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涙のジャージ授与式 ラグビー日本代表 アマト・ファカタヴァ
ラグビー日本代表には、多くの外国籍の選手がいる。彼らは、日本選手と同じように日本代表への熱い思いを持っている。それがチームの一体感を生んでいる。トンガ出身のアマト・ファカタヴァ選手は、あの日、涙を流していた。
(スポーツニュース部 記者 小林達記)
【詳しくはこちら】アマト・ファカタヴァ選手とは
涙のジャージ授与式
7月21日。
翌日行われるサモアとのテストマッチを前に、選手たちはホテルの1室に集まっていた。
今シーズン初のテストマッチが行われる前に、初キャップを獲得する選手たちにジャージが授与された。
アマト・ファカタヴァ選手、長田智希選手、福井翔大選手、ジョネ・ナイカブラ選手の4人がジェイミー・ジョセフヘッドコーチに呼ばれて前に出た。
そして、選手の家族からサプライズのメッセージ動画が流された。
ファカタヴァ選手には、妻や子ども、親戚、そして母親からのメッセージが届いた。
「日本代表初キャップおめでとう。あなたのことを本当に誇りに思うし愛しています。なかなか会えないけど日本代表として出場するところを見ています。愛してるよ」
「アマト Let’s go」
最愛の家族からの愛情こもったメッセージに、ファカタヴァ選手は人目をはばからず涙した。
そしてこう語った。
アマト・ファカタヴァ選手
「自分は本当にこんなに感情的になる人ではないです。でも家族からのメッセージを見たときに(家族が)自分に力を与えてくれました。自分の人生、将来、家族のためにと思っています。あすは自分にとって特別な日になります。試合に出ることは自分にとって本当にいい機会だと思ってます。あすは自分のベストを出すつもりです。日本を代表して全員を幸せにしたいと思います。あすはみんないっしょに頑張りましょう」
トンガに生まれ、2015年に留学生として日本にやってきた。
右も左もわからないところからのスタートだったが、8年かけて日本代表の桜のジャージをつかんだ。
ファカタヴァ選手が、勇敢な桜の戦士「ブレイブ・ブロッサムズ」になった瞬間だった。
けがからの復帰を果たして
その後、ファカタヴァ選手がさらに家族への思いを強くする出来事が訪れる。
テストマッチで活躍し、ワールドカップに臨む33人のメンバー入りをつかみかけていたやさき、国内最後のテストマッチとなったフィジー戦で左足の裏を痛めてしまったのだ。
当時、医師が下した診断は全治2か月。
「ワールドカップに間に合わないかもしれない」
不安が頭をよぎった。
ジョセフヘッドコーチも復帰が遅れることを心配していた。
一方で、ファカタヴァ選手の潜在能力を高く評価し、日本に欠かせない戦力だと考えていた。
33人の代表メンバー入りはいったん見送られ、ファカタヴァ選手は、バックアップメンバーとしてヨーロッパ遠征に同行しながら、けがの回復を待つことになった。
その間、支えになったのが、家族の励ましだった。
アマト・ファカタヴァ選手
「けがをしてしまいワールドカップに行けないと思ったが、しっかり自分のできるリハビリをやってきました。その中で家族の支えがたくさんあったからこそ戻ってこられたと思っています。ここにいることは自分にとってすごく意味のあることだと思います」
初戦で2トライの活躍
その後、必死のリハビリを経て、驚異の回復力を見せ、全治2か月と言われながら、わずか1か月足らずでワールドカップの日本代表に加わった。
大会への最終登録期限となる8月28日にメンバー変更で選出された。
そして初戦のチリ戦に先発出場した。
背番号「5」のロックは、けがをする前のように躍動した。
持ち味の突破力で2つのトライを決め、この試合で最も活躍した選手に選ばれた。
試合後のインタビューで、ファカタヴァ選手自身が「信じられない」と語る活躍ぶりだった。
日本が入った1次リーグのプールDは混戦となっていて、決勝トーナメント進出をかけた緊迫の戦いが続く。
日本が次に対戦するサモアは、ファカタヴァ選手が初キャップを獲得したときと同じ相手。
涙を流して代表の重みをかみしめたあの日から、さらに成長した姿を見せる決意だ。