タリバン復権から2年 アフガン避難民の暮らしは今

タリバン復権から2年 アフガン避難民の暮らしは今
アフガニスタン西部で10月7日に発生した地震によって、これまでに2000人以上(10月10日時点)が死亡したと伝えられています。
現地で実権を握るイスラム主義勢力タリバンは、女性の権利抑圧などを強めてきました。そのため、国際社会からの支援は滞っていると指摘されていて、今回の地震の被災者に十分な支援が行き渡るのか懸念されます。

今回の地震発生前から、アフガニスタンの国外に避難を望む声が次々と上がっており、日本にはタリバンから命を狙われたなどとして、これまでに800人以上のアフガニスタン人が様々な方法で避難しています。タリバン復権から2年が経ち国際社会からの関心が薄れる中、今どんな支援が求められるのか取材しました。

(おはよう日本 ディレクター 松尾聡子)

避難先の日本で…再び行き詰まる生活

1年前にアフガニスタンから避難してきたハシブラ・モワヘドさん。

政変後、東京外国語大学から緊急で就労ビザを手配してもらい、いまは臨時教員として経済学を教えています。

ハシブラさんは、タリバンが実権を握る前はアフガニスタン政府で経済政策を立案していました。

その時に、東京外国語大学の留学生として、平和学を学んだ経験があり、今回、大学側の支援を受けることができました。

タリバンが実権を握って以降、同じような経歴を持つ複数の同僚がタリバンから殺されたり拷問を受けたりしたと話すハシブラさん。

自身や家族も命を狙われることを恐れたため、一家12人で日本に避難してきたといいます。
ハシブラさん
「もし私がタリバン統治下のアフガニスタンに戻れば、自分の身に何が起こるかは、わかりきったことです。たとえ殴られたり、殺されたりしても、誰もそれを取り締まることはありませんから」
ハシブラさんが今最も心配しているのは、今後も日本で暮らし続けることができるかどうかです。

今は、大学から教員としての給与に加え、家族12人で暮らすための住居も無償で貸してもらっています。
しかし、大学の予算が限られているため教員を続けられるのはあと半年で、住んでいる寮からも出ていかなくてはなりません。

新しい仕事や住居を日々探すもののなかなか見つからず、先行きの見えない生活を送っています。

増え続ける現地からの避難望む声

一方、アフガニスタンでは、今も避難を望む声が後を絶たないといいます。
この2年間でおよそ300人のアフガニスタン人の退避を支援してきた日本のNPO(認定NPO法人REALs)には、女性が性的暴行を受けたり、スポーツ選手がむちで打たれたりするなど、タリバンからの被害を訴える声が連日寄せられています。

このNPOでは、今も100人以上のアフガニスタン人が避難する国を探しているといいます。
認定NPO法人REALs 理事長 瀬谷ルミ子さん
「(政変直後は)自分たちはまだアフガニスタンでできることがあると思うからとどまるという人たちもいたんですよね。ただ特にことしに入ってから、自分や自分の子どもの命を守るために国外に出ないといけないという決断をする人が増えてきている」
女性などを抑圧する政策をとるタリバン暫定政権を正式に認めた国はこれまで1つもなく、国際社会からの支援は先細りしています。
このことが、アフガニスタンにいる多くの人々をさらに苦しい状況に追い込んでいるといいます。
10月7日にアフガニスタン西部で発生した地震の影響も深刻です。

もともと貧困状態にあった人々が家まで失うことになり、一刻も早い支援が求められています。
このNPOの支援を受け、国外への退避を待つ家族も住居が倒壊。野外での寝泊まりを余儀なくされ、タリバンに自分たちの居場所が気付かれるのではと不安を抱えながら過ごしているといいます。

出身国によって行政支援に違い…戸惑う支援現場

今も避難を望む人が増え続けるなかで、日本の支援のあり方には課題があるという指摘もあります。
30か国以上の外国人が通っているこの日本語学校では、国際協力の一環として様々な国から避難してきた人たちを受け入れてきました。

いまは、アフガニスタンやシリア、ウクライナから避難してきた人が学んでいます。
ただ、日本の行政支援はどこの国から避難してきたかによって違いがあります。現在、ウクライナからの人には、緊急措置として様々な支援が行われています。身元保証人がいなくても入国できるほか、渡航費や生活費、住居の提供などが受けられます。

しかし、アフガニスタンからの人には、原則、このような支援がありません。
日本語学校 受け入れ担当者
「ウクライナの方には住宅無償で、ほかの避難民の方っていうと規定はないです。どうしてもそこにはちょっと線引きがあるのかなと思います。だからこそ、私たちが全部サポートをするという感覚でやっています」
この学校では、行政からの生活支援がないアフガニスタン人に対し住宅を無償で提供。さらに学費を2年間免除しています。

「国際法に反する」と指摘する専門家も

行政の支援に違いがあることについて、国際法に詳しい明治学院大学の阿部浩己教授は次のように指摘しています。
阿部浩己教授
「平等に保護されるべき人々のあいだに、政治的・地政学的な考慮によって差別が生まれている状況で、国際法に反する。どの国出身であっても同列に扱えるように制度を整えていくべきです」
こうした専門家の指摘について、外務省はNHKの取材に対し、「ウクライナ避難民への対応は、ウクライナの危機的状況を踏まえた緊急措置として政府全体として取り組んでいるもので、それ以外の方々への対応と一概に比較して論じることは困難」と答えています。

避難したハシブラさん…難民申請後も募る不安

母国に戻れば自身の経歴を理由に迫害を受けることを恐れているハシブラさんは、ことし4月に難民申請をしました。

難民として認定されれば、5年の在留資格が得られ、日本語教育や就労支援など公的な支援も受けられるため、日本での生活の足掛かりを作れると考えているからです。
しかし、出入国在留管理庁からは、まだ認定の連絡がありません。

申請の進捗状況や、いつまでに認定が下りるかもわからず、不安が募っているといいます。
ハシブラさん
「この状況下では、2つの選択肢しかありません。日本で生きるかアフガニスタンで死ぬか、です。日本政府がこのまま何もしなければ、私たち家族はとても危機的な状況に直面すると思います」
アフガニスタン人の難民申請の状況について、出入国在留管理庁はNHKの取材に対し「最新のアフガニスタン情勢を踏まえ、申請者ごとにその申請内容を審査した上で、難民条約の定義に基づき、適切に認定している」と回答しています。

“命が脅かされている人”を守れる支援は

国籍にかかわらず、命が脅かされている人が支援を受けられることは、誰しもが持つ権利です。

その権利をいかに守っていくのか、あるべき支援とは何か。

日本で生きるか、アフガニスタンで死ぬか…。

ハシブラさんの言葉の意味を改めて受け止めつつ、取材を続けたいと思いました。
おはよう日本ディレクター
松尾聡子
令和1年入局
福岡局を経ておはよう日本部所属
難民や男女の賃金格差の取材をしています