NTT法見直し 活発化する議論の行方は

NTT法見直し 活発化する議論の行方は
NTT法をめぐる議論が活発になっている。自社への規制の見直しが必要だと主張するNTTに対し、競合他社のKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社が反発する構図に。そもそもNTT法とは?なぜ今、見直し議論なのか?論点を整理するとともに今後の展望を探る。
(経済部記者 谷川浩太朗、山根力、名越大耕、西潟茜子)

本格化する見直し議論

「NTT法が廃止されるというような記事が出て、私は本当に恐怖感を覚えました」

9月12日、総務省で開かれたNTT法の見直しに向けた審議会で、楽天モバイルの三木谷浩史会長はこう切り出した。

この日の審議会には、三木谷会長のほか、NTTの島田明社長、KDDIの高橋誠社長、ソフトバンクの宮川潤一社長の4人が出席していた。
NTT法は、国内の通信市場を独占してきた日本電信電話公社が1985年に民営化されることに伴って作られた。新規参入の事業者との間での公正な競争を促すために一定の規制をかけることが目的だった。

審議会のヒアリングでNTTを除く3社のトップは、見直しの内容によっては公正な競争環境が損なわれる懸念があるとして慎重な議論を求めた。

論点1 携帯事業に欠かせない光ファイバー

NTT法の見直しに懸念を示す3社がそろって主張するのは、携帯電話事業に欠かせない全国の光ファイバー網の取り扱いだ。
携帯基地局と各社の局舎などを結ぶ光ファイバー回線は、NTT東西が国内シェアの74%を占めている。携帯各社はこの回線をNTT東西から借り受けて携帯サービスに利用している。

現在、NTTグループの再統合はNTT法によって規制されているが、仮にNTT法が見直され、NTT東西とNTTドコモが統合する余地が生まれれば、光ファイバー回線の提供でドコモが優遇される可能性があるとして、競合する3社は懸念を強めている。

このため3社は、NTT法を見直すならば、光ファイバー網などの通信インフラを国有化も含めてNTTから切り離すよう求めている。

この懸念について、NTTの島田社長は次のように否定する。
NTT 島田社長
「NTT東西を統合する余地は与えて欲しいが、さらにドコモまで一緒になれば光ファイバーを公正に提供する義務を果たせなくなる可能性があり、それはありえない。(各社が求める光ファイバーの国有化や分離については)将来の通信インフラを高度化させるためには、われわれがやったほうが絶対にうまくいく。実績も踏まえてご評価いただきたい」

論点2 NTTの国際競争力強化を規制が阻害?

さらに、論点となっているのはNTTの国際競争力の強化だ。

世界に目を向ければ、AIやクラウドなど新たな分野でのグローバルな競争も激しさを増していて、NTT法の制定当時には想定もされなかった状況が生まれている。
多額の研究開発費を投じるアメリカの巨大テック企業などに対し、NTTの存在感は低下しているが、NTTはこうした課題の解消には、NTT法の見直しが必要だと主張する。

NTT法では、NTTの責務として「研究開発の推進や普及」が規定され、NTTはこの規定によって研究成果の情報開示義務を負っている。

光の技術を使った次世代の通信ネットワーク「IOWN」に関連する技術をはじめ、世界的にも優位性がある技術を持つとされるNTTだが、このNTT法の規定を根拠に、海外の政府機関や企業などから情報の開示を求められる可能性や、公平な情報の開示義務の観点から、パートナー企業に十分な情報提供ができないケースも想定され、国際競争力を阻害しているとNTTは主張する。

しかし、他社はこうしたNTTの主張は的外れだと反論する。
ソフトバンク 宮川社長
「時代にあわないものがあれば見直してもよいが、NTT法を撤廃することがなぜGAFAMに対抗することにつながるのかわからない。そもそもNTT法を変えたところでNTTはGAFAMには勝てない」
楽天モバイル 三木谷会長
「NTT法で定められた情報開示によって国際競争力がなくなるというのは、法律を改正するための言い訳にしか見えない」

論点3 固定電話はユニバーサルサービスか?

