米下院議長 初の解任 ウクライナ支援など予算案協議 停滞も

アメリカ政府の新年度予算案をめぐる共和党内の対立で、議会下院のマッカーシー議長が史上初めて解任されました。ウクライナ支援などを含む予算案の協議が停滞することにつながりかねない事態で、後任の議長を速やかに選出できるかが焦点です。

アメリカ議会下院では多数派を占める共和党内で一部の保守強硬派の議員がマッカーシー下院議長と政府の新年度予算案をめぐって対立し、議長の解任動議を提出しました。

3日、採決が行われた結果、共和党議員8人に加えて出席した民主党議員、208人全員が賛成して解任動議は可決し、マッカーシー氏は史上初めて議長を解任されました。

このあとマッカーシー氏は記者会見し「誇りと達成感、そして前向きな気持ちを持って議長職を退く」と述べたうえで議長に再び立候補する考えはないことを明らかにしました。

アメリカメディアは共和党が来週11日に後任の議長を選出するための投票を行うことを目指していると伝えています。

共和党内では現時点で有力な議長候補が絞られていないうえに、ことし1月に下院議長を選出した際には保守強硬派の反対で15回の投票が繰り返される異例の事態となりました。

議会では先月末に成立した「つなぎ予算」が切れる来月半ばまでに新年度の予算案をまとめる必要があります。

議長選出が混乱すればウクライナ支援などを含む予算案の協議が停滞することにつながりかねず、後任の議長を速やかに選出できるかが焦点です。

マッカーシー氏「無秩序だ」

下院議長を解任された共和党のマッカーシー氏は現地時間の3日、日本時間の4日午前、記者会見し「共和党の4%の議員が民主党議員とともに、誰が共和党の下院議長になるのかを指図できる。無秩序だ」と述べ、不満をあらわにしました。

そのうえで「もう立候補はしない」と述べ、ほかの候補の支援に回る考えを示しました。

下院議長解任 背景は

マッカーシー氏の解任動議をめぐる議会下院の採決は賛成216、反対210、欠席が7でした。

解任動議を提出したゲーツ議員をはじめ、解任に賛成した共和党の議員は8人で、多くが、保守強硬派のグループ「フリーダム・コーカス=自由議員連盟」に所属しています。

このグループは党内でも特に強硬な保守政策を訴え、最近では多額の予算を投じるウクライナへの支援の打ち切りを主張する議員が目立ちます。

解任の動議を提出した理由について、マッカーシー氏が
▽下院議長に選出された際に約束した大幅な歳出削減などに向けて動かず、
▽当面の予算執行を続けるための「つなぎ予算」を成立させるために民主党に譲歩したとする主張をあげています。

ただ、大多数の共和党議員は、マッカーシー氏が必要な法案を成立させ、約束を果たしたなどとして解任に賛成しませんでした。

一方、下院で212議席を占める与党・民主党は欠席を除き、208人全員が解任に賛成票を投じました。

政府の新年度予算案がまとまらない中、予算成立が急がれることなどを理由に、当初は、民主党の一部がマッカーシー氏を支持し、解任動議に反対するのではないかという臆測も出ていました。

解任に賛成した理由として民主党は、マッカーシー氏がバイデン大統領に対する弾劾調査に踏み出したことなど、不信感を募らせていたことを挙げました。

米主導 ウクライナへの軍事支援に影響 懸念も

下院議長が解任されたことで、アメリカが主導してきたウクライナへの軍事支援に影響が出るのではないかとの懸念も出ています。

議会は先月30日、当面の予算執行を続けるための「つなぎ予算」を超党派でまとめましたが、一部の保守強硬派が反対していたウクライナへの支援については、盛り込まれませんでした。

次の議長の選出に時間がかかれば、支援をめぐる予算の審議に遅れが出ることも予想されます。

アメリカによるウクライナへの軍事支援は、企業から武器を購入して送る方法と、アメリカ軍の在庫から武器を送る方法があります。

このうち、企業から武器を購入して送る方法については「つなぎ予算」にウクライナ支援が含まれず、予算が枯渇したこと受けてバイデン政権は今月2日、支援を停止したことを明らかにしています。

一方、アメリカ軍の在庫から武器を送る支援についてはアメリカ国防総省のシン副報道官は3日、記者会見で、残された予算は、54億ドル、日本円にしておよそ8000億円だと明らかにしました。

また、ウクライナへ送った分の在庫を補充するための予算の残りは16億ドルだと説明しました。

ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は記者会見で、現在残っている予算でウクライナ支援をどれくらい続けることができるのかと問われ「これまでの支援のペースを考えれば、2か月余りだろう」と述べ、議会に対し、対応を急ぐよう求めました。