“核のごみ” 処分地調査受け入れず 長崎 対馬市長が表明

原子力発電で出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分地選定をめぐって、第1段階にあたる「文献調査」を受け入れるかどうか議論が続いている長崎県対馬市の比田勝尚喜市長は、27日、市議会で、調査を受け入れない意向を表明しました。

「核のごみ」は最終処分場を設けて地下300メートルより深くに埋めることが法律で定められていて、処分地の選定に向けては3段階で調査を行うことになっています。

このうち第1段階にあたる「文献調査」の受け入れをめぐって対馬市議会は今月12日、賛成派の団体が出していた受け入れの促進を求める請願を10対8の賛成多数で採択しました。

文献調査に応じるかどうかは最終的に市長が決めることになっていますが、比田勝市長は、27日、最終日を迎えた市議会で、「議会の採択を重く受け止めながらも市民の将来に向けて熟慮した結果、『文献調査』を受け入れないとの判断に至りました」と述べ、調査を受け入れない意向を表明しました。

比田勝市長「合意形成が不十分 風評被害のおそれも」

理由について比田勝市長は受け入れの是非をめぐってそれぞれの主張による市民の分断が起こっていて、合意形成が不十分なことや、市役所などに寄せられる意見を踏まえると風評被害は少なからず発生すると考えられ、特に観光業は韓国人観光客の減少など大きな影響を受けるおそれがあることなどを挙げました。

その上で、「双方とも対馬市の将来を考えての議論であったと思う。私としてはこの見解をもってこの案件に終止符を打ちたい」と述べ、「核のごみ」をめぐって意見が分かれた市民が一体となるような施策を講じていく考えを示しました。

市議会の閉会後、市長は…

今回、議会の採決と自身の判断がねじれたことについて「対馬市で生活する市民や対馬で育つ子どもたちの将来を考えたうえで議会に反する結果となった。今後、議会には丁寧に説明をした中で理解を求めていきたい」と述べました。

そのうえで「受け入れないという表明を持って終止符を打ちたいと思っている。これ以上、市民の分断を深めたくない。いま現在、名案を持ち合わせていないがこの分断を収めたいという気持ちを強く持っている」と述べて今後、改善に取り組む考えを示しました。

市民からはさまざまな声が

80代の女性
「私は反対だったので市長が反対してくれてよかったなと思います。キレイな海が汚れてしまったら漁師たちが困ると思います」

40代の男性
「日本は核というものにシビアなので対馬に核を持ち込んで欲しくないというのが正直な気持ちです」

60代の男性
「このままでは対馬の人口は減る一方で最終処分場が誘致できれば特に建設業界は潤うと思う。市長の意見だけにこだわる制度がおかしくて、住民投票が1番いいと思う」

「核のごみ」=高レベル放射性廃棄物含む廃棄物

「核のごみ」は、使用済み核燃料から再利用できるウランやプルトニウムなどを取り除いたあとに残る、高レベルの放射性物質を含む廃棄物です。

原子力発電所では運転に伴い使用済み核燃料が発生し、日本ではこれらを再処理してプルトニウムとウランを取り出し再び燃料として利用する「核燃料サイクル」を原子力政策の柱としています。

この再処理の過程で残る再利用できない放射性物質を含む廃液を、ガラスと混ぜて固めたものが高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」です。

「ガラス固化体」とも呼ばれ、作られた当初は人が近づくと10数秒で死に至るレベルの極めて強い放射線を出すほか、寿命の長い放射性物質を含むことから、人の生活環境から数万年にわたり隔離する必要があります。

このため国は法律を作って、地下300メートルより深い地中に埋めることにしていますが、その場所の選定が進まない状況が続いてきました。

青森県六ヶ所村の再処理工場で保管されている核のごみ オレンジ色のふたの下に収納されている

処分地の選定プロセス 20年程度かけて

「核のごみ」は、地下300メートルより深くに埋める「地層処分」を行うことが法律で決まっていて、処分地の選定に向けた調査は20年程度かけて3段階で行われます。

段階に応じて対象の自治体には交付金が支払われ、「文献調査」で最大20億円、「概要調査」では最大70億円です。

「文献調査」は、事業を担う国の認可法人、NUMO=原子力発電環境整備機構が行う公募に応じるか、国の申し入れを受け入れることで始まります。

公募をめぐる全国の動き

公募をめぐっては、法律ができた2000年代以降に鹿児島県や長崎県、秋田県などの自治体で勉強会を開くなどして応募を検討する動きがありましたが、それが表面化するたびに住民や周辺自治体などから反発を招き、断念するケースが続きました。