NTT法の見直しの必要性を主張するNTTと、慎重な議論を求める競合他社。

一方で、日本の情報通信を取り巻く環境が大きく変化しているのも事実だ。とくに通信手段の主体が固定電話から携帯電話に変わり、生活のあらゆる場面に通信を活用したサービスが入り込むようになった。

NTT法では、NTTに対して固定電話などのサービスを全国であまねく提供する、いわゆるユニバーサルサービスを義務づけている。

しかし、法律が制定されたおよそ40年前と比べて、固定電話が必ずしも生活に必要ではなくなっている。
実際、昨年度末(2022年度)時点の固定電話の契約件数は1210万件と、ピークだった1996年度末の6145万件に比べて5分の1に減り、数年後には1000万件を下回るとされている。

NTTは、法律で責務とされた固定電話や公衆電話などのユニバーサルサービスの提供を続けているが、老朽化した設備の維持コストなどもかさみ、2022年度の関連事業の赤字額はNTT東西あわせて580億円にのぼり、今後も増え続ける見通しだ。
こうしたなか、NTTは法律の見直しを求めている。

何が国民に不可欠なサービスかを改めて検討する必要があるとして、固定電話に限らない方法や事業者全体で効率的にサービスを確保する仕組みも含め、より利便性の高いユニバーサルサービスを目指すべきだと主張する。

これについては、競合他社も意見が分かれている。

ソフトバンクは「電話の全国提供義務は今の時代にそぐわない」という考えのほか、KDDIは「国民の利益のために電話サービスをあまねく提供する義務は維持すべき」、楽天モバイルは「(ユニバーサルサービスについては)今後議論が必要だ」という立場だ。

見直し巡る議論 山場は11月か

総務省の審議会は、NTT法と関連する電気通信事業法の見直しについて、来年夏ごろをめどに答申をまとめることにしているが、各社が照準を定めている日程は別のところにある。

「総務省の審議会もあるが、大枠は11月で結論が出るだろう」(通信大手 幹部)

NTT法をめぐって、自民党は、防衛費増額の財源を賄うため、政府が保有するNTTの株式の売却を含め法律のあり方について検討を進めている。
自民党はことし11月をめどに政府への提言をまとめることにしているが、審議会より先行するこの会議での結論が今後の議論の流れを決定づけるとみているからだ。
実際、鈴木総務大臣も9月15日の記者会見で「来年夏ごろをめどに答申を希望しているが、議論を進める中で早期に方向性が得られるものについては、すみやかに必要な見直しに取り組んでいきたい」と述べ、議論を急ぐ考えを示している。

NTT法の見直しに反対するある通信大手の幹部も「政府がNTTの株式を売却するかどうかはわれわれが口を出す話ではないが、10月には自民党の作業チームで各社のヒアリングが行われるはずだ。今の議論は考え方が違うとしっかりと主張する」と、今後の自民党の議論の行方を注視する。

利用者目線で丁寧な議論を

長年にわたり国が独占してきた日本の通信市場は、1985年に日本電信電話公社が民営化されNTTが発足したことで自由化された。

NTT法は、公社時代のインフラなどを引き継ぎ大きな力を持つNTTと、新規参入の事業者の間で国内の自由な競争を促すことを目的につくられた法律で、競合他社は、NTT法の縛りがなくなることで、NTTが再び大きな独占力を持った巨大通信会社になることを警戒している。

市場で自由な競争がなくなれば、料金の高止まりやサービスの質の低下なども懸念され、影響を受けるのは私たち利用者だ。

NTT法の制定からおよそ40年が経過し、通信をめぐる環境は大きく変化し、通信がコミュニケーション手段としてだけでなく、スマホ決済や公共交通機関の支払い、ネット検索や動画視聴、それに仕事の道具など私たちの暮らしのあらゆる分野で不可欠な存在となっている。

いかに公正な競争環境を確保しつつ、NTTの国際競争力を強化するのか。また、経済安全保障の観点から通信事業者に対する外資規制をどう強化していくのか。固定電話中心の現在のユニバーサルサービスをどのように見直し、災害時などでも安定した通信サービスをいかに維持するのか。

私たちの暮らしがより便利になるよう、関係者には利用者目線に立った丁寧な議論が求められている。
経済部記者
谷川浩太朗
2013年入局
沖縄局、大阪局を経て現所属
総務省を担当
経済部記者
山根 力
2007年入局
松江局、神戸局、鳥取局で勤務
NTT、KDDIを担当
経済部記者
名越大耕
2017年入局
福岡局を経て現所属
ソフトバンクを担当
経済部記者
西潟茜子
2020年入局
福岡局を経て、今夏から現所属
楽天モバイルを担当