プーチン大統領「新しい世界秩序」という表現でアメリカに対抗

ロシアのプーチン大統領は5日行った演説でウクライナへの軍事侵攻を正当化したうえで「新しい世界秩序」という表現でアメリカに対抗する姿勢を全面的に打ち出しました。
さらにCTBT=包括的核実験禁止条約の批准を撤回する可能性も示唆し、欧米側へのけん制を一段と強めています。

ロシアのプーチン大統領は5日、ロシア南部ソチで国際情勢をテーマに開かれた「バルダイ会議」に出席しました。

プーチン大統領は「ロシアの領土は世界最大で追加の領土を征服することに関心はない」などと述べ、ウクライナ侵攻は領土目的ではないと主張し、正当化しました。

そのうえで「われわれは新しい世界秩序の基礎となる原則について話している。西側諸国、特にアメリカは独断的にルールを決め、こうすべきだと教えてくる。植民地主義的な考えだ」と述べアメリカに対抗する姿勢を全面的に打ち出しました。

また、プーチン大統領は最新の巡航ミサイルなどロシアの核戦力を誇示したほか、ロシアが批准しているCTBT=包括的核実験禁止条約について「理論上、批准は取り消すことができる」と述べ、批准を撤回して新たな核実験に踏み切る可能性も示唆しました。

これを受けてプーチン大統領の側近として知られるボロジン下院議長は6日、SNSで「次の議会でCTBTの批准撤回について必ず議論する。CTBTを批准していないアメリカに対する鏡のような対応となるだろう」と投稿し、欧米側へのけん制を一段と強めています。

専門家「軍事侵攻を正当化しようとしている」

今回のバルダイ会議に日本から参加し、プーチン大統領に直接質問もした、ロシアの外交・安全保障政策に詳しい笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員が会議の後、NHKのインタビューに応じました。

畔蒜氏は、プーチン大統領の発言について「ウクライナでの戦争は、今後の世界秩序をめぐる戦いだと再定義することが一番のねらいだった。その世界秩序とは、彼が繰り返し言ってきた、アメリカ主導ではなくすべての国々が参加できる秩序であり、それに向けた象徴的な動きがBRICSだ」と述べ、アメリカと距離を置く国も多いBRICSやグローバル・サウスなどと、新たな秩序を作るための戦いだとして軍事侵攻を正当化しようとしていると指摘しました。

また、核戦力を誇示した一連のやりとりについて「ロシアにとって核の抑止力の信頼性が落ちているという危機感がある。西側が直接的に関与しないようけん制するのが一番の目的だと思う」と述べ、ウクライナ支援を続ける欧米側をけん制するねらいだと指摘しました。

プーチン大統領がCTBTの批准の撤回を示唆したことについては「今後の展開次第では、核実験の再開に向けた地ならしをする余地があるという発言をしたということだ」と述べ、けん制するねらいが込められているとしています。

畔蒜氏は、演説などを行うプーチン大統領の様子について「アメリカで国内政治が混乱し、ヨーロッパではスロバキアで親ロシア派の政権が誕生するなど、プーチン大統領にとってある種の追い風のようなものが吹いている。良くも悪くも自信を持って受け答えをしたという感じがある」と述べました。

一方、専門家などによる日ロの対話の可能性に関してプーチン大統領に質問したことについて「アメリカとロシアは核の問題があるので政府間の関係が悪化しても民間で対話を補うという伝統が根づいている。いま、日ロの政府間の関係は最低レベルだが、隣国であるロシアは核兵器を持っているし、最近は北朝鮮との関係も強化しようとしている。専門家レベルでも対話のチャンネルは持っておくべきだ」と述べました。