クマ被害すでに100人超 過去最悪ペース 早朝・夕方に集中 なぜ

『いつでも・どこでも・誰でも』クマに遭遇するリスクがあります。

秋田県が警戒を呼びかける際のフレーズです。

ことしは各地で人がクマに襲われる被害が相次ぎ、過去最多だった3年前の2020年を上回るペースで被害が相次ぐ深刻な事態となっています。

9月に被害にあった35人がクマに遭遇した時間帯や場所を分析、特に警戒すべき点を専門家に聞きました。

クマ被害 どのくらいの数の人が?

環境省はことし4月から8月までにクマに襲われてけがをするなど被害にあった人の数を発表していて、その数は全国15の道府県のあわせて71人、このうち2人が死亡しています。

その後、9月に入ってからの被害についてはまだ環境省がまとめたデータは出ておらず、NHKは各地域局の取材をもとに独自に集計しました。

すると被害にあった人は少なくとも35人で、環境省の集計の71人(8月まで)と足しあわせると、9月末までの被害は少なくとも106人に上っていることがわかりました。

これを、2013年度以降の人的被害をまとめたグラフで見てみます。

今年度の被害は9月末までの集計で106人と、すでに去年とおととしを上回っているのがわかります。

環境省が統計を取り始めて以降最も多い158人の被害が出た3年前の2020年度は、同じ9月末までの被害は86人だったので、今年度はそれを大きく上回る過去最悪のペースとなっています。

どの県が多い?

ことしの被害を道府県別に見ると、次のようになっています。

《ことし4月から9月末まで》
▽秋田・・28人
▽岩手・・26人(うち1人死亡)
▽福島・・13人
▽長野・・9人
▽青森・・5人
▽新潟・・5人
▽山形・・4人
▽岐阜・・4人
▽北海道・・3人(うち1人死亡)
▽宮城・・2人
▽群馬・・2人
▽富山・・2人
▽京都・・1人
▽三重・・1人
▽島根・・1人

東北地方などで被害が多くなっているほか、京都や島根など西日本も含めて各地で被害が出ています。

NHKのまとめでは、10月に入ってからもすでに岩手・秋田・青森であわせて10人の被害が出ていて(7日時点)、例年、クマが冬眠に入る前のこの時期に被害が増える傾向があるとして各地の自治体や専門家は被害を防ぐ対策の徹底を呼びかけています。

クマの生態に詳しい 石川県立大学 大井徹特任教授
「ことしは主食のどんぐりなどが不作により不足していて、冬眠に入る前にエサを求めて行動範囲を人の近くまで広げているとみられる。クマは臆病で積極的には人を襲わないとされているが、身を守るために攻撃的になることがあり、警戒が必要だ」

特に被害が多いのは何時ごろ?

さらに、NHKの各地域局の取材をもとに、9月の1か月間に被害にあった35人について、クマに襲われるなどした時間帯や場所について、その傾向を分析しました。

すると、クマに襲われたり、通報があった時間帯を見ますと、35人のうち「12人」は「午前5時から6時台」に集中していることがわかりました。

また、未明から午前8時台まで含めると「17人」と、全体の半数近くにのぼっていました。

午後4時ごろ以降の「夕方から夜にかけて」の時間帯も「10人」と多くの被害が出ていました。

こうした状況について、大井特任教授は次のように指摘しています。

大井特任教授
「クマは山の中では日中に活動するのが普通だが、人里に出てくるようになったクマはひと目を避けようと夜型になり、夜間の活動が中心になるとみられる。人とクマの活動が重なる早朝や夕方の時間帯に鉢合わせてしまうことが増えているのではないか」

人が住む地域でも被害 なぜ住宅地に?

さらに、クマの被害にあった「場所」についてもみてみました。

山や林の中で被害にあった人もいる一方で、「住宅街」や「自宅の敷地内」、「自宅前の畑」など人が住む地域で襲われたケースは少なくとも10人に上っていました。

このうち9月22日、福島県本宮市では午前3時すぎ、50代の男性が1階の自宅アパートの部屋のカーテンを開けたところ、窓の外に体長約1メートルのクマを見つけました。

男性が驚いて大きな声をあげたところ、クマは窓ガラスを割り、近くの山林に向かって逃げていきましたが、男性はガラスの破片を踏んで足の裏を切る軽いけがを負いました。

当時、2階にいた男性の母親は「ガチャーンという音を聞いて下りてきたら息子がクマだと言って何事かと驚きました。20数年住んでいますが、こんなことは初めてです」と話していました。

大井特任教授
「人里には果樹などのクマのエサになるものが豊富にあって高齢化により放棄された農地など身を潜めやすい場所もある。市街地のすぐ近くに定着して繁殖するようになったクマも確認されていて、クマの生息域が人の住む場所のそばまで広がってきていることが背景にあるのではないか」

クマを寄せつけないためには

クマの被害にあわないために、どのような対策をとればいいのでしょうか。

大井特任教授は、まずはクマを人の生活圏に近づかせないための取り組みが大切だと指摘します。

具体的には、クマが好んで食べる柿や栗などを放っておかずに収穫したり、生ゴミやペットのエサを屋外に出しておかないこと、それにやぶを刈ったりして見通しをよくすることでクマが身を潜める場所をなくすなどといった対策です。

また、住宅街に迷い込んだクマがパニックになって建物に入り込んでしまうこともあるので住宅や物置の戸締まりをしっかりとしておくことも大切です。

クマに出会ってしまったら

では、もしクマに遭遇してしまったらどのように行動すればいいのでしょうか。

大井特任教授は「クマには逃げるものを追う習性があるため、背中を向けて走って逃げようとしてはいけません。まずはクマのようすを冷静に観察して向かってこないようであればゆっくりと後ずさりして近くに住宅や車があれば逃げ込むようにしてください」と話しています。

秋田県のホームページ

万が一、襲いかかられてしまったら、首や腹などを守る防御姿勢をとるようにしてください。

大井特任教授は「クマは人を食べるつもりはなく攻撃能力を失わせて逃げるために襲ってきていると考えられるので、執ように攻撃し続けることは通常はありません。冷静に命を守る行動をとってください」と呼びかけています。