保育園の登園準備 サポートします

保育園の登園準備 サポートします
通勤途中に子どもを保育園へ送っていくという方、多いと思います。自分と子どもの準備をして、慌ただしく家を出発。たくさんの荷物を持って、小さな子どもを保育園に連れて行くのも一苦労。そんな親たちを少しでもサポートしようという動きが広がっています。
(経済部記者 大江麻衣子)

おむつの持参が不要に

取材に訪れたのは、品川区内の認可保育園です。
この保育園ではことし6月から新しいサービスを導入しました。

おむつのサブスクリプション=定額利用サービスです。

保護者とサービスを提供する会社で直接契約すると、月額約2500円で必要な分だけ「おむつ」と「おしりふき」が使えるのです。
保育園に持っていくおむつには、保護者が直接名前を記入して持参するのが一般的です。

サービスを利用すれば、登園の際、かさばるおむつを持って行く必要がありません。もちろん、おむつに名前を記入する手間も省けます。

保護者からも好評で、園によると現在、およそ半数の園児がこのサービスを利用しているということです。
2歳児クラスの保護者
「朝の登園準備にかかる5分は貴重です」
2歳児クラスの保護者
「おむつはパックでたくさん買うと重いですが、おむつの買い物が減り楽になりました」
この保育園にサービスを提供している会社によると、サービスを導入した保育園は、この4年で3600余りにまで拡大しました。特に都市部では、バスや電車などの公共交通機関を使って登園することが多いため、登園時の荷物を減らしたいという保護者のニーズが高いといいます。
「育児と仕事の両立で時間に追われる保護者が子どもとゆっくり接する時間を少しでも多く作れるようにしたいと思い、荷物のひとつであるおむつの準備をサポートするビジネスを始めました。普及しやすくするため、月の登園日数などにかかわらず値段一律となる定額制のサービスとしました」

手ぶらで登園も?

一方、保育園に持って行く荷物そのものをなくした、という園もあります。
保育園に持って行く荷物と言えば、紙おむつや着替え、エプロン、布団などがあげられますが、千葉市などで11の認可保育園を運営する会社では、去年からすべての園で、これらの提供を始めました。
保護者と保育園のやりとりは、携帯のアプリを通じて行っているので、もともと連絡帳はありません。このため保護者は、水遊びの道具など特別な荷物を持ってくる日以外は、手ぶらでOKなのです。

子どもたちが園で使う洋服や布団などはすべてレンタルです。
エプロンは使い捨てのものを使っています。

子どもたちは登園すると、まず園で過ごす服に着替えます。遊びや食事で汚れても、何度でも取り替えることができます。もちろん、親は汚れた服や布団を持ち帰る必要はありません。

荷物管理に苦労

実はこれ、保育士にもメリットが大きいのだそうです。

子どもたちが毎日持ってくる荷物の管理は、保育士にとっても大きな負担を伴う作業です。
どの保育園でも、荷物の管理は業務の基本だといいますが、突然泣いたり走り回ったりする子どもの世話をしながら対応するのは、簡単ではありません。

この園では以前、朝の登園時には園児の受け入れと荷物の預かりを担当する保育士をそれぞれ配置。さらに、朝持ち込まれた荷物の写真を撮ったり、持ち物リストにチェックしたりして、お昼や夕方に、荷物がすべてそろっているか確認していました。

しかし新しい仕組みの導入で、こうした負担が大幅に減ったそうです。

導入費用は?

保護者にも保育士にもメリットがあるというこの仕組み。いったい費用は、どれくらいかかるのでしょうか?

運営会社に尋ねると、経営する11の園全体で年間にかかる費用は数千万円。園児1人あたり月額数千円のコストがかかっている計算です。

ところが、どの園でも、保護者から追加の料金はとっていないといいます。原則、園児全員に利用してもらうためです。

それではいったいどうやって費用を捻出したのでしょうか。
その方法の1つが、保育士の採用のあり方を見直したことです。

会社によると、11の園で採用にかかる費用は、多い時で3000万円以上に上ることもありました。

地方での採用説明会に参加する費用。産休・育休での欠員や想定外の離職があった際にも費用がかかります。欠員を埋めるため、1人の保育士の確保に対し人材派遣会社に100万円ほどの「紹介料」を支払うこともありました。このため、4年ほど前から採用方法を抜本的に見直しました。

動画投稿アプリを積極的に活用。保育園の名前や雰囲気をじかに知ってもらおうと、ライブ配信を行っています。
待遇など尋ねにくい質問にも答えます。

こうした結果、必要な保育士を自社で確保できるようになったといいます。また、近隣で複数の園を経営している運営体制も最大限生かしています。
例えば、洋服の洗濯と配達では、大手クリーニング会社と11の園の分をまとめて契約。園を順にトラックで回ってもらい、効率的に運用しているということです。

保育士の離職も減少

新たな仕組みの導入で、保育士が本来業務である子どもとの関わりに集中できる環境となったというこの保育園。

保育士の離職が減り、職場への定着が進むなど、よい循環が生まれ始めているといいます。
「子どもにとって何が良いか、そして、保育士、保護者にとっていま何が必要か考え、保育園もアップデートしていかないといけないと思います。荷物がなくなることで生まれる心のゆとりで、保育士と子どもの時間や親子の時間の確保につなげて絆を深めてもらいたいです」

“子育てしやすい社会”となるか

時間に追われる保護者にとっては、保育園の荷物の準備が少しでも減れば、“あと5分”の余裕を生むことにつながります。また、おむつを切らしていないか、持っていく着替えは足りるかなど、心理的な負担も減ります。

いっぽう、保育をめぐっては全国で保育士不足が指摘されていて、保育士の職場環境の改善は喫緊の課題となっています。取材を通じてわかったのは、預かる子どもたちの荷物が1つ減るだけでも、保育士の負担軽減につながるということでした。

新たなサービスなどの導入で選択肢が広がり、親にとっても保育士にとっても子育てしやすい社会となるのか、注目したいと思います。
経済部記者
大江麻衣子
2009年入局
水戸局、福岡局を経て現所属