最近、手紙出しましたか?どうするの 減り続ける郵便物

最近、手紙出しましたか?どうするの 減り続ける郵便物
年賀状、離れて暮らす家族とのやりとり、ビジネスのお礼……。さまざまなシーンで使われる手紙やはがき。しかし、国内で差し出される郵便物数は減少の一途をたどっている。全国の郵便ポストのうち、じつに4分の1が、1日平均の投かん数が1枚程度だという。

毎日ポストを回り、全国どこであっても原則、数日以内に確実に届ける。そんなユニバーサルサービスとしての郵便事業が揺らいでいる。
(経済部記者 谷川浩太朗)

日本郵便が明かした衝撃のデータ

ことし7月、日本郵便が、総務省の有識者会議で示したデータに衝撃が走った。

全国に17万5000余りある郵便ポストの投かん状況を聞き取ったところ、毎月30通以下、つまり1日平均で1枚以下のポストが4万3000余り。割合にすると25.1%、実に全体の4分の1を占めたのだ。
詳しく見ると、全体の3.9%にあたる6700余りは「0~1通」。さらに試験的に、中山間地域にある14本の郵便ポストにセンサーを設置。調べて見ると、このうちの1か所は、1か月間に1通の投かんもなかったという。

全国で見ても2001年度をピークに、この20年で「郵便物」の数は半減している。

それでも毎日見に行くのは……

現場でもこうした状況を実感している。

ある地方の中山間地域の担当者は、毎日10か所以上のポストを回るが、週に3日は「投かん0」のポストに出会うという。
しかし、手紙がなくても、どんなに遠くても、毎日必ずバイクや軽自動車を走らせ、ポストを見に行かなければならない。その理由は、郵便事業が法律で定める「ユニバーサルサービス」だからだ。

ヤマト運輸や佐川急便という競合相手がいる「荷物」を運ぶ物流事業と異なり、手紙やはがきといった「郵便物」を全国に届ける郵便事業は、他社が参入していない。

日本郵便は民間企業だが、「郵便物」に関しては、どの地域の利用者に対しても、同一料金・同一サービスを提供する義務があるのだ。
離島などを除き、原則、ポストに投かんしてから“4日以内”に届けなければならない。

このため、毎日欠かさず、全国17万5000の郵便ポストと2万3000の郵便局を担当者が回っている。荷台にほとんど何も積まずに、軽自動車を走らせている地域も少なくないのが現状だ。

“スキマ”でいいから稼ぐ

せっかく車を走らせているなら、なんとか収益源として活用できないか。

新たな取り組みが東北で始まっている。山形県北西部、鶴岡市にある鶴岡郵便局。
人口減少が進み、郵便物も減っている。ポストや郵便局を毎日回る軽自動車の荷台には、余裕も生まれている。

そこで考えたのが、需要が見込める「荷物」を運ぶこと。ことし9月から、野菜や果物の生産者を対象にした新たな取り組みを始めた。

郵便局と郵便局の間を走る軽自動車で、収穫物などを配送することにしたのだ。
およそ30リットルのケース(縦29センチ、横47センチ、高さ22.5センチ)に収まれば、税込みで290円。「ゆうパック」の4分の1程度という割安価格だ。

送り主はネットで空き状況を確認して予約し、最寄りの郵便局まで荷物を持ち込む。受け取る側は、配送先となる郵便局に取りにいく仕組みだ。
市内の農園で梨やリンゴを育て、10キロほど離れた市中心部のレストランやパン屋など、おもに個人商店に納品している生産者は、早速、このサービスを利用している。

「1軒1軒に配達するだけで1日が終わってしまうこともあったので、とてもありがたい。いろんな地域で広まってもいいと思う」と話す。
受け取り先のパン屋からも「送料が安いので少量でも注文しやすい。送料が高くなるとその分商品に上乗せせざるをえないので、ありがたいサービスです」と好評だ。

日本郵便の担当者も手応えを感じている。
日本郵便 難波忠夫 山形県西部地区連絡会統括局長
「どんな過疎地であろうと、1通でも運ばなければならない。そうすると、必ず空きスペースはできます。それを少しでも活用して収益につなげるというのがこのサービスの根本です。郵便事業を維持していくためにも、稼げるところではきちんと稼いでいくということで、新しい仕事にどんどんチャレンジしていきたい」

郵便事業の経営状況は

こうした取り組みで、活路を見いだすことはできるのだろうか。最近の国内の郵便事業の収支を見てみる。
新型コロナ対策のマスクの全戸配布や、国政選挙に伴う投票所入場券の発送など、一時的な要因もあって利益が生じているため、この数字ではそこまで深刻さは見えないかもしれない。

しかし、関係者によると、そうした特殊要因を除けば、2021年度までの数年間の利益は100億円前後が妥当なのではないかという。そして、昨年度は246億円の赤字に転じた。郵便物の減少傾向に加え、一時金を支払ったことなどが要因だ。

今年度も、ベースアップの実施や燃料費の高騰による影響が見込まれている。山形県鶴岡市での取り組みは、5年後をめどに全国160の地域に広げる計画だ。
車を運転できない高齢者など「買い物弱者」向けに、市街地のスーパーの商品を利用者の家の近くの郵便局まで荷物を届けることを想定している。

ただ、空きスペースを活用し「荷物」を運ぶことによる売り上げは、「郵便」の減少をカバーできるほどではないことは当事者も認めている。抜本的な解消策は見えていないのが実情だ。

持ち株会社の日本郵政の増田寛也社長は……
「収益という分野ではまだ微々たるものだ。大きくそれを期待できる分野にはなりえないと考えている。それでも地域貢献というのは大事だ。郵便の収益を改善していくと同時に、全体の資源を物流のほうに移し替える。激しい競争だが、荷物をより多く運んで物流の収益を上げる」

郵便の将来は

郵便を取り巻く環境は今後、一層厳しさが増すと予想される。メールやSNSが普及し、ドル箱だった年賀状を含め、手紙やはがきの回復は難しい。企業間での領収書などの書類の発送も、デジタル化が進むなか、先細りは否めない。
郵便事業を回復させる手だてはないのか、ほかの事業でカバーするしかないのか。そして、全国一律のユニバーサルサービスの行方とは。

手紙を送るとき、受け取ったときの気持ちを思い起こしながら、事業者、利用者にとって、どんな郵便の将来が望ましいのかを考えていきたい。
経済部記者
谷川浩太朗
2013年入局
沖縄局、大阪局を経て現所属
総務省や情報通信業界を担当