食べ歩きが迷惑行為に?観光マナーや渋滞…現地の思いは

これからの秋の行楽シーズン、観光地へのお出かけを考えている人も多いと思います。ただ、実はいま観光地で旅行者のマナーや交通渋滞などが問題となるケースも増えているんです。

私たち旅行者は観光地でどうふるまえばいいのか。そして観光地で新たに導入が進む対策と現地の人たちの思いを取材しました。

ここは観光地じゃなくて、住宅地

神奈川県鎌倉市の海岸に近い、江ノ島電鉄の踏切は、公開された映画が大ヒットした人気漫画『スラムダンク』のアニメ版に登場する「聖地」として、連日、多くの観光客が訪れています。

映画は海外でも人気を集め、30日の午前中に取材した際には、中国や韓国など外国からの観光客の姿が目立ちました。多い時には、100人以上が見物に来る時間帯があるといい、車道に出て車の往来を妨げたり、住宅の周辺にゴミを放置したりするケースもあるということです。

45年前から近くに住んでいる白井誠一さんは、「旅行者を排除する考えはありませんが、ここは観光地じゃなくて、住宅地ということを十分理解してほしいです」と話していました。

「食べ歩き」が迷惑行為に?

鎌倉駅近くの商店街では、若い観光客を中心に「食べ歩き」を楽しむ人の姿が多く見られました。

この食べ歩きについて、鎌倉市では新型コロナ拡大前の2019年に制定した公共の場所でのマナーに関する条例の中で、混雑した場所での「迷惑行為」として位置づけ、「住民や滞在者は行わないように努める」と規定しています。

それでも「食べ歩き」の客向けの店はむしろ増えているといい、商店街でのゴミのポイ捨てのほか、店の営業を妨げたり、観光客同士のトラブルにつながったりするケースもあるということです。

小町商店会の今雅史会長は「コロナを経験したので、人が増えてくれることはありがたいが、食べ歩きが行儀が悪いと思う市民もいるし、小町通りの歴史的、文化的な背景を踏まえた時にふさわしいのかと指摘する人もいるので、それに対して何らかの形でおもてなしにもなるようなマナーの啓発活動が必要だと考えている。ごみは思い出と一緒に持って帰ってほしい」と話していました。

深刻な渋滞に「ロードプライシング」導入も検討

鎌倉市の中心部では観光客の増加を背景に、特に休日、交通渋滞が深刻になっています。

バスや緊急車両の通行などにも影響が出ているということで、市は、市街地に向かう車から通行料金を徴収する「ロードプライシング」の導入も検討しています。

市街地につながる道路10か所ほどにポイントを設け、休日や祝日の日中の時間帯に課金する案が検討されていますが、技術的な課題などもあって、国内の一般道路でこうした施策を実施している例はなく、いまのところ実現の見通しは立っていないということです。

宮島では訪問税導入 「訪問者と一緒に島を守る財源に」

一方、世界遺産の嚴島神社がある広島県の宮島では、島を訪れる人から税を徴収する宮島訪問税が1日、スタートしました。島の住民や通勤・通学の人など一部をのぞいて、1回の訪問あたり1人100円の宮島訪問税が徴収されます。

1日、島の対岸にある宮島口のフェリー乗り場では、宮島を訪れる人たちが運賃に訪問税が上乗せされた乗船券を購入し、フェリーに乗り込んでいました。

訪問税の徴収を始めた廿日市市では今年度は1億400万円の税収を見込んでいて、税収は、多くの観光客が訪れることによって必要となる
▼トイレや旅客ターミナルの維持管理や、
▼電柱の地中化をはじめとする町並みの整備などにあてることにしています。

廿日市市宮島企画調整課の向井俊二課長は「税をいただく重みを深く認識して、訪問者の方々と一緒に宮島を守る財源として活用していきたい」と話していました。

市によりますと、ことし宮島を訪れた人の数は8月末までで293万人余りとなっていて、新型コロナの感染拡大前の9割ほどまで回復しているということです。

専門家「何かを強制はなじまない 地道な取り組みを」

観光地に旅行者が集中することで弊害が起きる「オーバーツーリズム」の問題に詳しい日本総研の高坂晶子主任研究員は「日本にとって観光は今、残された数少ない成長分野といえるが、観光地の住民の生活が脅かされたり、自然や景観が破壊されたりすることは防がなくてはならず、対策が求められる。観光というのは自由に人が楽しむ活動なので、即効性がある対策は見いだしにくく、何かを強制する方法もなじまない。個別の問題に対し、啓発などの地道な取り組みを続ける必要がある」と話しています。