社会

“戸籍の性別変更に手術必要”は憲法違反か 27日最高裁で弁論

性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには生殖能力をなくす手術を受ける必要がありますが、その要件が憲法違反かどうかを判断するため、最高裁判所は27日、当事者の主張を聞く弁論を開きます。最高裁はこれまでこの要件を「合憲」としてきましたが、弁論を踏まえて、新たな憲法判断を示す可能性があります。

性同一性障害の人の戸籍上の性別について定めた特例法では、生殖機能がないことなど複数の要件を満たした場合に限って性別の変更を認めています。

この要件について、戸籍上は男性で女性として社会生活を送る当事者が、「手術を強制するのは重大な人権侵害で憲法に違反する」として、手術を受けていなくても性別変更を認めるように家庭裁判所に申し立てました。

家裁と高等裁判所は認めませんでしたが、最高裁判所は27日、弁論を大法廷で開くことを決めました。

弁論では当事者側が裁判官の前で主張を述べる予定です。

大法廷で審理 新たな憲法判断の可能性

最高裁は4年前、別の人の申し立てで手術の要件について、「憲法に違反しない」という判断を示しましたが、今回は前回と違い、15人の裁判官全員による大法廷で審理され、当事者の主張を聞く弁論を開くことなどから、新たな憲法判断が示される可能性があります。

最高裁は年内にも判断を示すとみられます。

規定の撤廃求める当事者などが会見

27日の弁論を前に、規定の撤廃を求める性同一性障害の当事者や医師などが会見を開きました。

26日、会見を開いたのは、性同一性障害の当事者やその支援者などで作る全国組織「LGBT法連合会」です。

手術を受け戸籍を男性に変更

生まれたときの戸籍上の性別は女性で、その後、性別適合手術を受けて男性に変更した木本奏太さんは「200万円という高額なお金を払って体にメスを入れ、子どもを残せないようにすることが戸籍を変える条件だと知ったときは絶望に近い感情だった。不妊化の要件がなく、戸籍を変更できる環境であれば手術はしなかったと思う。自分の体のあり方は国やほかの誰かが決めることではない。自分が望む性で自分らしく生きられる社会が前提であってほしい」と話していました。

戸籍は女性 男性として社会生活

戸籍上は女性で、男性として社会生活を送る杉山文野さんは「自分と向き合った結果、子宮や卵巣を取る手術はしていない。ホルモン投与で見た目もだいぶ変わったが、トランスジェンダーを理由に就職を断られたり、パスポートの表記と見た目が合わずに入国拒否にあったりと、戸籍上の性別が合わないとトラブルになることに変わりはない。自分の意思で手術を望む当事者に対しては選択肢があるべきだが、望んでいない人にまで手術を強いる形になっている今の法律は人権侵害だと感じる」と訴えました。

性同一性障害学会理事長「選択できる状況にすることが重要」

性同一性障害学会の理事長を務め、医師として当事者の診療にあたっている岡山大学の中塚幹也教授もオンラインで会見に参加し、「多くの当事者と接していて、手術をしたい人もいれば、したくないという人、医学的にできない人などさまざまな状況の人がいる。手術をするかどうか選択できる状況にすることが重要だ」と指摘しました。

戸籍の性別変更を認める要件は

2004年に施行された性同一性障害特例法では戸籍の性別変更を認める要件として、
▽18歳以上であること
▽現在、結婚していないこと
▽未成年の子どもがいないこと
▽生殖腺や生殖機能がないこと
などを定めていて、すべてを満たしている必要があります。

最高裁 4年前の判断“憲法に違反しない”

この要件のうち、▽生殖腺や生殖機能がないことは実質的に手術が必要とされますが、最高裁判所は4年前の1月、「変更前の性別の生殖機能によって子どもが生まれると、社会に混乱が生じかねないことなどへの配慮に基づくものだ」として、4人の裁判官全員一致で憲法に違反しないと判断しました。

ただ、4人のうち2人は「手術は憲法で保障された身体を傷つけられない自由を制約する面があり、現時点では憲法に違反しないが、その疑いがあることは否定できない」という補足意見を述べました。

去年までに1万1919人が性別変更

司法統計によりますと、2004年に特例法が施行されてから去年までに全国の家庭裁判所で1万1919人の性別変更が認められました。

当事者や支援者で作る団体などは手術を必要とする規定について、「人権侵害の懸念が極めて強い」として、撤廃など抜本的な見直しを行うよう求めています。

一方、別の個人や団体からは「手術要件は社会に信頼されるためで、要件がなくなれば混乱が起きる」などとして懸念を示す声もあります。

手術の必要・不要 各国で対応分かれる

法律上の性別の変更について、生殖能力をなくす手術を受ける必要があるかどうかは各国で対応が分かれています。

性的マイノリティーの人たちを取り巻く状況を調査している「ILGA=国際レズビアン・ゲイ協会」のまとめによりますと、国連加盟国のうち、性別を変更するために性別適合手術や不妊手術が必要とされる国は少なくとも18か国あるということです。

一方、自身の申し出で性別を変更することが可能な国は少なくとも17か国となっています。

アルゼンチン

2012年に世界で初めてとされる、自身の申し出により性別の変更を可能にする法律が制定され、南米のほかの国でも手術を必要としない同様の法律の制定が広がる。

デンマーク

ヨーロッパでは2014年、デンマークが性別を変更する際に必要としていた手術や診断など医学的な条件をすべて撤廃。

ハンガリー

性別適合手術を必要とせず、診断のみで性別の変更が可能とされていたものの、2020年に性別を変更すること自体が認められなくなる。

WHOは“強制や本人にとって不本意の手術”に反対

生殖能力をなくす手術についてWHO=世界保健機関は「トランスジェンダーの人たちの中には医学的な性別の変更を求める人もいれば、そうではない人もいる」としていて、手術が他者からの強制や本人にとって不本意なまま行われることには反対の立場を示す声明を発表しています。

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