「こどもホスピス」の取り組み 初めての実態調査へ

小児がんなどの重い病気と闘う子どもたちが家族などと安心して過ごせる環境の整備につなげようと、こども家庭庁は病気の子どもや家族を支援するいわゆる「こどもホスピス」の取り組みについて、初めての実態調査を行うことになりました。今後、調査の結果を踏まえ、支援のあり方について検討することにしています。

小児がんなどの命に関わる重い病気と闘う子どもたちは全国に2万人いるとされていて、長期間の入院や治療などで制限のある生活を余儀なくされる一方、成長や発達を地域で支援する体制は十分とはいえず、家族が心理的に孤立してしまうことも課題となっています。

こうした状況を改善しようと、こども家庭庁は病気の子どもや家族を支援するいわゆる「こどもホスピス」の取り組みについて、初めての実態調査を行うことになりました。

「こどもホスピス」は病状にかかわらず、看護師や保育士などのサポートを受けながら、子どもたちが遊んだり学んだりできる施設ですが、同じように子どもたちを支援する施設や活動の中には「こどもホスピス」という名称を使っていないところもあります。

こども家庭庁は今後、全国にある施設や活動の現状や課題を把握するとともに、利用する子どもや家族にも聞き取り調査を行い、地域の中で病気と闘う子どもたちを支える環境を整備していくための支援のあり方を検討することにしています。

「こどもホスピス」とは?

海外ではイギリスなどで先進的な事例がある「こどもホスピス」。

国内ではまだ「こどもホスピス」について明確な定義はありませんが、それぞれの施設では、命に関わる重い病気の子どもたちが遊んだり学んだりしながら、家族とともに安心して過ごせるよう支援が行われています。

国内では2012年に大阪市の病院内に初めて開設されたあと、病院に併設しない形で大阪市と横浜市にも開設し、現在、「こどもホスピス」と名付けられた施設は3か所となっています。

一方、「こどもホスピス」という名称や支援の形態にかかわらず、病気と闘う子どもたちが安心して過ごせる環境をサポートする取り組みも各地で広がりを見せています。

ただ、支援や運営の体制などには施設ごとに違いもあるため、こども家庭庁は今後行われる調査で、同じように子どもたちを支援する活動も含め実態などを整理し、支援策の検討につなげたい考えです。

また、社会の中で理解や認識が進んでいないことが施設の設立や活動にかかる資金確保の難しさにつながっていると指摘されていて、今回の国の調査が病気の子どもや家族が安心して過ごせる環境整備を社会全体で進めていく契機となるのか注目されます。

活動続けてきた現場は

大阪・鶴見区にある「TSURUMIこどもホスピス」は命に関わる重い病気と闘う子どもたちが家族とともに安心して過ごせる場所をつくろうと、7年前に開設されました。

病気と闘う子どもたちの多くは長期間の入院などで治療中心の生活を余儀なくされるほか、退院後も感染症の予防のため、制限のある生活が続くなど、病院と自宅以外に居場所がないケースが少なくありません。

このため、施設では看護師や保育士、理学療法士などの専門の資格を持ったスタッフが常駐し、楽しく過ごしてもらおうとサポートしています。

子どもたちのさまざまな希望に柔軟に応えるため、施設には絵本やおもちゃ、楽器などが備えられているほか、家族で宿泊ができる部屋もあります。

命に関わる重い病気の子どもや家族は無料で利用でき、昨年度は116人が利用しています。

ことし4月の時点で、利用者のうちの8割近くが大阪府に居住する子どもだといいますが、四国や中国地方など、関西以外に住む子どもたちも利用しているということです。

一方、活動を続けてきた中で見えてきた課題もあります。

その1つが財政基盤の安定化です。

専門性の高い常勤スタッフを一定の人数確保するための人件費のほか、光熱費や土地の賃料などで今年度は年間9000万円ほどが必要になる見通しですが、主に寄付金で運営していることから、体制の維持には支援者の数を増やすための継続した取り組みが欠かせません。

また、「こどもホスピス」をはじめとする子どもの療養環境を支える取り組みの必要性について社会の中でさらに理解や認識を広げ、一緒になって考えていくことの重要性も感じているといいます。

