辺野古工事 国が県の代わりに承認する「代執行」に向け提訴

沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先となっている名護市辺野古での地盤改良工事をめぐり、国は、県の代わりに工事を承認する「代執行」に向けて、5日、福岡高等裁判所那覇支部に訴えを起こしました。

アメリカ軍普天間基地の移設先となっている名護市辺野古沖では、埋め立て予定地で軟弱地盤が見つかり、国が地盤の改良工事を行うため設計の変更を申請しましたが、県が「不承認」としたため、工事が進んでいません。

この工事をめぐる裁判で、先月、県の敗訴が最高裁判所で確定したことから、国は県に対し、4日までに申請を承認するよう「指示」を出していました。

これに対し沖縄県の玉城知事は4日、「協議を重ねた結果、判断に至ることができなかった」などと述べ、期限だった4日までに承認するのは困難だと国に回答しました。

このため国は5日、県に承認を命じるよう求めて福岡高等裁判所那覇支部に訴えを起こしました。

裁判所が訴えを認め、その後も県が承認しない場合には、国が県の代わりに承認する「代執行」を行うことができます。

総務省によりますと、地方自治法に基づく代執行に向けて国が訴訟を起こすのは2015年以来で、このときは辺野古沖の埋め立ての承認を取り消した沖縄県に対し、取り消しの撤回を求めて国が訴えを起こしましたが、工事を中止して双方で協議するなどとする和解が成立し、代執行は行われませんでした。

官房長官「辺野古移設が唯一の解決策 着実に工事を進める」

松野官房長官は午前の記者会見で「今後の対応は国土交通大臣が判断する。政府としては、辺野古移設が唯一の解決策であるという方針に基づき着実に工事を進めることが、普天間飛行場の一日も早い全面返還の実現と危険性除去につながると考えている」と述べました。

また「政府として沖縄県との対話に応じる考えはあるか」と問われたのに対し「現時点で具体的な予定はないものの、さまざまな機会を通じて地元への丁寧な説明を行いながら、基地負担の軽減を図るため全力で取り組んでいく」と述べました。

斉藤国交相「期限までに承認行わず遺憾」

沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先となっている名護市辺野古での地盤改良工事をめぐり、国が県の代わりに承認する「代執行」に向けた訴えを起こしたことについて、斉藤国土交通大臣は「沖縄県知事が期限までに承認を行わなかったことは遺憾だ。知事は最高裁判決に沿って法律に基づいた対応をすべきことは明らかで、速やかに承認すべきと考えていることに変わりはない。このため本日付けで福岡高裁那覇支部に地方自治法に基づき所管大臣として代執行訴訟を提起した。本件は係争中の事案となったのでこれ以上のコメントは差し控えさせていただく」と述べました。

沖縄県 玉城知事「訴状の内容を確認し検討」

沖縄県の玉城知事は5日午後、記者団に対し「訴状の内容を確認し、どのような対応がとれるか検討する」と述べました。

そして、午後1時すぎ、改めて記者団の取材に応じ、「訴状の内容を確認したうえで検討する」と述べました。

また記者団が「今後、裁判の中でどのような主張をしていくのか」と質問したのに対し、玉城知事は「その内容についても、訴状が届いたらどんな主張ができるか検討したい」と述べるにとどめました。

宜野湾市長「知事には明確な判断のうえで説明責任を」

普天間基地がある宜野湾市の松川正則市長は「知事は沖縄県のトップリーダーとして行政をあずかっており、県の敗訴が確定することになった最高裁判所の判決を受け入れるべきで、知事の判断が先送りされたことで、危険性がそのまま放置されることになり、大変残念だ」と述べました。

そのうえで松川市長は「承認にしろ承認しないにしろ、明確に判断したうえで、知事には説明責任をしっかり果たしてほしく、最終的な結論を注視していきたい」と述べました。

名護市長「今後の裁判の推移を注視」

名護市の渡具知武豊市長は5日、市役所で記者団に対し「国による法令に基づいた手続きだと承知している。今後の裁判の推移を注視していく」と述べました。

そのうえで「今後、想定される事項がいろいろある。行政の長として辺野古移設が現実に進んでいくような状況がより明確になっていけば、地元の方々の意見を確認していきながら、今後の対応についても検討していきたい」と話していました。

代執行をめぐる裁判 今後の動きは

地方自治法では代執行をめぐる裁判について、高等裁判所は訴えから15日以内に口頭弁論の期日を設けることになっています。

高等裁判所が国の訴えを認めた場合、期限を設けて承認を申請するよう県に命じる判決を出し、その後も県が承認しないときには国が知事の代わりに承認する代執行を行うことができます。

県は判決から1週間を期限に最高裁に上告できますが、それによって代執行自体を止める効力は無く、最高裁で県側が勝訴するまで代執行を止めることはできません。

地方自治法では代執行に向けた一連の手続きを進める条件として、県が
▽国の代わりに行う法定受託事務を怠るなどした場合や
▽ほかの方法での是正が困難であること
▽放置すると公益を害することが明らかであることの3つを示しています。

国側は去年4月に大臣が県に承認するよう行った「是正の指示」のあとも工事を承認していないことは対応を怠っているとしたうえで、ほかの方法で是正を図ることが困難だとしています。

さらに、辺野古沖の埋め立て工事については「普天間飛行場の危険性の除去が喫緊の課題であることから、日米間の合意に基づき行われており、国の安全保障にも関わるもので申請を承認しないで放置することは公益を著しく害することは明らかだ」として代執行に向けた手続きを進めています。

識者「地方自治の非常に重大な局面」

国が「代執行」に向けた訴えを起こしたことについて、総務省の元官僚で地方自治に詳しい片木淳 弁護士は「地方自治体が本来持っている権限を国が取り上げて決めるための手続きで、地方自治にとって非常に重大な局面に来ている」と話しています。

代執行については、「その手段以外に本当にやりようがないのか、そして代執行をしなければ著しく公益を害することが明らかであるかといった非常に厳しい要件が規定されている」と説明し、国に対し、「厳格な手続きになっていることを踏まえ、裁判では沖縄県との主張の違いについて国民に分かりやすく丁寧に説明する必要がある」と指摘しました。

一方、裁判所に対しては、「軟弱地盤での工事が本当にできるのかなど、中身の議論にあまり入らずに裁判を終えてしまうことが一番懸念される。沖縄県の玉城知事はもともと、さまざまな技術的な見地から工事を『不承認』としているので、裁判所は、工事に関わる中身の問題を詰めて審理してほしい」と指摘しました。