【狙いは 課題は】バイデン大統領 18日にイスラエル訪問へ

イスラエルによるガザ地区への地上侵攻の可能性が高まるなか、アメリカのバイデン大統領が18日にイスラエルを訪問すると発表し、ガザ地区の住民への被害を最小限に抑えるための具体的な方策を示せるかが焦点となっています。

訪問の目的は? そして緊迫の状況に変化をもたらすのでしょうか?
(記事後段でQ&A形式で詳しく)

アメリカのホワイトハウスは、バイデン大統領が18日に、イスラエルを訪問してネタニヤフ首相と会談すると発表しました。

ブリンケン国務長官 “訪問の狙いは連帯とけん制”

訪問のねらいについて、中東歴訪中のブリンケン国務長官は、イスラエルへの連帯を改めて示し、イランなどを念頭に、イスラエルと敵対する国や勢力が混乱に乗じて介入しないよう、けん制することだとしています。

また、ガザ地区ではすでにおよそ100万人が住む場所を追われ、イスラエルによる空爆や封鎖で飲み水や食料、医薬品が不足するなど、人道状況の悪化が著しくなっています。

バイデン大統領はネタニヤフ首相との首脳会談で、住民の被害を最小限に抑えるための方策についても協議するとみられイスラエルによるガザ地区への地上侵攻の可能性が高まるなか、具体策を示せるかが焦点となっています。

バイデン大統領 関係国などの首脳らと直接会談も

また、バイデン大統領は同じ日にヨルダンも訪問し、アブドラ国王やエジプトのシシ大統領、それにパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長と協議する予定です。

バイデン大統領としては、イスラエル支持を強く打ち出しながらも、関係国などの首脳らと直接、会談してガザ地区の人道危機のいっそうの悪化を防ぎたい考えです。

双方の死者は4200人超に

イスラエル軍とハマスとの衝突は17日も続き、ガザ地区ではこれまでに2808人が死亡した一方、イスラエル側でも少なくとも1400人が死亡し、双方の死者は4200人を超えています。

イスラエル軍 地上侵攻すれば ハマス側も激しく反撃か

イスラエル軍は16日から夜通し空爆を行い、ハマスの本部や資金調達に使っている銀行などを破壊したと発表しました。

また、ハマスの人質問題の責任者だとする幹部1人も殺害したとしています。これに対しハマス側は住民の退避先となっているガザ地区南部に位置するハンユニスやラファで、イスラエル軍の攻撃によって住民あわせて70人以上が死亡したと主張しています。

一方、イスラエルでは、ハマスによるガザ地区からのロケット弾攻撃に加え、北部では隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラからのミサイルやロケット弾による攻撃を受けています。

イスラエル政府はガザ地区周辺や北部の住民に避難を呼びかけていて、これまでにおよそ50万人が避難をしたということです。

イスラエル軍による地上侵攻が始まれば、ハマス側も激しく反撃するものとみられ、さらに多くの双方の市民が暴力の応酬に巻き込まれる懸念が強まっています。

バイデン大統領訪問へ エルサレムの住民からは

バイデン大統領のイスラエル訪問について中東エルサレムに住むイスラエル人の男性は「バイデン大統領の訪問は、イスラエルへの連帯を示すうえでとても象徴的な動きです」と歓迎していました。

また、イスラエル人の女性は「ガザ地区で罪のない人が犠牲になるのは心が痛いですが、これはハマス側が始めた戦争で、何もできることはできません」と話していました。

一方で、ガザ地区の住民の被害を最小限に抑え、人道回廊の設置に向けてアメリカがイスラエルに働きかけるとみられることについて、別の男性は「ネタニヤフ首相や私たちはバイデン大統領の意見には耳を傾けますが、それは外野の意見です。決断をするのは私たち自身です」と話していました。

