去年の参院選は「合憲」判決も“格差是正に取り組みを”最高裁

去年7月の参議院選挙で、いわゆる1票の格差が最大で3.03倍だったことについて、最高裁判所大法廷は「格差が拡大傾向にあるともいえない」として憲法に違反しないという判決を言い渡しました。一方で国会に向けては、選挙制度の抜本的な見直しも含め、格差是正に向けた取り組みを求めました。

「合憲」判決も“格差是正に取り組みを”最高裁

去年7月の参議院選挙は、選挙区によって議員1人当たりの有権者の数に最大で3.03倍の格差があり、2つの弁護士グループが憲法に違反するとして選挙の無効を求める訴えを全国で起こしました。

各地の裁判所はいずれも選挙の無効は認めませんでしたが、憲法判断については
▽「憲法違反」が1件
▽「違憲状態」が8件
▽「合憲」が7件と分かれていました。

これについて、最高裁判所大法廷の戸倉三郎 裁判長は判決で「合区の導入などで最大格差は3倍程度で推移し、拡大傾向にあるともいえない。国会では都道府県より広域の選挙区を設けるなどの議論がされているが、課題を見極めつつ、国民の理解を得る必要があり、一定の時間が必要だ」と指摘しました。

そして「投票価値の不均衡は、著しい不平等状態にあったとはいえず、憲法に違反するとはいえない」として弁護士グループ側の上告を退けました。

一方、国会に対し「選挙の仕組みの抜本的な見直しも含めて具体的に検討し、国民の理解も得られるような立法措置が求められる」として格差是正に向けた取り組みを求めました。

15人の裁判官のうち2人が「違憲状態」だとする意見を出したほか、別の1人は「選挙は憲法違反で無効だ」としたうえで、2年間の猶予期間を設ける反対意見を述べました。

参議院選挙における1票の格差についての最高裁判所の合憲判断は、合区の導入などで格差が3倍程度に縮小した2016年以降、3回連続となります。

「違憲」や「違憲状態」の指摘も

15人の裁判官のうち、4人が個別の意見を述べました。
1人が「憲法に違反し無効だ」として2年の猶予期間を設ける反対意見を述べたほか、2人が「違憲状態」だとしました。

学者出身の宇賀克也裁判官は「投票価値が3倍を超えるのは3選挙区あり、有権者数は2100万人と全体の20%を超える。明らかに憲法上許容される範囲を超えており、やむをえないことについての説明もされていないことから違憲と言わざるをえない」と指摘し、選挙は憲法違反で無効だとしたうえで効力が生じるまでに2年の猶予期間を設けました。

検察官出身の三浦守裁判官は「3倍を超える不均衡は1人1票という選挙の基本原則に照らし、決して看過できるものではない。選挙当時、国会で是正に向けた姿勢が維持されていたというのは難しい」として違憲状態と判断しました。

裁判官出身の尾島明裁判官も「1選挙区の投票価値がほかの選挙区の3分の1程度しかないということは、平等の観点から疑問だ。立法府全体における制度改正に向けた議論の進捗(しんちょく)も停滞している」として違憲状態と判断しました。

弁護士出身の草野耕一裁判官は合憲だと判断したうえで、「最大の格差の考え方は投票価値の不均衡の問題を検討するための指標としてはいささか精度を欠いている。投票価値の不均衡が違憲状態だというためには国民が実際に不利益を受けているという根拠が必要だが、そのような立証はない」と意見しました。

原告の弁護士「格差是正求められると判決で明記」

原告の弁護士グループの1つは、判決のあと「格差是正要求付合憲」と書かれた紙を最高裁判所の正門の前で掲げました。

升永英俊弁護士は「今回の合憲の判断は私たちの希望を否定するものではない。最高裁は、現在の参議院選挙の1票の格差を是正することが求められると判決ではっきり明記した。現在の選挙制度を変える必要があると最高裁がお墨付きを与えるものだ」と話しました。

一方、そのあと開かれた会見では、伊藤真弁護士が「1票の格差は都市部だけでなく地方も大きな不利益を受けていて、国民全体の問題だという危機感が裁判官にないのではないか。判決は格差のさらなる是正を図るのは喫緊の課題だと指摘していて、国会はこのメッセージをしっかり受け止めてほしい」と話していました。

原告の弁護士「大問題だ」

原告の弁護士グループの山口邦明弁護士は「これまで最高裁判所は、まずは投票価値の不均衡が著しい不平等状態にあるかどうかについて判断したうえで、一定の時間が経過しているかなど国会の裁量について判断する枠組みを取っていた。今回はその枠組みを変え、国会の取り組みを理由に著しい不平等状態にあったとは言えないと判断した」と述べました。

そのうえで「違憲状態の判決を減らそうというメッセージになってしまったのではないか。大問題だ」と主張しました。

村井官房副長官「選挙管理委員会側の主張が認められた」

村井官房副長官は記者会見で「選挙管理委員会側の主張が認められ、選挙当時の議員定数配分の規定は合憲であると判断された。定数配分の規定を含む参議院の選挙制度は、議会政治の根幹に関わる重要な問題で、各党、各会派で議論いただく事柄と考えている」と述べました。

《政界反応》

尾辻参院議長「判決を重く受け止める」

尾辻参議院議長はコメントを発表し「参議院は判決を重く受け止め、引き続き各会派の協力のもとに、参議院の使命と役割を十分に踏まえ、選挙制度の改革に向けた取り組みを鋭意進めていきたいと考えている」としています。

自民 世耕参院幹事長「議論深め各党でコンセンサスを」

参議院の選挙制度の在り方などを議論している与野党各会派の協議会の座長を務める自民党の世耕参議院幹事長は、記者団に対し「最高裁として合憲の判断を示されたことについては重く受け止めたい。再来年の参議院選挙へ向けても議論をしっかり深め、どういう対応が必要なのか各党でコンセンサスを作っていきたい」と述べました。

立民 泉代表「国会の努力が問われている」

立憲民主党の泉代表は、記者会見で「国会が1票の格差の是正にどれだけ努力しているかが問われており、今回の判決はその取り組みを一定程度、見つめるという判断だと思う。ただ、参議院選挙で導入されている『合区』は、選挙区の広さや県の代表を1人も出せない問題があり、与野党がしっかり協議し結論を出す努力をしなければならない」と述べました。

共産 田村政策委員長「各会派の間で抜本改革の検討を」

共産党の田村政策委員長は、記者会見で「最高裁は国会に対し現行の選挙制度の見直しが必要だと改革を求めている。自民党は抜本的な改革を先送りにして合区や比例代表に特定枠を設けるという党利党略で選挙制度を変えてきた。各会派の間で抜本改革の検討を進めていかなければならない」と述べました。

一橋大大学院 只野教授「両にらみの判決」

18日の判決について、一橋大学大学院の只野雅人教授は「国会の議論が進まないことに理解を示しつつ、他方で『今後さらなる是正も必要だ』と指摘するという両にらみの判決で、国会が読み取りにくいメッセージになっている。国会はまだ猶予期間があると受け止めるのではないか」と話しています。

そのうえで「今回の選挙は何の対策も取らずに行われており、判決も現在の格差を許容しているわけではない。国会は大きな制度の見直しに向けた議論に着手すべきだ」と指摘しています。