“EV 走らせながら充電” 初の公道上での実証実験 千葉 柏

「脱炭素社会」の実現に向けてEV=電気自動車の普及が課題となる中、車を走らせながら充電できる最新の技術で、全国で初めてとなる公道上での実証実験が柏市で始まることになり、3日、記念の式典が開かれました。

この技術は、東京大学と大手自動車部品メーカー、大手不動産会社などが共同で研究しているもので、柏市で開かれた式典では、実験で公道上を走る2台のEVがお披露目されました。

車にはいずれも、車体の下に導線のコイルが取り付けられ、道路の下に埋め込まれた別のコイルから「電磁誘導」の仕組みで電気を受け、走りながら充電することができます。

これまでは大学の構内で実験を行ってきましたが、市の協力を得て、つくばエクスプレス・柏の葉キャンパス駅前の市道の交差点に電気を送るコイルを埋め込み、全国で初めてとなる公道上での実証実験が実現することになりました。

4日以降、本格的に走行実験を行い、再来年の3月までかけて充電がどの程度できるかなどを確認することにしています。

式典で柏市の太田和美市長は「今回の技術は将来的にはバッテリーの軽量化にもつながるということで、今後の実用化に期待したい」とあいさつしました。

研究チームの東京大学の藤本博志教授は「実用化に向けてこれからの実験が大切になる。夢のような技術に聞こえるかもしれないが、企業などと協力して技術を育て上げたい」と述べました。

「走行中充電」

「走行中充電」は、導線のコイルを通る磁力が変化すると電流が発生する「電磁誘導」の仕組みを活用しています。

地中に埋め込まれたコイルに電流を流すと、周辺には磁力が発生します。

この上にEVに取り付けられた別のコイルが重なると、磁力の影響でこのコイルに電流が発生します。

導線が直接、つながっていなくても電気を送ることができ、この仕組みはスマートフォンのワイヤレス充電でも活用されています。

東京大学の藤本博志教授は、10年前から民間企業と共同で「走行中充電」の研究に取り組み、キャンパスの構内で実験を続けてきました。

現在の装置では、送電側と受電側のコイルが1秒間重なると、車がおよそ100メートル走行できるだけの充電ができ、10秒間重なるとおよそ1キロ分の充電が可能だということです。

課題は、コイルを道路に埋め込むのにかかるコストで、藤本教授は、毎日決まったルートを走行するバスからの導入が現実的だとして、今回の実験のあと、キャンパス周辺の路線で実験を行いたいとしています。

藤本教授は、2030年ごろにこの技術の実用化を目指すとしていて「『走行中充電』が広がれば、充電設備がなくてもEVを購入しやすくなる。さらに車のバッテリーは小型で済むようになり、車体の軽量化や小型化、車を製造する際に排出される二酸化炭素の削減にもつながる。将来的に多くの人がサービスを享受できるようにしたい」としています。

「走行中充電」将来の実用化に期待の声

「走行中充電」の将来の実用化には、EVを導入している事業者から期待する声が出ています。

千葉県内でバスを運行している「平和交通」では、おととし、バッテリーとモーターで走る大型バス2台と小型バス1台を導入し、千葉市内の路線バスで運行しています。

この会社では電気バスを導入したことで、電気代と比べて高騰している燃料の軽油を使わなくて済むことや、車両のエンジンオイルの交換などが不要になるため、運行にかかるコストは大型バスは3割ほど、小型バスだと6割ほど削減できたということです。

一方で課題は充電で、車庫に3台分の充電スタンドを設けて毎日の運行が終わったあと行っていますが、バッテリーの容量が大きいためフル充電には6時間以上かかります。

会社では今後、電気バスの台数を増やしたい考えですが、現状では台数の分だけスタンドも増設する必要があり、ネックになっているということです。

「走行中充電」が実用化されれば充電環境が改善するほか、走行距離が長い成田空港などを結ぶ路線でも、導入しやすくなるとして期待しています。

「平和交通」の藤原浩隆総務課長は「電気バス導入によるコスト削減の効果は期待以上だった。『走行中充電』ができれば充電の頻度が減ったり、電池切れの心配がなくなったりするので、メリットは大きい」と話していました。

専門家「大きな一歩」

電気自動車に詳しい専門家は、「走行中充電」の開発は、海外が先行して日本は遅れているものの、今回の公道上での実験は「大きな一歩だ」としています。

三菱総合研究所モビリティ戦略グループの高橋香織主任研究員は「公道上での実験は大学や企業がやりたくても、道路管理者や行政との連携が必要だが、理解してもらって実証ができるということで、非常に意義があり、今回得られるデータはとても貴重だ」と述べました。

一方で、EVの普及が広がる欧米を中心に「走行中充電」の開発が加速していて、イスラエルの企業は、長時間の走行や高速走行といったさまざまな条件で実証を進めるなど、実用化に向けた競争は世界全体で激しくなっていると分析しています。

国内では、柏市のほか、再来年の大阪・関西万博でも会場でバスの充電の実証実験が行われる予定で、高橋さんは「今回の実証実験は日本が技術開発を進める上で大きな一歩になる。装置の規格や周波数などの国際標準化に向けた議論が始まっていて、今後は日本だけがガラパゴス化しないようなものづくりも必要だ」と指摘しました。