インフルエンザ感染広がり診察とワクチン予約相次ぐ 薬不足も

インフルエンザの感染が例年にはないような早い時期に広がりを見せています。
医療の現場では対応に追われていますが、同時に薬局ではせき止め薬などの薬不足が深刻な状況になっています。なぜでしょうか。

インフルエンザの感染状況について、10月1日までの1週間に医療機関を受診した全国の患者数は推計で33万3000人で、前の週より増加しています。

国立感染症研究所などによりますと10月1日までの1週間に全国およそ5000か所の医療機関から報告されたインフルエンザの患者数は、前の週より1万2000人余り多い、4万7346人となりました。

1医療機関あたりの患者数は全国で9.57人で、このデータを基に推計されるこの1週間の全国の患者数はおよそ33万3000人となっています。

地域ごとでは、いずれも1医療機関あたりの患者数で、
▽沖縄県が25.93人と最も多く、次いで、
▽千葉県が19.56人
▽大分県が19.55人
▽山口県が19.39人
▽東京都が16.58人となっていて、
14の都と県で今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性があることを示す「注意報レベル」の10人を超えています。

ワクチン接種の予約 今月分がほぼ埋まった医療機関も

インフルエンザの感染が例年になく早い時期に広がる中、今月から多くの自治体でワクチン接種が始まりましたが、すでに10月分の予約がほぼ埋まり、対応に追われている医療機関もあります。

東京・目黒区の小児科のクリニックでは、発熱などの症状を訴える患者が、9月上旬ごろから1日20人ほどと、去年の同じ時期の2倍ほど訪れていて、インフルエンザや新型コロナ、それにアデノウイルスなどの感染症の診断が相次いでいるということです。

今週からは、インフルエンザのワクチン接種を始めましたが、先週、予約を開始したところすでに10月の枠がほぼ埋まったということです。

また、9月20日から11歳以下を対象に接種を行っている、オミクロン株の派生型に対応した新型コロナワクチンは、想定よりも供給量が少なく、予約枠を制限しながら受け付けているということです。

4歳の娘のインフルエンザワクチンの接種に来た30代の母親は「娘の通う保育園でもインフルエンザがはやっているので、ことしは早めに打たせました」と話していました。

「しあわせ子供クリニック」の二瓶浩一院長は「例年この時期は診察が落ち着いていますが、ことしは患者の診察とワクチン接種で受付時間を超えて対応せざるを得ない状況です。去年とおととしのこの時期にはいなかったインフルエンザの患者もいて、『異様』な状況になっています」と話していました。

せき止め薬などの不足が深刻な状況に

インフルエンザや新型コロナなど感染症の患者が増える中、都内の薬局では薬不足が深刻な状況になっています。

東京・品川区の薬局では、医薬品メーカーの出荷調整の影響などにより、せき止めや解熱鎮痛剤、それにたん切りの薬などが入手しづらくなり、このうちせき止めの薬はことし1月頃から在庫がほぼ無く危機的な状況となっています。

この影響で、患者が持参した処方箋に記載された薬の在庫が足りないこともしばしばで、同じ効能の別の薬への変更のほか薬の処方をやめざるをえない事態も起きています。

同じ効能の別の薬「医師に電話などで確認が必要」

同じ効能の別の薬に変える場合も、逐一、処方した医師に電話などで確認する必要があり、患者を通常の3倍から4倍ほどの時間待たせるケースもあるといい、この日も、薬剤師は処方された薬が足りないことを確認すると患者への説明や医師への連絡を慌ただしく行っていました。

こうした事態を少しでも避けようと、この薬局では薬の在庫状況を一覧表にして頻繁に処方箋を受け付ける近くの病院に共有し、在庫がある薬のなかから処方してもらうよう協力を呼びかけて対応しています。

ポッポ堂薬局五反田店 管理薬剤師の荒井伸幸さんは「かぜ薬のひっ迫はこれまでで一番厳しく、せき止めはどの薬も入ってこない状況。医療機関では症状がない患者に予備薬として処方することはせず、本当に必要な方にだけ処方してほしい」と話していました。

地域の連携で対応を検討

深刻な薬不足を地域の連携で乗り切ろうと、東京・品川区では今週、薬局の薬剤師とクリニックの医師が集まり、対応を話し合いました。

まず区の薬剤師会が、9月下旬に区内82の薬局に対して行った緊急アンケートの結果、立地や規模に関わらずすべての薬局で薬が不足し、処方された薬がなく代わりの薬に変えてもらうよう医師に連絡する手間が生じ、体調の悪い患者に別の薬局に移ってもらう事態も起きていると説明しました。

その上で医師に対し、
▽在庫がない場合にどの薬に変えるか事前に薬局と医師の間で話し合っておくことや
▽処方する日数を最低限に抑えること
▽軽症の場合には解熱剤などを処方しないことも検討するよう求めました。

医師からは、「外来もパンク状態で、薬の問い合わせは互いの負担になるので、事前の情報共有は有効だ」とか「患者に使っていない薬が残っていないか確認してから処方することも大事だ」といった意見が出され、連携していくことを確認していました。

薬不足をめぐっては、ジェネリック医薬品の製造工程で不正発覚が相次いだことなどを背景に供給不足が続いていたところに、感染症の広がりで深刻化していて、厚生労働省は全国の自治体や医療団体に、限られた供給量の中で有効に活用するよう求める通知を出しました。

品川区薬剤師会の加藤肇会長は、「医師と薬剤師が密な意思疎通を取れるようにして、今までにない事態を乗り切っていきたい」と話していました。

専門家「薬の安定供給 国が主導を」

感染症に詳しい東邦大学の舘田一博教授に、現在の状況について聞きました。

【インフルエンザについて】

全国的にゆっくりではあるが増加傾向が続き、新型コロナ前はあり得なかったような季節外れの流行となっている。去年までの3年間は、新型コロナに対する感染対策を徹底してきた中で、インフルエンザの流行も抑えられていたが、感染者が少なかったことで免疫を持つ人が少なくなったことや、このところ感染対策の緩和が進んだこと、海外から多くの人が入国するようになったことなどで子どもたちの間で感染が広がっている。今のところ爆発的な規模の流行は起きていないが、このまま感染者が多い状況で冬の時期に入ると、急激に感染者数が増加するおそれもあり、注意が必要だ

【新型コロナについて】

感染者の数は引き続き全国的な減少傾向が続いている。ただ、ウイルスはまだ市中に存在している状況だ。減少傾向がいつまで続くのか、11月以降、冬にさしかかる時期に、増加に転じることがないか、注意して見る必要がある

【今後の注意点】

今月に入り、インフルエンザのワクチン接種が始まり、新型コロナも新しいタイプのワクチンが接種できるようになった。感染に不安がある人は早めに接種して欲しい。また、かぜのような症状があれば、インフルエンザやコロナに感染したかもしれないと考え、早めに医療機関を受診し、薬を処方してもらうことが重要だ

【咳止めなどの薬が不足していることについて】

新型コロナやインフルエンザなどの流行が続き、咳止めや解熱剤など、いわゆるかぜ薬が使われるケースが増えている。冬になると患者数がさらに増えると見込まれる中、このままだと薬の不足がより深刻になるおそれがある。患者に薬の服用を我慢してもらうわけにはいかないので、安定供給を維持できる体制を国が主導して整えていく必要がある