「TSURUMIこどもホスピス」ゼネラルマネージャーの水谷綾さんは「病気の子どもたちは治療や手術やさまざまなことに向き合うがゆえに分断されてしまい、結果、孤立につながってしまうというのが大人との大きな差なので、子どもたちの時間の長さではなくて、人生の深さというものにどうアプローチしていくかが非常に大事なポイントだと考えながら取り組んでいます。こうした取り組みがいろいろな形で広がっていくことの必要性を7年間走り続けてきたからこそ、切実に感じています。目を向けるきっかけづくりを政治や大人の側が少しずつ考えて始めていくだけでも大きな違いになると思うので、国の動きを1つのきっかけにいろんな地域で取り組みが生まれてくることにつながればいいなと思います」と話していました。

施設を利用する家族は

入院中だけでなく、退院後も長期間にわたって制限の多い生活を余儀なくされるなかで、安心して過ごせる「こどもホスピス」の存在が大きな支えになっているという家族もいます。

大阪市に住む大溝慶くん(3)は2年前、1歳の時に白血病と診断され、突然の入院生活が始まりました。

8か月あまりの入院期間中、抗がん剤治療や骨髄移植などをうけ、容体は回復に向かいましたが、慶くんは治療による体のつらさに加え、1日の大半をベッドの上で過ごさなければいけないことのストレスから、ベッドの柵におでこをぶつけ、あざを作ることもあったといいます。

また、治療の影響で免疫力が低下しているため、退院後も人混みを避けたり、土を触ることができないため、自由に外で遊ぶことさえ難しかったりと、制限のある生活を余儀なくされました。

こうした中で、同じ病院に入院していた子どもの家族から話を聞いて大阪市にあるこどもホスピスを知ったということで、施設では看護師など専門性の高いスタッフに見守られながら、自由に遊ばせてあげることができ、慶くんも施設で過ごす時間を心待ちにしているといいます。

これまで雪遊びやプール遊び、家族でのお泊まりなど、慶くんにとって初めての経験を「こどもホスピス」で重ねてきました。

さらに、病気の再発や成長発達に関する不安など、ふだん周囲に話せないことをスタッフに相談できたり、同じように病気と闘う子どもの家族と悩みを共有できたりしたことが、親にとっても救いになったといいます。

母親の祐衣さんは「赤ちゃんのころからコロナで行動制限があり、1歳を過ぎて、そろそろいろんなところに行きたいなと思っていた時に病気になってしまったので、この子に何も経験させてあげられていないという思いがありました。退院後も制限の中で出来ないことが多くて、同い年の子たちのように当たり前のことをができず、つらい思いばかりさせてしまっていましたが、ホスピスでいろいろな経験をさせてあげられて私自身救われた思いがするし、本当によかったです。ここの存在はすごく大きくて、この場所がなかったらもっとつらくて苦しかったと思います」と話していました。

専門家「当事者目線で支援を」

国の実態調査に関わる国立成育医療研究センター緩和ケア科の余谷暢之診療部長は、病気の子どもや家族が安心して過ごせる環境整備が求められる背景について、「小児医療の技術の進歩の中で、病気を抱えて生活する子どもたちが非常に増えていることがまず1番にあると思う。そういった子どもたちが生活を送るための医療や福祉の支援は比較的整えられつつあるが、地域で生活をするという視点になるとまだまだ充足されていない部分がある。この子どもたちが社会の一員として生活できる環境を整えていくことが次の課題として出てくる」と指摘しています。

そのうえで、今回、こども家庭庁が支援のあり方を検討するために調査研究をスタートさせたことについては「こういった課題を抱えている子どもたちがどのようにすれば社会の中で、よりその子らしく過ごせるかということについて考えるための基盤を、こども家庭庁が中心になってやっているところに今回大きな意味があると思う。大人や医療関係者が考える枠組みではなくて、当事者目線で支援のあり方や必要性をすくいあげ、当事者の方々にとって、より過ごしやすい形の支援につながっていくことを期待したい」と話していました。