2007年には、高知県 東洋町が全国で初めて調査に応募しましたが、賛成派と反対派の対立のすえ、その後の選挙で町長が落選し調査が始まる前に応募は撤回されました。

その後、2011年の東京電力福島第一原発の事故などを経て、調査の受け入れが表立って議論される機会はなくなっていきました。

このため政府は、2017年に、文献などをもとに火山や活断層の有無などを確認し、調査対象の有望地を色分けして示した「科学的特性マップ」を公表して、全国で説明会を開くなどして改めて調査への理解を求めてきました。

こうした中、3年前に北海道の寿都町と神恵内村が調査受け入れを決め、この2つの町と村を対象に第一段階の「文献調査」が全国で初めて進められています。

北海道からは調査増加を望む声

寿都町と神恵内村を対象に3年前から始まった文献調査はまとめの段階に入っていますが、地元からは最終処分地の選定が「北海道だけの問題」とならないよう全国的に関心を広げることを求める声が上がっています。

今後、文献調査の報告書がまとまれば、NUMOが次の段階の概要調査の計画を策定することになりますが、この調査に進むには地元の町村長と北海道の知事から同意を得る必要があります。

ただ、北海道以外で調査が行われていない現状に、地元の住民の間ではなし崩し的に処分地に決まってしまうのではないかといった懸念が根強く、全国で議論すべき問題が北海道だけに押しつけられているという声が上がっています。

寿都町の片岡春雄町長は、現状では冷静な議論ができず、町民向けの勉強会や意見を問う住民投票などが実施できないとして、北海道以外で調査を行う自治体を増やすことを求めています。

道の条例などを理由に調査に反対の姿勢を示している北海道の鈴木知事は、「最終処分の問題は北海道だけで考える問題ではない。」などと述べて、全国的に議論すべき問題だと訴えています。

こうした状況を踏まえて、政府は、ことし4月に最終処分の実現に向けた取り組みの基本方針を改定し、新たに北海道以外の自治体でも調査を実施することで、全国的に理解を促進するとしていました。

NUMO「理解活動を推進し事業実現に努める」

27日、対馬市長が調査を受け入れない意向を表明したことについて、NUMOは「市長が熟慮された上でのご判断と受け止めている。そうした判断についてコメントは差し控えたい」としたうえで、「NUMOとしては、全国の自治体から文献調査を受け入れていただけるよう、国および事業者と連携して全国各地での理解活動を推進し最終処分事業の実現に向けて努めていく」とコメントしています。

松野官房長官「建設地の選定 地域の声に向き合う」

松野官房長官は27日午後の記者会見で「対馬市において『文献調査』に関心を示していただき、検討を重ねていただいたことはありがたいことだと受け止めている」と述べました。

その上で「最終処分施設の建設地の選定は地域の理解なくして進めることはできず、地域で多様な観点からさまざまな議論を丁寧に重ねていくことが重要だ。地域の声にしっかりと向き合い、丁寧にコミュニケーションをとりながら、理解をさらに深めていただけるよう取り組んでいく」と述べました。

専門家 “今後の検討地域の議論に影響も”

「核のごみ」の最終処分に関する国の審議会で長年、委員を務めている東京電機大学の寿楽浩太教授は「調査地域の拡大を目指してきた国やNUMOは今回の判断を落胆をもって受け止めているかと思う」としたうえで「調査を検討する地域が増えれば増えるほど、今回のような判断が出ることはより一般的になってくるので、対馬の皆さんが話し合って難しい判断をしてくれたことに敬意をもって接する姿勢が求められるのではないか。今回、結論が示されたからおしまいとせず、市長をはじめ地域からの意見を今後の政策に生かすべく振り返る姿勢が求められる」と指摘しています。

「文献調査」について国は、調査の受け入れ自体は、処分場の建設には直結しないとして、調査を進めながら理解を深めてもらいたいとしてきましたが、今回、対馬市の比田勝市長は『調査を受け入れるということは結果によっては処分場を受け入れる』という前提で決断すべきだと考えたと話しました。

寿楽教授はこの発言に注目し「この2つの考え方にはかなり大きな違いがあり、それが浮き彫りになったことは今後、調査の受け入れを検討する地域での議論にも一定の影響を与えることになるのではないか」と話しています。

いっぽう、調査が先行する北海道の地元では調査地域の拡大を求める声があったことについて「今回は調査地点が増えず、北海道の関係者は残念に受け止める向きもあるのではないかと思う。国とNUMOには、北海道の2つの町と村での調査を、公正かつ技術的な裏付けのある形で完了させて、地域の皆さんが判断できるよう必要な情報提供などしっかり環境面で支援をする、全力を尽くすということが求められる。まずは調査地点の拡大を一旦切り離して、しっかり取り組むことに尽きる」と話しました。