いま「鉄道の高架下」が熱い!

いま「鉄道の高架下」が熱い!
「鉄道の高架下」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか?

赤ちょうちんを掲げた居酒屋、駐車場や駐輪場、薄暗い空き地などを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?

いま、そんなイメージを覆す、高架下の活用が始まっています。その現場を取材しました。

(経済部記者 河原昂平)

高架下でバーベキューにデイキャンプ

神戸市のJR神戸線の高架下の一角。

おしゃれにライトアップされたもとで、人工芝の上にはテントが設置され、その横のスペースにはバーベキューのセットが並びます。
街なかでもアウトドアの雰囲気を楽しめる施設として、ことし8月にオープンしました。

コロナ禍でアウトドア人気が高まる中、高架下のスペースを有効活用したいJR西日本のグループ会社と、アウトドア用品を手軽に試してもらいたいメーカー、それに隣接する飲食店の事業者の3者が協力して開設しました。
JR神戸駅から徒歩わずか3分で、手ぶらでもキャンプ気分を楽しめるとあって、オープンから1か月足らずで、家族連れや若者など、およそ1200人が訪れました。

高架下にあるため、野外では気になりがちな、夏の強い日差しを遮ることができ、突然、雨が降ってきてもぬれる心配もありません。

テントを固定するくい打ちが体験できるコーナーが設けられ、本格的なキャンプの予行練習もできます。

バーベキューのグリルは、煙の少ない電気式が設置され、鉄道の運行に支障がでないよう配慮もされています。
訪れた客
「きょうは淡路島に行く予定でしたが、小雨が降ってきたので、急きょここに来ました。鉄道が上に通っていることも『込み』で、楽しんでいます」
JR西日本不動産開発・まちづくり事業本部 久谷勇樹さん
「高架下は『汚い』とか『怖い、暗い』といったイメージがあると思いますが、そのイメージを払拭すべく、開発を進めています。今後も、安心して街を歩けるような、地域の皆様に対して魅力あふれるまちづくりができればと思っています」

高架下の普通の倉庫、実は…

一方、こちらは、さいたま市の東北新幹線の高架下。
一見、倉庫のように見える、この施設。

中に入ると、ぎっしりと並んでいるのは、レタスなどの栽培装置。
ここは、3年前にオープンした屋内型の植物工場です。

LEDライトの光で育てるので、日当たりの悪い高架下でも、栽培に支障はありません。

空調システムで温度や湿度を調整し、レタスだけを栽培した場合、毎日700株程度を、安定して出荷できると言います。

都市部に近い立地から、鮮度を保ったまま、複数のスーパーに出荷でき、輸送コストも抑えられます。

さらに日当たりが悪いからこそ、温度調節のコストも抑えられると言います。

運営会社では、高架下での植物工場の設置に手応えを感じていて、今後、ほかの地域の高架下にも広げていきたいと考えています。
プランツラボラトリー 湯川敦之 代表取締役
「都心に近くて安い場所を探していて、LEDを使って農業をするため、日当たりなどは気にしていなかったので、高架下は、われわれにぴったりな場所でした。全国から、いろいろな高架下の利用について連絡が来るので、良い場所があれば進出を考えていきたい」

高架下の活用、なぜ?

鉄道の高架下と言えば、かつては飲み屋街や駐車場などのイメージが強くありました。

いま、なぜ、そうしたイメージを覆す、高架下の活用が始まっているのでしょうか?

その背景には、鉄道会社のねらいがあります。

人口減少などを背景に、運賃収入の大幅な増加は難しくなる中、各鉄道会社とも、収益の確保に知恵を絞る時代になってきています。

こうした中で、駅チカで、ある程度まとまった土地を確保できる高架下のスペースに目を付け、その活用で、直接収益に結びつけるとともに、沿線の活性化にもつなげようと、さまざまな取り組みが広がっているのです。
JR東日本 深澤祐二社長
「『地域とつながる高架下』ということを意識して取り組んでいきたい。開発のやり方によって、収益を生んでいる場所もあり、地域貢献という形でやらせていただいてる部分もあるので、トータルとしてそれがプラスに働いていくということを意識をしてやっている」

高架下は“住まい”の場所にも

高架下を住まいの場所にしてもらおう、という取り組みも始まっています。

神奈川県を走る相鉄線の、横浜駅から3つ目、天王町駅と、隣の星川駅の間の高架下やその脇のスペースに、今年4月に整備されたのは、20人あまりが暮らせる居住スペースです。

ワンルームの部屋にシャワーブースやトイレもついて、共有スペースには、キッチンや洗濯機も完備されています。
建物の構造を工夫し、防音材も活用することなどで、電車が通った際の揺れや音が、居住部分に、極力伝わらないようにしています。
このスペースに暮らす男性
「電車が通っていることは分かりますけど、揺れたり、音がうるさかったりということは、特に感じず、快適に過ごせています」
この居住スペースは、絵画や動画制作といった、表現活動を行うクリエイター向けに用意されました。

クリエイターたちの活動が、沿線のにぎわいにつながることも期待されています。

このため建物には、クリエイターたちが、地域の人と交流できるよう工夫もされています。
それぞれの部屋の前の、廊下を隔てた反対側には、道路に面した大きな窓が設けられ、通りかかった人に、制作した作品を見せたり、販売したりすることが出来るようになっているのです。
相鉄アーバンクリエイツ アセットマネジメント部 小杉山祐昌さん
「コロナ以降、鉄道の輸送人員というのは回復するにはまだまだ時間がかかると捉えています。このような沿線の活性化に着目し、事業を展開していきたい」

今後も、高架下の活用に期待

かつては、「暗い」「怖い」といった印象も根強かった鉄道の高架下。

いまや、娯楽の場所、なりわいの場所、そして暮らしの場所に変わりつつあります。

人々のライフスタイルの変化や、技術革新を受けて、今後も、その活用の幅は広がっていくことになりそうです。
経済部記者
河原昂平
2023年入局
物価やまちづくりなど精力的に取材中