アメリカの狙いは ワシントン支局長に聞く【Q&A】

Q バイデンがネタニヤフ首相だけでなくアラブ諸国の要人とも会談するねらいはどこにあるのでしょうか。

A 紛争が地域全体に拡大することを防ぐために、また、人道危機を回避するうえでも、アラブ諸国の協力が不可欠だと判断したためです。ガザ地区の住民の犠牲が増え続けることへのアラブ諸国の憤りをバイデン大統領は強く意識しています。バイデン大統領はこのところ「大多数のパレスチナ人はハマスの攻撃とは無関係だ」と強調していて、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長にはガザ地区への人道支援のためのアメリカの取り組みを直接、説明するものとみられます。また、アメリカ国内でもイスラエルの地上侵攻で住民が犠牲になることを懸念する声は日に日に強まりつつあり、世論の変化を捉えた「バランス外交」の表れと見ることができます。

Q バイデンは一連の訪問で成果は得られるのでしょうか。

A バイデン大統領はブリンケン国務長官をイスラエルに2度、派遣し、ガザ地区の住民への人道支援の開始に向け調整を進めてきましたが、目に見える成果をあげられるかは依然、不透明です。ブリンケン国務長官がイスラエル側との「マラソン会談」のすえ、人道支援で一定の合意をとりつけたとの報道も一部にありますが、具体的な動きはまだありません。さらにバイデン大統領としては、ハマスに拘束されたアメリカ人を含む人質の解放に向けても、何らかの糸口を得たいところですが、地上侵攻に踏み切るかはイスラエル自身が決めることで、必要とあらば軍事支援を行うという立場では一貫しており、ジレンマを抱えながら、このあと中東に向けて出発することになります。

イスラエルの受け止めは エルサレム支局長に聞く【Q&A】

Q バイデン大統領の訪問についてイスラエル側はどう受け止めていますか。

A ブリンケン国務長官に続いて、バイデン大統領自身が訪問することは、アメリカがイスラエルへの最大限の連帯を示すものとして、おおむね好意的に受け止められています。ハマスによる攻撃で大きな犠牲を払ったイスラエルに寄り添い、ガザ地区での軍事作戦を後押しするものとして、市民からは歓迎する声が多く聞かれました。一方で、バイデン大統領がガザ地区の住民の安全や人道状況に配慮する姿勢を見せていることには、イスラエルの行動が制限されてはならないと、警戒する声も聞かれました。国家的な危機ともいわれる中で、最大の同盟国アメリカの大統領の訪問を、人々は重く受け止めているようです。

Q バイデン大統領を迎えるイスラエル側には、どのような狙いがあるのでしょうか。

A ネタニヤフ首相はハマスを壊滅させるためとして、バイデン大統領に軍事作戦の詳細を直接説明し、理解と協力を得たい考えです。一方、バイデン大統領としては理解を示しつつも、ガザ地区の民間人の被害を最小限に抑え、人道危機を広げないよう、イスラエル側に働きかけるものとみられます。ただ、イスラエルとしてはバイデン大統領の訪問によってアメリカから事実上、軍事作戦へのお墨付きを得られたものと受け止め、ガザ地区への地上侵攻に向けた最終的な準備に入る可能性が高く、現地では一段と緊張が高まることになりそうです。

イラン外相「時間が尽きつつある」

イスラエルによるガザ地区への大規模な地上侵攻の可能性が高まる中、イスラム組織ハマスを支援してきたイランの外務省は17日、アブドラヒアン外相のインタビュー動画を公開しました。

この中でアブドラヒアン外相は「時間が尽きつつある。国際的な枠組みの中で解決が図られ、危機的な状況になる前にネタニヤフを止めなければならない」と述べ、外交的な努力によってイスラエルによるガザ地区への攻撃をやめさせるべきだと強調しました。

そして「われわれは決して戦争の拡大を歓迎しない」とした上で、イスラエルへの連帯を示すアメリカに対し「アメリカは完全にイスラエル側に立ち、戦争犯罪を止めようとしない。手遅れになる前に、子どもや女性など、市民の殺害をやめさせるべきだ」と呼びかけました。

