パレスチナ ガザ地区 水も食料も燃料も不足「人道回廊」設置は

イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナのガザ地区。イスラエルによる報復作戦の影響で地区唯一の発電所が燃料不足で操業できなくなっているほか、水や食料なども不足し、人道状況が悪化しています。

国際機関からは必要な物資を届けるため「人道回廊」の設置を求める声も相次いでいます。ガザ地区の現状についてまとめました。

「天井のない監獄」ガザ地区とは

パレスチナは、1948年のイスラエル建国とその後の中東戦争、それに内部の対立を経てヨルダン川西岸地区とガザ地区に分断されています。

ガザ地区(2018年撮影)

このうちガザ地区は、地中海に沿った、鹿児島県の種子島ほどの広さの土地に220万人以上が暮らしていて、イスラム組織「ハマス」が実効支配しています。世界でも人口密度の高い地域とされています。

(2023年9月撮影)

ガザ地区の周囲には壁やフェンスが張り巡らされ、移動の自由も制限されていて、「天井のない監獄」とも呼ばれています。

死者1100人 発電所は燃料不足で操業できず

イスラム組織ハマスが、今月7日にイスラエル側に大規模な攻撃を開始して以降、攻撃の応酬が続いていて、ガザ地区の死者の数は1100人にのぼっています。

イスラエルは、ハマスへの報復作戦としてガザ地区への攻撃を続けていて、11日には、ハマスの軍事拠点だとして地元の大学などを空爆したり、長距離ミサイルなどで破壊したりしたとする映像を公開しました。

ガザ地区では、報復作戦によって市民の犠牲が増え続けていて、パレスチナ暫定自治政府は、人体に大やけどを負わせることから非人道的だと国際的に批判されている「白リン弾」が使用されていると主張しています。

またパレスチナのメディアは、イスラエル側がガザ地区を封鎖した影響で、地区で唯一の発電所が燃料不足に陥り、操業ができなくなっていると伝えています。

激しい空爆 広範囲で建物壊れる

激しい空爆が続くガザ地区を10日に撮影した衛星写真です。

400メートル以上の広い範囲にわたって建物が黒く焼け焦げていて、確認できるだけで少なくとも10以上の建物が原形をとどめていません。

被害があった地域は建物がひしめきあうように建つ人口密集地で、大学や銀行、それに、幼稚園などが集まっているほか、国際機関の事務所もあります。

避難先のホテル前でも空爆

ホテル前の道路

激しい空爆が続いていて、NHKガザ事務所の取材班が避難しているホテルの前の道路付近でも何度も爆発がありました。

ホテルのロビーからNHKのカメラマンが撮影した映像にはホテルの前の道路付近から大きな爆発音が繰り返し聞こえ、煙が高くあがっている様子が映っています。ロビーにいた人々は爆発の被害を受けるのを避けるため窓や入り口から離れて、建物の奥に身を寄せていました。また、煙を吸い込まないように鼻と口を覆っている人や大きな声で泣き叫ぶ子どもの姿もありました。

ホテルに避難をしているジャーナリストの男性
「ここは外国メディアのジャーナリストが多く避難しているホテルだが、イスラエル軍は突然、この近くに空爆を行った。インターネットもなく、電話をかけるのも難しく、何もできることがない」

病院にも空爆

世界各地で医療支援を行う国際NGO「国境なき医師団」は10日、ガザ地区で活動を支援している病院の1つがイスラエル軍の空爆で被害を受けたと発表しました。

国境なき医師団が活動していた別の病院の前でもけが人を乗せた救急車が空爆されたということです。

イスラエル政府によるガザ地区への電力や水の供給を止めるという措置により医療活動が難しくなっているとし「医療施設は尊重されるべきで攻撃の対象になってはならない」と訴えています。

《人道回廊 設置求める動きも》

米ブリンケン国務長官「イスラエルとエジプトと協議中」

アメリカのブリンケン国務長官はイスラエルのネタニヤフ首相と会談を行うため、日本時間12日に、イスラエルに到着しました。会談では、イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナのガザ地区に必要な物資を届けるための人道回廊の設置についても意見を交わすものとみられます。

この人道回廊の設置について、ブリンケン長官は、イスラエルとその隣国のエジプトの両国と協議中だとした上で「われわれはできる限り、市民に危害が加えられないようにしたいし、イスラエルも同じ考えだということはわかっている」と述べました。

一方、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は記者会見で「ハマスが行ったことについて市民が責められるべきではない。安全な避難路を確保するとともにパレスチナの人々に支援を届けることが重要だ」と述べました。

イスラエルは地上部隊による侵攻も辞さない構えを示しており、これ以上、市民の犠牲が拡大するのを食い止めることができるかが焦点です。

WHO「人道回廊を設けるべき」

ガザ地区の医療状況についてはWHO=世界保健機関も懸念を示しています。

WHOは、10日に発表した声明で「ガザ地区の病院は予備の発電機により電力をまかなっているが、燃料は数日中になくなる可能性がある。WHOが、以前配備した物資も底をついた」として人道危機にある人々に必要な物資などを届けるための「人道回廊」を設けるべきだと強調しています。

また、避難所が過密状態になっていて、感染症が発生するリスクが高まっていて、対策をとることが重要だと指摘しています。

国連WFP 約180万人が食料不足

国連WFP=世界食糧計画は11日、声明を発表し、ガザ地区の人口のおよそ8割にあたる180万人が食料不足に陥っていて、現地は壊滅的な状況だと指摘しました。

その上で、「私たちはできる支援をすべてしているが、ガザ地区にある食料など必要な物資はすぐにも底をつきそうだ」として危機感を示し、必要な物資を届ける方法を確保するよう訴えています。

国連「一刻の猶予もない」対応呼びかけ

グテーレス事務総長

国連のグテーレス事務総長は11日、ニューヨークの国連本部で急きょ会見を開きました。

この中でグテーレス事務総長は、ガザ地区にあるUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関の92の施設におよそ22万人のパレスチナの人たちが避難しているとして、「市民は常に保護されなければならない。国連の施設や病院、学校は標的にしてはならない」と訴えました。

その上で「ガザ地区に燃料や食料、それに水など、命を救う重要な物資を持ち込むことを許可しなければならない。迅速かつ、妨げられない人道支援がいま必要とされている」と述べ、イスラエルが「ガザ地区を完全に包囲する」としている中、市民を保護し、人道支援物資の搬入を認めるよう訴えました。

グテーレス事務総長は最後に「一刻の猶予もない。一瞬一瞬が大切だ」と述べ、事態のさらなる悪化を回避するためすべての当事者に対応を呼びかけました。