大阪はコーヒー好き? 喫茶店の数が全国1位 なんでなん?

日本で喫茶店文化が栄えている都道府県というと、どこを思い浮かべますか?
「モーニング」や「小倉トースト」が有名な愛知もそうなんですが…。

喫茶店の数は大阪が日本一なんです。
実際、大阪の街では、昭和の雰囲気漂う個人経営の喫茶店をあちこちで目にします。

でも、なんでなん?

(大阪放送局 記者 田村允 ディレクター 矢野菜奈)

街で聞いても「わからん」

こちらは都道府県の喫茶店数のランキング。

大阪が愛知や東京を抑えて日本一です。

大阪の人に聞きました。

喫茶店、よく行きます?

(40代女性)
「もう本当にすぐ入ります!そこらじゅうに良い感じの喫茶店があるので」
(70代男性)
「毎日や。大阪が一番コーヒー美味しい!」

みなさん喫茶店が大好きなようで。

そこで、もう一つ聞いてみました。

大阪に喫茶店が多いの、なんでだと思います?

(喫茶店の店主)
「しゃべり好きだから?」
(男子大学生)
「人が多いから?」
(70代男性)
「郊外の喫茶店に駐車場があって、仕事の休憩で立ち寄る会社員が多いから?」

さまざまな説が浮上しました。

戦前からのコーヒー文化

そこで、まず取材したのは大阪珈琲商工組合。

喫茶店にコーヒーを卸す、焙煎業者の団体です。

理事長の高尾武彦さんに聞きました。

大阪って喫茶店多いんですね?

大阪珈琲商工組合 高尾武彦 理事長
「もともと喫茶店がたくさんあるのが当たり前の文化だから、改めて考えたことがなかったですね」

当たり前すぎて、考えたこともない。

それくらい多いのはなんでなん?

「ヒントになるかも」と、高尾さんはコーヒー業界の歴史をまとめた資料を見せてくれました。

昭和初期の業界の状況についてこう書かれています。

“日本のコーヒー市場の中心は大阪”

大阪には当時、主要な焙煎業者だけで59店舗あったといいます。

これは東京と横浜をあわせた数とほぼ同じ。

神戸港に入ったコーヒー豆が、すぐ近くの大都市・大阪で消費されたそうです。

戦前からコーヒー文化が栄えていたんですね。

でも、それが今も続いているのはなんでなん?

“大衆”に根付いた喫茶文化

次に話を聞いたのは、こちらの方。

喫茶店の雑誌記事を執筆する“コーヒーライター”の田中慶一さん。

関西の喫茶店を知り尽くしている第一人者です。

コーヒーライター 田中慶一さん
「大正から昭和の初めくらいに大阪と神戸で“大衆喫茶”が現れました。この“大衆喫茶”というのは、おそらく関西だけの呼び名だと思いますね」

当時 マッチ箱に印刷された広告

大阪の喫茶文化は、早くから大衆に浸透していたのが特徴でした。

富裕層ではなく、大衆向けにコーヒーを提供する喫茶店が次々とオープンしたのです。

コーヒーライター 田中慶一さん
「当時のコーヒーが大体1杯10銭くらいのところを大衆喫茶では5銭で出していました。例えば配達中の丁稚(でっち)さんが自転車で寄って飲んでまた回るみたいな。階層にかかわらずコーヒーを楽しむという習慣が、かなり浸透していたのではないでしょうか」

脱サラしての開業も

さらに喫茶文化に拍車をかけたのが、戦後の高度経済成長期。

喫茶店ブームが巻き起こったのです。

新規開業を担ったのは、会社を辞めて独立を目指すサラリーマン。

脱サラして開業する人のための“喫茶学校”までできたといいます。

大阪だけで5か所あったそうです。

コーヒーの淹れ方から店の経営術まで教えてくれたそうです。

こうした流れに乗って、大阪の喫茶店数は一時、2万軒を超えたといいます。

コーヒーライター 田中慶一さん
「1年喫茶店をやったら家が建つくらいのもうけがあったという話もよく聞きます。気軽にできて非常に利益率が高い商売だったので、脱サラして始める方が増えて、店舗数の増加につながっていきました」

戦前からのコーヒー文化や大衆喫茶という土台と、高度経済成長期の開業ブーム。

大阪に喫茶文化が花開いたのは、歴史的な背景がありました。

今も個性豊かな店が

今も昔もそんな喫茶文化を支えているのは、個性豊かなお店です。

たとえば、こちら。

梅田のオフィス街で50年近く営業している老舗喫茶店。

「コーヒー専門店」なんですよ。

でも、食事のサンプルがずらり。

店内も料理をほおばるお客さんでにぎわっています。

これは…喫茶店というより洋食屋さん?

(30代男性)
「カレーとオムライスと、スパゲッティ。これをローテーション」
(20代男性)
「ごはんがおいしいから来ています。コーヒーは頼んでいないです」

いやいや、コーヒーもおいしいんですけどね。

お店の方に聞きました。

なんで洋食屋さんみたいになっているんでしょう?

店主 橋崎卓さん
「昔、このビルの上に証券会社さんが入っていて、そこの社員食堂がなくなったんです。それをきっかけに、ランチを始めました。それから、お客さんが好きそうなメニューを少しずつ増やしてきました」

なるほど。

周辺の環境やニーズにあわせて変化し続けてきたんですね。

今も昔も愛される、大阪の喫茶店の特徴です。

取材した日のお客さんからはこんな注文も。

「グリンピース抜きで」

わがままにも応えていました。

店を継いだのは…

一方こちらは、中崎町の喫茶店。

開業40年あまり、昭和のレトロな雰囲気にあふれています。

この店は新たな世代によって受け継がれています。

現在のマスター、片牧さんはもとは常連客の1人でした。

初代の店主が高齢で店を閉めると聞いて、跡を継いだのです。

店主 片牧尚之さん
「その時の常連さんが近所のおばあちゃんとかおじいちゃんで。いつもいてはって、いろんな話をしたり一緒にテレビを見たりしてたんですけど。その人達の行く場所がなくなると思って『じゃあ僕そのままやるわ』と」

店主が代わった今も、近所の常連さんたちが通い続けます。

きょうも話に花が咲きます。

「こういう喫茶店はなかなかないんです。続けてもらわないとね。私らの憩いの場所やから」
「癒しの場所やな。ちょっと来て、ゆっくり話できるなあ」

愛され続ける喫茶文化は、令和の時代も受け継がれていました。

喫茶店に行ってみよう

時代やお客さんのニーズにあわせて変化し続ける。

世代を超えて継承されていく。

どの喫茶店にも、人の温かさを感じました。

直接のコミュニケーションが少なくなりつつある今だからこそ、大阪の喫茶文化のすばらしさを感じました。

みなさんも、喫茶店でほっと一息ついてみませんか?