SFの世界がやってくる?“神のようなAI”が生まれる日

SFの世界がやってくる?“神のようなAI”が生まれる日
進化したAIといえば、何を思い浮かべるでしょうか。ドラえもんや鉄腕アトムといった未来のロボットのイメージでしょうか。

アメリカでは今、こうした自ら考え、行動する究極のAIである「AGI=汎用人工知能」の開発が現実味を帯びてきたと関心を集めています。ロボットにこのAGIが搭載されれば、なじみのある漫画やSFの世界が本当にやってくるかもしれません。

どれくらいAGIの実現性は高まっているのか?

先進地のアメリカで追いました。

(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

AGIって知っている?

AGIとは、「Artificial General Intelligence」の略です。

日本語で、「汎用人工知能」、「汎用AI」などと訳されます。

定義は曖昧ですが、アメリカでは、文章や画像を人間の指示に応じて巧みに作り出す生成AIの、さらにその先にあるのが、AGIだとされています。

たとえば、AIに関する報告書「ステート・オブ・AI」の著者の1人で、投資家のイアン・ホガース氏は、AGIを「神のようなAI」と定義。

自ら学習し、人間の介入なしで文脈を理解する、とも説明しています。

いわば、人間の脳に近いような、自分で考え、答えを導き出して行動することができる高性能なAIだと解釈できます。

生成AIは3年後に限界?

究極のAIとも言える、AGIがなぜいま注目されているのか。

理由はいくつかあります。

まず、ChatGPTを生み出したオープンAIのサム・アルトマンCEOがロンドンに開設した拠点について「AGIを目指すためのもの」と発言。
起業家のイーロン・マスク氏がオープンAIに対抗するとして立ち上げた新会社「xAI」も、AGIの開発を進めると表明していて、AIの分野を牽引する人たちが、AGIについて従来にも増して熱く語り始めていることが理由の1つです。

もう1つは、生成AIの性能の向上には限界が来るかもしれないという指摘です。

生成AIは、膨大なデータを機械学習し、その内容をもとに回答を作成しますが、アメリカの調査会社、イーポックによると、質の高いデータは、早ければ2026年には底を尽きてしまう可能性があるというのです。

データを学び尽くしてAIは成長できなくなる可能性がありますが、専門家は、より効率的に学ぶAIの研究が進み、AGIの実現に近づくのではないかとみているのです。
AI研究機関 イーポック タマエ・ベシログル副センター長
「現在のコンピューターとデータの成長率は、人類の文明が生み出すデータの蓄積の伸びに比べてあまりにも高すぎる。このことは、私たちが近いうちにデータを使い果たしてしまうことを示唆している。すると、より効率の良い仕組みを考えることに、人々のエネルギーと注意を向けられるようになる。よりデータ効率の良い(AIの)学習方法から新しい技術を生み出すことで、人々の進歩を可能にするようなイノベーションを発見できるかもしれない」

AGIに接近?アニメの自律制作

生成AIのその先を見据えた“AGIシフト”実現の時期に関心が集まる中、AGIに一歩近づいたとされる、あるスタートアップ企業の技術が関心を集めました。

それが、シリコンバレーにほど近い、サンフランシスコに拠点を置く、Fable(フェイブル)が開発した最新のAI技術。

アニメの脚本、登場人物の作画、音声、セリフの読み上げに、編集まで、ほぼAIが「自律的に」遂行できるシステムを発表しました。
まず、AIに過去のアニメのエピソードなど様々なデータを学習させます。

そのうえで、学校か公園かなどシーンや舞台の背景を選択します。

もし、物語に方向付けしたい場合は、2行程度の短いプロンプト=AIへの指示を入力。

もちろん、何も指示を入力しなくても、AIが自分で考えてストーリーを作ることが可能です。

すると、これだけで、あとはAIが自律的に自分で考えて脚本を書き、登場人物を決め、声優なしで音声を収録し、編集まで全自動で行ってくれます。

そのキャラ、AIが生みの親

この技術を使って、旧ツイッターのXに7月に掲載されたのが、アメリカで人気のアニメ、サウスパークをもとにした11分余りのエピソード。

主人公の男の子、エリックが、映画業界にディープフェイクというAIの技術を採用させようとするストーリーです。

そこに反対する重鎮の俳優陣として登場するのが、メリル・ストリープさんや、ハリソン・フォードさん、トム・クルーズさんの3人。
3人がディープフェイクの活用は倫理的に間違っているなどと主張し、エリックのアイデアに反対したため、エリックは、あの実業家のイーロン・マスク氏に投資の相談へ。

