より早く、20代や30代で閉経して更年期障害を経験するのです。

千種さんは診断を受けた直後から急激に減少した女性ホルモンを補う治療を始め、症状は改善されました。

しかし卵子の数が著しく少ないため、県内では不妊治療を受けられる医療機関がないと言われました。専門のクリニックに通う必要があり、1年後、東京に移ることになりました。

治療によって経験する不調

一方で、病気の治療に伴って更年期障害のような症状に直面するケースもあります。

長野県に住む木村綾乃さん(仮名・35)は、7歳と4歳の子ども2人を育てながら医療従事者として働いています。

去年4月に乳がんの手術を受け、その後、ホルモン治療を行ってきました。

治療開始から2、3日で、体がカーッとあつくなって汗がでる「ホットフラッシュ」の症状が出ました。
「汗が吹き出てきて、それが終わると逆に背中に汗がしみこんでガタガタガタガタ寒くなるのが1日何回か起きます」
木村さんは乳がんの再発を防ぐために、ホルモンの分泌や働きを抑えるため1日1回薬を服用しているほか、半年に1度、腹部への注射を受けています。
こうした治療は『偽閉経療法』と呼ばれ、人為的に女性ホルモンを低下させることで、閉経したような状態をつくりだしています。
女性ホルモンががん細胞を増殖させる可能性があるからです。

木村さんはこの治療を10年間続けることになっていて、始めて1年半たちますが日常的にめまいや頭痛、手の関節痛といった症状もあります。

ほかにも物忘れがひどくなったり、ぼーっとして記憶力が低下し、仕事と子育ての合間に始めた資格取得のための勉強も頭に入ってこないといい、医師からはこれもホルモンの治療に伴うものだと言われています。

周囲に伝えるハードル

働いている病院でも仕事中にこうした症状が現れることがありますが、つらくても休みはとりづらいといいます。

一部の人に打ち明けたことはあるものの、からだの不調を伝えることは難しいと感じています。

なぜ30代で更年期障害のような症状が出るのか説明が難しい上、乳がんを経験したことについても話す必要が出てくるからです。
「病気のことを知っている同僚に『“更年期の症状”が出ていて』と言っても、『またまた!その若さでそれはないでしょ』みたいな感じで言われます。医療従事者の間でもそうなんです。

見た目はそんなに変わってないので、言わなければ私が乳がんだとは分からないと思うんですよね。がんのことを言ったらみんなすごい驚くし、かなりショッキングなことだと思うので詳しく話せる相手を選ばないといけないかなと思って」

治療ゆえの対処の難しさ

さらに木村さんを悩ませているのは、症状を緩和するのが難しいことです。

更年期の症状には、ホルモン量を増やすための「ホルモン補充療法」などが一般的ですが、木村さんの場合は再発リスクを下げるためにホルモンを抑える必要があります。

何種類かの漢方薬も試してきましたが、木村さんは症状の改善を感じることができなかったといいます。

整形外科や心療内科などいくつものクリニックを受診してきましたが、対症療法でごまかしながら生活を続けるしかないといいます。
「本当だったらホルモン補充療法をすれば和らぐみたいなんですけど私は逆にそんなことをしちゃうと再発しちゃうからそれはできないからねって先生に言われて。再発への恐怖を抱えながら私はあと9年ほどこの治療とそれに伴う不調に向き合わないといけないです。周囲には手術をしたから終わりではないということを知ってもらいたいです」

早く気付いてほしい

早発閉経によって20代で更年期障害を経験した千種さんです。

都内の専門のクリニックで不妊治療を試しましたが、採卵には至らず、29歳になった5年前、子どもを持つことを諦めることにしました。
なかなか受け入れることはできませんでしたが周囲の人たちの支えがあって徐々に前を向けるようになったといいます。

去年「早発閉経」であることを公表し、自身の経験についてブログやメディアで語り始めました。
社会全体に早発閉経への理解を広げることが、ひとりで悩む当事者の力になると考えています。
「今は子どものいない人生を前向きに考えていますが、生理不順が始まった24歳のときに正しい知識を持っていて、主体的に病院を選んで行っていれば、不妊治療の結果も違ったかもしれないという後悔はやっぱりあります。私のように後悔する若い人をこれ以上増やさないためにも、経験を伝えていきたいです」

総合的な健康管理と早期受診を

更年期障害に詳しい東京医科歯科大学の寺内公一教授に若い世代が経験する更年期やそれに似た症状にどう対応したらいいか聞きました。
早発閉経について
「月経不順などがあるということに加えて、卵巣の機能が非常に低いのに対して、卵巣を刺激する脳下垂体から出るホルモン値が高い状態になっています。これは血液検査で分かるので、早めに受診をしてもらいたいです。どういう原因でなのか医療側とコミュニケーションを取って治療方針を立てていくことが重要です」

治療に伴う症状について
「子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症でも人為的に閉経状態をつくりだすホルモンによる治療方法が期間限定的に取られることがありますが、乳がんについては長い期間治療をうけることになります。再発の心配などさまざまな要素も考えると乳がんでこの治療を受けている人のほうが症状が重く出ていると思うので、総合的な健康管理が必要になってきます」

1人で抱え込まないために

○専門医や専門資格者を見つけたい
※NHKサイトを離れます
○更年期症状について知りたい・相談したい
・女性の健康とメノポーズ協会
 電話相談 03-3351-8001
(火曜日・木曜日・土曜日 11:00~16:00)
○若年性乳がん当事者とつながりたい
※NHKサイトを離れます
○若い世代でがんについて相談したい
・『AYAサバイバーシップセンター』
 電話相談03-5550-7098
 (平日9:00~17:00)
 メール aya@luke.ac.jp
(10/20「ニュースウォッチ9」で放送)