社会

水俣病訴訟 国と県が控訴 蒲島知事「苦渋の決断だった」

水俣病と認定されておらず、救済策の対象にもならなかった関西などに住む128人の原告全員を水俣病と認定して、国などに賠償を命じた大阪地方裁判所の判決を不服として、国は10日、大阪高等裁判所に控訴しました。

昭和30年代から40年代にかけて、熊本県や鹿児島県に住み、その後、関西などに移り住んだ128人は、水俣病に認定されていない人を救済する特別措置法で、住んでいた「地域」や「年代」によって救済の対象外とされたのは不当だとして国と熊本県、それに原因企業のチッソに賠償を求めました。

9月27日、大阪地裁は、特別措置法の基準外でも水俣病にり患する可能性があるとする、初めての司法判断を示して原告全員を水俣病と認定し、国と熊本県、チッソに合わせておよそ3億5000万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。

この判決について国は10日、大阪高裁に控訴しました。

控訴した理由について環境省は、今回の判決が、水俣病の発症の基準とするWHO=世界保健機関の指針を下回る濃度でも長期間の摂取による発症の可能性を指摘したことや、過去の判決で否定された、水銀を摂取して長期間が経過して発症する「遅発性水俣病」を認めたこと、それに遅くとも昭和44年以降は水俣湾周辺地域でも水俣病発症の可能性のあるレベルの水銀を摂取する状況ではなくなったにもかかわらず、それ以降も広い地域での摂取を認めたことについて、高裁の判断を仰ぐ必要があるとしています。

判決を不服として原因企業のチッソは今月4日に控訴しました。

熊本県も控訴「苦渋の決断 司法の一貫性は大事」

熊本県も10日、国と同じく、大阪高等裁判所に控訴しました。

控訴した理由について、熊本県の蒲島知事は県庁で記者団に対して「今回の判決の最大の争点である水俣病のり患の考え方について、過去の最高裁で確定した判決と大きな相違がある。水俣病の行政の根幹を揺るがすものであることから、上級審の判断を仰ぐ必要があると判断した」と述べました。

そのうえで「水俣病は私の政治の原点であり被害者や患者の方にずっと寄り添ってきたつもりだ。原告の方が長年にわたってさまざまな症状に苦しんでいることもあり、苦渋の決断だった。ただ、司法の一貫性はとても大事で、それがないと水俣病の行政はできないと思っている」と述べました。

伊藤環境相「最高裁で確定した判決の内容と大きく相違」

水俣病に関する補償や施策などを担当する環境省の伊藤大臣は、国が控訴したことについて取材に応じ「判決内容を精査した結果、今回の判決は、国際的な科学的知見や最高裁で確定した判決の内容と大きく相違することなどから、上訴審の判断を仰ぐ必要があると判断した」と述べました。

そのうえで「環境省としては引き続き、水俣病問題の歴史と経緯を十分に踏まえながら、水俣病の被害に苦しまれてきた方々の思いを受け止め、特措法が定める健康調査の検討の加速化や地域の医療、福祉の充実など、水俣病対策に全力で取り組む」と話しました。

弁護団長「抗議の意を示したい」

国などがいずれも控訴したことを受け、原告団が大阪市内で会見を開きました。徳井義幸弁護団長は「原告は高齢化しており、いたずらに係争を延ばすべきではないと要請してきたが、極めて残念で、抗議の意を示したい」と述べました。

その上で「控訴審が始まっても解決に向けた話し合いの場を持つように要請していきたい」と述べました。

原告「早期救済に向け動いてほしかった」

国などが控訴したことについて、鹿児島県阿久根市出身で、現在は大阪 島本町に住む原告の1人の前田芳枝さん(74)は「水俣病の被害者は高齢で、裁判の途中で亡くなった人もいて、一刻の猶予もありません。私たちはチッソが流したメチル水銀で思わぬ人生になりました。今回の対応は許されるものではありません。国と熊本県は控訴せずに被害者と向き合い、早期救済に向けて動いてほしかったです」などと訴えました。

その上で「私たちは前を向きくじけずに頑張っていくしかありません。絶対に負けられません」と話していました。

国などが控訴したことについて、鹿児島県長島町出身で、現在は兵庫県尼崎市に住む原告の1人の本良夫さん(67)は「この問題を解決する責任は国や熊本県、チッソにあると思います。水俣病患者の命と体の痛み、つらさや心の苦しさが少しでも楽になるように、一刻も早く救済をしてほしい」などと話していました。

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