日銀短観 大企業製造業の景気判断 2期連続で改善 中小企業は…

日銀は短観=企業短期経済観測調査を発表し、大企業の製造業の景気判断を示す指数は、プラス9ポイントと前回を4ポイント上回り2期連続で改善しました。また、大企業の非製造業の指数は1991年以来、およそ32年ぶりの高い水準となりました。

大企業 非製造業は32年ぶりの高い水準

日銀の短観は、国内の企業9000社あまりに3か月ごとに景気の現状などを尋ねる調査で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断します。

今回の調査はことし8月下旬から9月29日にかけて行われ、大企業の製造業の指数はプラス9ポイントと、前回・6月の調査を4ポイント上回り、2期連続で改善しました。

半導体の供給不足が徐々に解消されて「自動車」の生産が回復傾向にあることや、価格転嫁が進み、一部の企業の収益が改善していることが主な要因です。

また、大企業の非製造業の指数は、プラス27ポイントと前回を4ポイント上回り、6期連続の改善でした。

1991年11月以来、およそ32年ぶりの高い水準です。

新型コロナの影響の緩和や外国人観光客の増加によって、「宿泊・飲食サービス」や「小売」などが改善しています。

一方、中小企業の製造業の指数はマイナス5ポイントと、前回から変わらず、横ばいでした。

3か月後の見通しについては、大企業の製造業は1ポイントの改善、大企業の非製造業は逆に6ポイントの悪化が見込まれています。

中小企業 米国輸出好調で賃上げの会社も

今回の短観は、日本経済が緩やかな回復軌道にあることを示す結果となりましたが、こうした回復の流れが中小企業にどこまで波及するかが焦点です。

東京・大田区で金属などの微細加工を手がける従業員6人の会社「インパクト」。

髪の毛より細い金属を加工できる技術を強みとして半導体の検査装置や医療機器の部品を製造し、大手企業との取り引きを拡大してきました。

アメリカにも直接、部品を輸出しています。

円安を追い風にアメリカ向けの輸出が伸びたこともあって、ことし1月から8月までの売上げは、前の年の同じ時期と比べておよそ30%増えたということです。

この会社では、業績が改善傾向にあることから去年9月とことし4月に従業員の月給をあわせて10%、引き上げたということです。

平船 淳社長は、「最近、アメリカの東海岸の会社からの注文が確定した。部品を製造してほしいという打診が次々にきているのでアメリカ経済は元気いっぱいだと感じている。会社はしっかり稼いで従業員に還元するのが良いと思う」と話しています。

円安・原油高… 中小企業にも賃上げ広げられるかが鍵

(経済部 榎嶋愛理記者)

今回の短観は、日本経済が緩やかな回復軌道にあることを示す結果となりました。

中でも大企業の非製造業の指数は、実に32年ぶりの高い水準となりました。

経済活動の正常化が進み外国人旅行者が増えたことで景気判断が着実に改善しています。

ただ、状況は楽観できるものではありません。

円安や原油価格の上昇によって物価がさらに押し上げられるおそれもあります。

また、中国経済の減速への警戒感も強まっています。

日本経済の持続的な成長に向けては、こうしたリスクへの対応に加え、賃金上昇の流れを止めず、中小企業にも広げられるかが鍵となります。

農業用ハウス栽培 燃料価格上昇でコストカット追い付かず

円安などを要因とした燃料価格の上昇で農作物の栽培にかかる費用が大幅に増えているとして、農業法人からは経営の維持が難しくなっているという声が聞かれます。

茨城県は全国2位のパプリカの産地で、水戸市にある林俊秀さんの農業法人「Tedy」では、3ヘクタールあまりの農業用ハウスで、パプリカを年間およそ500トン生産しています。

農業法人によりますと、ハウスの温度管理などに使用する重油の価格は、円安や原油価格の上昇で去年の同じ時期より20%ほど値上がりしているということです。

パプリカの収穫は秋から本格化しますが、現在の重油価格の水準が続くと、農作物の栽培にかかる費用のうち燃料費の割合は、来年8月までの1年間でみると50%を超える見込みだとしていて、経営の維持が難しくなっているといいます。

この法人では燃料費のコストを抑える工夫を続けていて、去年の夏には、重油の大型タンクを整備して備蓄できる量を増やすことで配送の頻度を減らし、輸送費を削減しました。

また、肥料も一度に必要な量をまとめ買いすることで、業者からできるだけ安く購入するようにしています。

農業分野でも脱炭素の機運が高まる中、農業法人では、燃料費の上昇などを受けて、ハウス栽培という方法や収穫する作物の変更など経営を根本から見直すことも必要ではないかと考えています。

代表の林俊秀さんは、「重油価格の値上がりは影響が大きくできるコストカットはやっているが全く追いつかない。今の創意工夫ですまなくなったら根っこから経営を変えるようなことをやらないといけない」と話していました。

人手不足も課題 “二刀流”の人材育成で対応

燃料費の高騰と人手不足の課題にどう対応するのか。
中小企業の現場で模索が続いています。

福岡県柳川市に本社を置く運送会社の「柳川合同」は、1954年の創業から69年にわたって、企業向けに家具や家電などの配送サービスを行ってきました。

大小合わせておよそ250台のトラックを保有していますが、燃料の軽油の価格高騰が経営の重荷になっています。

ことし8月に支払った軽油の費用は合わせて5700万円余りで、去年の同じ月と比べておよそ15%、コロナ禍前の2019年8月と比べるとおよそ30%上がったといいます。

コストの上昇分を転嫁するため、400余りの取引先と地道に交渉を重ね、なんとか運送料を引き上げてもらいましたが、今年度の業績はかろうじて黒字になる程度だということです。

荒巻哲也社長(56)は、「燃料費の高騰は非常に痛手になっています。経営上、なかなか利益が出にくい状況です」と話していました。

一方、人手不足も深刻です。

トラックドライバーへの時間外労働の規制が強化される、いわゆる「2024年問題」が差し迫る中、この会社が継続して取り組んできたのが“二刀流”の人材の育成です。

例えば、ふだんオフィスでドライバーに行き先などを指示する「配車」担当の福山敬悟課長(32)。

中型免許を取得し、3年前からドライバーが足りない日はみずからトラックを運転して配送業務を担います。

免許の取得費用のおよそ20万円は、全額、会社が負担しました。

会社では、複数の仕事をこなせる人材をさらに増やすことで、人手不足を乗り越えようとしています。

福山課長は、「フォークリフトを操作する免許や、トラックの運行管理を行う資格なども持っています。今は“九刀流”くらいじゃないかと思います」と話していました。

社員の待遇改善に向けて、ことしの4月に平均7%のベースアップに踏み切ったこの会社。

事業を取り巻く環境は厳しく、持続的な賃上げは簡単ではありませんが、社員の生活を支えるため、ぎりぎりまで知恵を絞りたいと言います。

荒巻社長は、「賃上げは正直、経営的には苦しいです。ただ、やっぱりやらなければいけないことだと思います。企業の使命だと思うので、常に取り組んでいきたいです」と話していました。