ウクライナ 「無人機の軍隊」プロジェクト

ロシアによる軍事侵攻を受けてウクライナ政府が去年7月に立ち上げたのが「ARMY OF DRONES」、「無人機の軍隊」と名付けられたプロジェクトです。デジタル転換省が中心となって、無人機の調達や、調達に必要な資金の確保、国内での無人機の開発や製造を後押ししてきました。

プロジェクトが始まってから1年あまりで、ウクライナでは200社近くが無人機の製造を行い、製造能力は10倍以上に上がったほか、無人機を操作するオペレーターの育成も進め、10月には2万人にのぼるとしています。

デジタル転換省で無人機調達の責任者をつとめるユーリ・シチェホル氏は9月下旬、首都キーウでNHKのインタビューに応じ、「戦場で兵士の命を救い、偵察を行うのに無人機が最も安全な方法とわかってから、無人機を増やすことが最も重要な任務となった」と述べ、戦場で高まる無人機の重要性がプロジェクトを立ち上げた背景にあると明らかにしました。

そして、現在、ウクライナでは偵察用の無人機だけで1日に50機から60機を使っていると指摘し、ロシア側の標的を正確に攻撃するために、年内にすべての部隊に偵察用の無人機を配備することを目指しているとしています。

その上で、自爆型の無人機も含め、この1年で20万機から30万機が必要になるという見通しを示しました。

また、ロシア軍がイラン製の無人機などをより多く持っていると指摘し、「敵の無人機への対策を進めることも重要だ。ロシアの無人機からウクライナの兵士を守る機器をすべてのざんごうに備えるよう取り組んでいる」と述べました。

さらに、このプロジェクトでは政府の予算だけでなく、SNSなどを通じて民間からの資金も募っています。

このうち、さまざまな行政サービスが受けられ、1900万人以上のウクライナ市民が利用しているとされる政府の公式アプリ「Diia」では、数回の操作で日本円でおよそ400円から寄付ができるなど、市民が貢献しやすい仕組みになっています。

シチェホル氏はすべての前線で無人機が欠かせないとして、「われわれの役割は無人機の製造、そして外国からの調達を増やし続けることだ」と述べ、プロジェクトを拡大させていく意欲を示しました。

ウクライナ 無人機の製造現場では

ウクライナでは軍事侵攻が始まった当時、無人機を製造する企業は30社あまりでしたが、ウクライナ政府が進める「無人機の軍隊」と呼ばれるプロジェクトが開発や製造を後押しし、いまでは200社近くと急速に増えました。

このうち、場所を明かさないことなどを条件に、NHKの取材に応じたウクライナの企業、「エアロジックス(airlogix)」は偵察用の無人機を製造しています。

もともと荷物の配達用の無人機の開発に取り組んでいたということですが、軍事侵攻を受けて、軍事用の無人機の開発に乗り出し、3か月で試作機を作りました。

製造拠点では従業員が機体や翼などを手作業で作っていました。

この無人機は長さが1.5メートル、重さが11キロ。

時速100キロあまりで、2時間半程度の飛行が可能だということです。

イスラエル製の高性能なカメラを搭載し、デジタルズームを利用すると最大80倍まで倍率をあげることができます。

上空から戦場を偵察し、正確な砲撃のために標的の位置を知らせるのが主な役割です。

カメラを機体に収納できるようになっていて、胴体で着陸し、繰り返し作戦に参加できます。

これまでに少なくとも50機以上、納入していて、1週間に3機から5機、製造できるということです。

企業のチーフエンジニアは「戦場の兵士たちは休む間もないので、私たちも寝る間を惜しんで開発した。勝利に向けた信念があれば何でもできる」と述べ、今後は自爆型の無人機の製造にも取り組むなど、ウクライナの勝利に向けて貢献したいと意気込んでいました。

NATOも関心 無人機使った演習も

NATO=北大西洋条約機構は9月下旬、ポルトガルとその沖合で無人機を使った演習を行い、NHKを含む海外メディアに公開しました。

演習は機雷の発見と除去、海底や沖合にある重要インフラの保護、それに上陸作戦の際の偵察活動などにさまざまな無人機を活用することを想定して行われました。

演習にはNATOの加盟国とスウェーデンのあわせて15か国から海軍のほか、無人機の開発企業の関係者らも参加しました。

参加者たちは各国で開発された無人機や無人艇、無人潜水艇の性能とともに、相互に運用できるかなどを確認していました。

演習の責任者はNHKに対して、「ウクライナで無人機がどう使われているかをみて、われわれは多くのことを学んでいる。高額な戦車が小さな無人機によって動きを止められるなど、無人機には効果があることを示している」と述べ、戦闘で無人機が果たす役割の大きさを改めて確認したとしています。

その上で、「あらゆる点から教訓を得て、戦力を進化させ、新たなテクノロジーを実際の作戦で使えるようにしている」と述べ、NATOとしても実戦で使えるよう演習を重ねる重要性を強調しました。