“子ども放置禁止”条例案 埼玉県に反対意見871件 賛成2件

埼玉県議会の自民党県議団が小学3年生以下の子どもを自宅に残したまま保護者などが外出することなどの放置を禁止する虐待禁止条例の一部改正案を提出したことに対し、埼玉県にはこれまでに800件を超える意見が寄せられそのほぼすべてが反対意見となっています。

埼玉県虐待禁止条例の一部改正案は県議会の最大会派自民党県議団が子どもが放置されることにより危険な状況に置かれることを防ごうと、先週、県議会に提出しました。

改正案では
▽小学3年生以下の子どもを家などに残したまま保護者などが外出することを禁止するとともに
▽4年生から6年生については禁止ではなく努力義務としています。

改正案は、今月6日に開かれた県議会の委員会で自民党や公明党会派の賛成多数で可決されていて、今月13日に本会議で採決が行われることになっています。

一方、埼玉県によりますと、10日午前10時までに873件の意見が寄せられ、このうち改正案に反対意見が871件、賛成意見が2件だということです。

PTA協議会“責任を親だけに押しつけるような条例”

さいたま市PTA協議会が県議に反対意見書を提出する様子

また、さいたま市PTA協議会は、9日、自民党県議団に対し「ほとんどの保護者が条例違反にあてはまる」などとして改正案に反対する意見を伝えました。

そしてPTA協議会は改正案に反対するオンラインの署名活動を行っていて、10日午前10時までに2万5000人以上の署名が集まっているということです。

さいたま市PTA協議会の郡島典幸 会長は「子どもの自由を奪ったうえで子育てに関する責任を親だけに押しつけるような条例だと感じる。各学校のPTAからも懸念の声が寄せられていて、子育て支援を充実させるという社会の流れと逆行していると感じる」と話しています。

一方、改正案を提出した自民党県議団は、今後の対応などについて説明する会見を開く方向で調整を進めています。

改正案 具体的な内容は

埼玉県議会の最大会派、自民党県議団が提出した「埼玉県虐待禁止条例の一部を改正する条例」では、

「小学3年生までの児童を現に養護する者は当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置をしてはならない」として家などに残したまま保護者などが外出することを禁止しています。

また、小学4年生から6年生については禁止ではなく努力義務としています。

さらに「県民は、虐待を受けた児童等を発見した場合は、速やかに通告または通報しなければならない」としています。

一方、罰則規定は置かれていません。

この改正案について、自民党県議団は、これまでの県議会での説明などで子どもを家などに残したまま保護者などが外出するといった放置は、「虐待」にあたるとしています。

どんな状況が「放置」に該当?

自民党県議団が説明する「放置」の例です。

▼子どもを車の中に置き去りにすること
▼子どもたちだけの自宅での留守番など
▼未成年の高校生に小学生などのきょうだいを預けて買い物に出かける行為
▼子どもだけ家に残してゴミ捨てに行く行為
▼子どもたちだけで公園などで遊ぶこと
▼子どもたちだけでの登下校
▼子どもにおつかいさせる行為

自民党県議団は、改正案提出の理由について、子どもが車内に取り残されて、熱中症などで死亡することが全国各地で相次いでいるため、児童が放置により危険な状況に置かれることを防止するねらいがあると説明しています。

子育て中の親からは“厳しすぎる”など反対意見相次ぐ

条例の改正案について子育て中の人からは厳しすぎるなどと反対意見が相次ぐ一方、子どもの安全のためには必要だという声も出ていました。

小学4年生と小学6年生の母親
「友達どうしで遊ぶ機会も増えますし、お兄ちゃんに鍵を持たせてお留守番をさせる機会も多いです。共働きの親としてはずっと子どもに付き添えませんし、ちょっと乱暴な気がします」

高校生と中学生、小学2年生の3人の子どもの父親
「子どもを守るという趣旨は理解できますが、高校生の兄はしっかりしていますし、留守番で下の子を見てもらうこともあります。それもダメというのはちょっと厳しすぎると思う」

3歳と年長、小学4年生の3人の子どもがいる40代の母親
「下の子の幼稚園のお迎えにはいちいち上の子はついて来ませんし、やむをえず留守番する時間ができてしまう。子どもを守りたいのであればもう少し議論を深めてほしい」

3歳の子どものいる30代の母親
「小学生は放課後児童クラブも入れない状況もあるのに、子どもの受け皿となる対策が整わない段階で禁止だけするのはおかしい。いつ通報されるかわからない状況も不安です。子育てしている人が考えた案とは思えないし、やめてもらいたい」

3歳と5歳の子どもがいる30代の父親
「かなり行動に制限はでると思いますけど、夫婦交代で見るようにしたい。虐待とかはゆるいと抜け道ができてしまうので、白黒はっきりさせたほうがいいと思う」

3歳の子どもがいる30代の母親
「子どもが犯罪などトラブルにあったら怖いので、子どもにはついていたい。子どもの安全のためには必要だと思います」

加藤こども政策相「留守番の当否の判断 難しいケースも」

加藤こども政策担当大臣は記者会見で「今まさに県議会で議論されている最中でコメントは差し控えたいが、私自身、子育てをしている経験から、留守番させることの当否の判断が難しいケースもあるだろうと考えている。時間の長さや、いざとなったら駆けつけられる養護者との距離などさまざまな要素があって適切か不適切かなどの判断ができるのではないかと思う」と述べました。

盛山文科相「十分な議論が行われることが望ましい」

盛山文部科学大臣は、閣議のあとの記者会見で「文部科学省としては、地域全体で子どもを守り育てる環境や仕組みを整備することは重要であると考えている。条例については、各自治体の実情などを踏まえて制定されるものであり、関係者の意見も踏まえた上で十分な議論が行われることが望ましいと一般論としては考えている」と述べました。

国民 玉木代表「現実に当てはまらない 慎重に議論を」

国民民主党の玉木代表は記者会見で「常に親が家にいることを前提にしか成り立たないようなことを求めても、現実には当てはまらない。子どもだけで通学したり、買い物に行ったり、遊んだりできる安全な環境を取り戻すことの方が大切ではないか。全国への影響も非常に大きく、よくよく慎重に議論してもらいたい」と述べました。

これまでの経緯 委員会は7対4の賛成多数で可決

10月6日の県議会の福祉保健医療委員会では、この改正案に対して意見が交わされました。

委員会の会派別の構成は、委員長と副委員長は自民、そのほかの委員は自民が5人、民主フォーラム2人、公明1人、県民1人、共産党1人でした。

2時間意見が交わされたあと、委員長を除いて採決が行われ7対4の賛成多数(賛成:自民6、公明1、反対:民主フォーラム2、県民1、共産党1)で可決されました。