一方、イランが戦いに加わることはありえるのかと尋ねられると「すべての可能性が考えられる。こんな状況が続いていることに無関心でいられる者はいない」と述べました。

そして、イランを後ろ盾とするレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが、ハマスによる大規模な攻撃が始まって以降、イスラエル北部への散発的な攻撃を仕掛けていることを念頭に「われわれは地域の抵抗勢力に命令はしない。彼らは自分で決断する。このままガザ地区の罪のない人たちに対する戦争犯罪が続けば新たな戦端が開かれることは避けられない」と述べ、ガザ地区への地上侵攻に向けて準備を進めるイスラエルをけん制しました。

米 元駐イスラエル大使が分析「訪問の狙いは…」

アメリカの元駐イスラエル大使で、プリンストン大学教授のダニエル・カーツァー氏が16日、NHKのインタビューに応じ、バイデン大統領のイスラエル訪問について、公式にはイスラエルとの連帯を示しつつも、ガザ地区への地上侵攻によって住民の犠牲を増大させないよう最大限の配慮を求める狙いがあると分析しました。

イスラエル訪問の目的は

「バイデン大統領は公式にはアメリカがイスラエルと痛みを共有し、イスラエルとともにあることを表明する。一方で、非公式にネタニヤフ首相や戦時内閣と徹底して議論するであろうことが3つある。それは、▽住民の犠牲を最小限に抑えること、▽長期にわたってガザ地区を占拠しないこと、▽ガザ地区の住民のために人道回廊の設置や人道支援物資の運搬など、必要なあらゆる措置をとることだ」

イスラエルに対応を求める背景は

「アメリカ国内では、議会はイスラエル支持というスタンスがまったく変わっていないのに対し、世論はイスラエルに地上侵攻の『白紙の小切手』を渡すことに懐疑的になっている。バイデン大統領はそのはざまでバランスをとろうとしている」

アメリカにとっても住民の犠牲が拡大するような地上侵攻を無条件で容認するのは難しいという事情があると分析しました。

地上侵攻に踏み切った場合、どう終結させる

「イスラエルはハマスを壊滅させるまで作戦を継続すると明言しているが、現実には壊滅させることなどできない。ハマスはIDカードを発行するようなわかりやすい組織ではなく、社会的、かつ宗教的な運動だからだ。イスラエルはどこかの段階でハマスに十分な打撃を与えたのか、ハマスの指導部を排除できたのか、判断する必要に迫られる」

「最悪のシナリオは、イスラエルがみずから泥沼にはまることだ。ハマスは待ち伏せ攻撃や狙撃手、地雷、地下トンネルなどの準備を整えており、イスラエル軍の犠牲も、住民の犠牲も増え、事態が長期化することが考え得る最悪のシナリオだ」

衝突の長期化に警鐘を鳴らしました。

米 有力紙 “米軍 派遣に備え約2000人の兵士を選抜”

アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルは16日、複数のアメリカ国防総省の高官の話として、アメリカ軍がイスラエルを支援するため、およそ2000人の兵士を派遣に備えて選抜したと報じました。

戦闘には従事せず、医療支援などを行うとしていますが、どのような状況で、どこに展開するのかは、明らかになっていないということです。

また、CNNテレビは、国防総省の高官の話として、2000人の兵士は海兵隊などの所属で、イスラエルに敵対するイランとレバノンのイスラム教シーア派組織、ヒズボラの動きを抑えるためだと伝えています。

一方、国防総省のシン副報道官は16日、記者団に対し「現時点で、提供できる情報はない」と述べるにとどめました。

バイデン大統領は15日に放送されたCBSテレビのニュース番組の中で、アメリカ軍が戦闘に参加する可能性について質問され「その必要はない」と述べています。

アメリカとしては、イスラエル・パレスチナ情勢が緊迫の度合いを増す中、イランなどへのけん制を強めるとともに、イスラエルへの軍事支援を強く打ち出す狙いがあるとみられます。