藤井八冠 将棋 王座戦第4局 勝敗を決めた”運命の一手”は

11日に行われた将棋 王座戦五番勝負の第4局では最終盤、勝敗を決定づける”運命の一手”がありました。

終盤、互いに時間を使い切り、1分未満で次の手を指す「1分将棋」となる中、永瀬九段は敵陣をねらう「香」を打ったり、「銀」や「と金」を活用したりして藤井八冠の玉に迫り、AIの評価値も永瀬九段有利に傾きます。

122手目、藤井八冠が「5五銀」と打った局面で、AIの評価値は永瀬九段が圧倒的に有利な「99%」となり、勝利はほぼ確実とみられていました。

ところが永瀬九段は123手目に、「勝ち筋」の「4二金」という手ではなく、「5三馬」という意外な手を指しました。

これはプロ棋士やAIの予想にはなかった指し手です。

この手を指したことでAIの評価は一気に永瀬九段の不利に傾き、10%を切る数値にまで低下します。

読みの誤りに気付いた永瀬九段は何度も頭をかきむしり、天を仰ぎました。この結果、藤井八冠に反撃に転じる余裕が生まれ、形勢は一気に逆転。永瀬九段は劣勢を覆すことができず、敗れました。

深浦九段 “永瀬九段には詰みが見えたはずだが 幻だった”

この一手について棋士の深浦康市九段は「永瀬九段には勝ちが見えて、詰みが見えたはずだが、それは幻だった。非常につらい失着になってしまった」とこの一手が最終的な勝敗を決めたと評価しました。

そのうえで「将棋は怖いもので『勝ちだ』と思った瞬間に隙が生まれる。永瀬九段が優位な時間が長かったし、対局前のインタビューでも『人間の一面を捨てないと勝てない』と言っていたので覚悟を感じていたのだが、藤井八冠からどこでひっくり返す手が出てくるのか怖くて思い切って踏み込めないところもあったと思う。藤井さんの持っている力を警戒してしまって、思うように勝ちを見いだせなかったというのが、藤井さんの隠れた力だと思う」と話していました。

森下九段“信じられない大逆転 AIにはない藤井八冠のすごさ”

この一手について棋士の森下卓九段は「中盤まで一進一退の攻防が続いたが、藤井八冠にミスが出てきて、一時は永瀬拓矢九段が、AIの評価値で大差で有利になる局面もあった。しかし、『千慮の一失』といえる信じられないミスで大逆転が起きた」と振り返りました。

読みを誤った原因については、森下九段は「いちばん大きな理由は、持ち時間が無くなり、『1分将棋』になっていたからだと思う。さらに、藤井八冠が相手だとこれでもかというくらい手を読まなければならず、初手から疲労が積み重なっていた。勝ちが見えていたのに、こうした負の相乗効果で悪夢のような大逆転負けになったのではないか」と分析しました。

そして、「これまでタイトルを独占してきた棋士には奇跡としか言えない勝ちが多くあり、それは強さ故に相手がプレッシャーやおそれを感じて、語弊があるが『相手が負けてくれる』ということが起きるからだと思う。最後にきっちりと勝ちきるのは実力だが、信じられない大逆転を続けて起こしてしまうのがAIにはない藤井八冠のすごさだ」と話していました。