マスク氏は興味のあるそぶりを見せたものの、実は、ストリープさんたち俳優の肩を持ち、火星へ避難するのを自ら手助けし、エリックの挑戦は失敗に終わる、という物語です。
驚くのは、この俳優のキャラクターは、今回の脚本に合わせてAIが自律的に、ゼロから生み出したものだということです。

俳優たちが出演する過去の映画やトークショーなどから容姿を判断し作画。

声もAIで生成していますが、本人たちの声そのもののように聞こえます。

もう1つの生命ある世界

AGIは定義が曖昧だと冒頭で言いましたが、今回のアニメ生成のAIを開発した企業のCEOにとって、AGIとは何を指すのか聞いてみました。
Fable エドワード・サーチCEO
「AGIは、人間の力を借りずに自ら考え、判断できるAI。たとえるなら、子どものような存在、とも言えるかもしれない。子どもはかけがえのないものだが、生まれれば親の心配は絶えない。必ず良い子に育つ、親の思い通りに育つとも限らない。何かをAIに人間がやってもらう、タスクを任せるといったことを超えた、人間とは別の生命が生まれる感覚だ。私が生きている間にAGIが実現できるかはわからないが、それに向けた開発は進んでいる」
CEOが開発に取り組んだAI技術は、生成AIからAGIへシフトしていく過程にあたるものだと説明してくれました。

AGIに向けた開発は確実に進んでいるものの、達成には時間がかかる、いまはまさに移行が始まったところにいて、それが、人間の手をちょっと借りながらも、かなり複雑なタスクを自律的に達成できるAIだというわけです。

AGIは「敵ではない」

私たちが今、“AGIシフト”の始まりにいることを象徴する動きが、この企業の拠点があるサンフランシスコの若手起業家たちの間で起きています。

9月のとある金曜日、平日にも関わらず150人ほどが集まったイベントを訪れました。
参加しているのは、AIビジネスの経営者やAIを学ぶ学生など。

それぞれが、ビジネスで抱える課題を他の起業家たちに相談したり、起業に向けた新たなビジネスアイデアを生み出したりするため、こうして定期的に集まっているのです。

この日のテーマは「AGI」。

人間より賢いAIが登場した時、それをどう活用していくべきか、議論が交わされていました。
イベントを主催したAI起業家 グローリア・フェリシアさん
「AGIはよく、映画の世界で見るような、人間界を乗っ取る恐ろしいものであると描写されることが多いが、決して敵ではないと思う。AGIが実現すれば人間にとって難しかったことをAIが代わりに解決してくれたり、一緒に考えてくれたりするかもしれない。危険な場所での作業、単調な作業はロボットに任せて、もっとクリエイティブなことをできるようになる、その手助けをしたいと思っている」

リスクの指摘も 真剣な議論が必要に

“AGIシフト”に向けたアメリカの動きを目の当たりにすると、「1年前には想像もしていなかったことが起きている」と実感せずにはいられません。

AGIを備えたロボットが完成したら、人間とロボットが共存する世界が生まれるかもしれないという未来。

AGIのイベントを主催したフェリシアさんは「10年ほどでAGIは現実のものになるだろう、私の周りには2、3年で実現できる、という人もいる」と話していました。

一方、専門家の中には、AGIについて適切に開発すれば、人類に良い影響を与える可能性があるとした上で、人間を支配したり、危険な兵器の開発につながったりするリスクもあると指摘する人もいます。
人工知能の動向に詳しいニューヨーク大学のゲイリー・マーカス名誉教授は、「今、AIについては規制基準があまりなく、取り締まりが必要だ。世界の大国はみなAIを監視しリスクを把握する省庁を持つべきだ」と指摘しています。

AGIは恐れるべき悪いものなのか、それとも歓迎すべき良いものなのか。

その答えは、まだ出ていません。

それは、今を生きる私たち自身、未来を生きる人間自身が決めていくことかもしれません。

人間より賢いAIが生まれたら、それをどう使うのか、そもそも、その開発自体を規制すべきなのか、より切迫感をもって真剣に議論すべき時にきていると感じます。

(10月11日 ニュースウオッチ9で放送)
ロサンゼルス支局記者
山田奈々
2009年入局
長崎局 経済部 国際部などを経て現所属
テックと環境に関心
ロサンゼルスで最新トレンドを取材